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「不思議な出会い」

古いものが大好きな靖治(やすはる)は、

今日も骨董市に出かけた。

今使っている筆記用具も、全て年季が入っている。

ボールペンは、必ず替え芯を2本ストックしているぐらい、

とても大切に使っている。

最近、仏像にはまっている靖治は、有楽町国際フォーラムで

開催されている骨董市で目ぼしいものを探そうとしていた。

仏像の慈愛を感じる表情に、とても惹かれていて、

周りの人は、靖治さんその内、出家するのではないかと揶揄するぐらい、

心配しつつも、少し冷ややかな眼差しで見ていた。

あと、金剛力士像もとてもお気に入りの仏像の一つで、

阿吽の呼吸を左右対で揃えて床の間に飾って、眺めたいと考えていた。


仏像彫刻は、とても奥が深くここでは語り尽くせないので、

話を骨董市の場面に進めたいと思います。


さて、今日も骨董市には様々なものが出品されている。

「あるかな」

ブツブツと独り言を呟きながら、物色していると、

ふと目に止まったものがあった。

「あっ!」 びっくりして思わず、体がのけぞってしまった。

自分に、そっくりな仏像が並んでいた。

しかも、何故だかとても幸せな表情を浮かべた、木彫りの立像だった。

出店者と話をしようと探してみたが、見当たらない。

もう一度来ようと思って、会場を一巡することにした。

靖治は、色々と見て回ったが、どれもこれも気に入ったものがない。

先程見た、自分にそっくりな仏像が、脳裏に焼き付いて離れない。

また、さっきのところまで戻ってきた。

出店者がいたので、声を掛けることにした。

「あの、すみません」「この仏像、どこで手に入れられたのですか?」

出店者は、顔立ちの整った色白の女性だった。

靖治の質問を聞いて、その後、顔をジロジロと眺めてびっくりしたようで、

声が上ずっているように聞こえた。

「えぇあの」「私が彫ったのですが」

「えっ!」靖治は、びっくりした声で大きく頷きながらも、

次の言葉を必死で探していた。

「ご自身が彫られた、いつ頃の話でしょうか」

出店者の女性は、重い口を開きながらも、しっかりとした口調で、

次のように語った。

「夢に出てきまして」「あなたが、夢に出てきた本人だったとは」

「その幸せそうな表情が、忘れられなくて」

靖治は、少し涙ぐみながらも話を続けた。

「私が夢に出てきた本人?!」 「そんなはずはない」

一通り話をしたかと思えば、二人共意気投合したようで、

その後、途切れることなく延々と話が続けられた。

気がつくと、あっという間に辺りが暗くなり、他の出店者たちは、

後片付けをしていた。


話の最後の方で、

「この仏像、買います」って、靖治は言った。


「いや、売りたくないです」と、出店者の女性が言い返した。



その後、どうなったのかは、誰も知る由もない。


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