マガジンのカバー画像

キミの世界線にうつりこむ君 第三章

13
第三章をまとめています(星崎碧編)
運営しているクリエイター

記事一覧

連載小説『キミの世界線にうつりこむ君』第四十一話 わたしは“わたし“で

連載小説『キミの世界線にうつりこむ君』第四十一話 わたしは“わたし“で

驚く星崎を前に、語りかける榛名。

「星崎会長の話を途中で遮るようで申し訳ありません。新聞部の榛名つかさと申します。少しだけ、私からもお話しさせて欲しいことがあります」
星崎と観客に一言断り、さっきまで星崎に向けられていた視線は榛名に集まる。

「私は星崎会長のファンで、今回新聞部では星崎会長について特集することになり、取材を行う予定でした。
その最中に、生徒会劇の配役決めが行われるという話を聞き

もっとみる
連載小説『キミの世界線にうつりこむ君』第四十話 『ロミオとジュリエット』

連載小説『キミの世界線にうつりこむ君』第四十話 『ロミオとジュリエット』

盛り上がりをみせている水標祭。
行列ができたり、写真を撮っているお客さんがいたりと賑わっている。
そのなかで

「体育館はどこだ・・・」
パンフレットを凝視しながら体育館へ向かおうとする蓮がいた。

「あの・・・体育館ってどこにありますか」
近くにいる白衣の男性に尋ねると

「あれ、碧さんのお兄さんじゃないですか」
声をかけた相手は青野先生だった。

「先日はありがとうございました」
一礼する蓮。

もっとみる
連載小説『キミの世界線にうつりこむ君』第三十九話 水標祭へ向けて

連載小説『キミの世界線にうつりこむ君』第三十九話 水標祭へ向けて

ミンミンゼミの鳴き声が響いている。
夏休みの真っ最中の、体育館では生徒会が『ロミオとジュリエット』の練習をしている。

「さあ、ティボルト、さっき貴様のくれた悪党呼ばわりは、今こそ貴様に返してやる。ーさあ、貴様か俺か、どっちかがマキューシオと道連れだ、いいか」
ロミオ役の星崎が威圧感のあるセリフを言うと

「この青二才めが、どうせこの世で相棒の貴様だ、これからも仲好く行け!」
ティボルト役の関谷が

もっとみる
連載小説『キミの世界線にうつりこむ君』第三十八話 “性別“じゃないキミ

連載小説『キミの世界線にうつりこむ君』第三十八話 “性別“じゃないキミ

校舎がオレンジ色に染まっていくなか、生徒会室ではみんなが揃っている。
その後ろには片山先生も静かに見守っている。
一人一人を見渡しながら、ふーっと深く息を吐いてから星崎が口を開く。

「わたしは、どっちかに決められない。いや、決めたくないの。

男性でも女性でもどっちでもあるのがわたしだって思ってる。それでも、みんなと関わっていくなかでいつも“性別“の問題にぶつかる。
その度にわたしはどっちかを選

もっとみる
連載小説『キミの世界線にうつりこむ君』第三十七話 弱さと覚悟

連載小説『キミの世界線にうつりこむ君』第三十七話 弱さと覚悟

 待合室のベンチで、うなだれている蓮。

「あの、もしかして星崎さんのお兄さんですか」
片山先生が声をかける。

「あっ、そうです。えっと、どなたですか」
目の前にいる人物をじっと見つめる。

「はじめまして。水標中学で理科を担当している片山はじめと申します。先ほど、碧さんの方お見舞いに伺わせていただきました」
丁寧に自己紹介する。

「あ、先生でしたか。いつも碧がお世話になっています。碧の兄の蓮

もっとみる
連載小説『キミの世界線にうつりこむ君』第三十六話 後悔

連載小説『キミの世界線にうつりこむ君』第三十六話 後悔

 衝撃的な事件から一夜明け、職員室では職員朝礼が行われていた。
それぞれが連絡事項を挙げていき、最後に青野先生が挙手する。

「星崎碧さんですが、幸い命は取り留め、現在は入院中です。復帰は来週になる予定ですので、よろしくお願いします」
報告を済ませ、職員朝礼は終わりとなった。
それと同時に片山先生が青野先生に駆け寄り、

「星崎さん、大丈夫ですか?」
星崎の様子を尋ねる。

「ええ、昨日の昼過ぎに

もっとみる
連載小説『キミの世界線にうつりこむ君』第三十五話 隣にいる君

連載小説『キミの世界線にうつりこむ君』第三十五話 隣にいる君

「わたしは、どっちにもなれない。
可笑しいですよね。世界ははっきり決まっているのにわたしはそれにすら染まれない・・・」

意を決して本音を少しずつ漏らしていく碧。

「それは『ロミオとジュリエット』でも同じだったんだな」

耳を傾ける青野先生の言葉に

「そうですね。吹奏楽部のみんなはロミオ役、生徒会はジュリエット役。どっちかを選ばなきゃいけない、ならなきゃいけない。
そう考えたらわたしってなんな

もっとみる
連載小説『キミの世界線にうつりこむ君』第三十四話 誰もが望まないなら

連載小説『キミの世界線にうつりこむ君』第三十四話 誰もが望まないなら

 翌日。夏の暑さが続く日々とは、うって変わり、朝雨が降っている。
いつもの通学路を歩きながら周りを見渡せば、みんな傘を持ち歩いている。

赤、青、黄色・・・。

ふと、自分の透明の傘を見てみる。

(みんな、自分の色があるのに、わたしはどの色にも染まれない・・・)

自分と周りを比べれば比べるほど、出口のない暗闇の中を一人歩いているような気分になる星崎。
暗い表情のまま、昇降口に着き、下駄箱に靴を

もっとみる
連載小説『キミの世界線にうつりこむ君』第三十三話 なりたくても届かない

連載小説『キミの世界線にうつりこむ君』第三十三話 なりたくても届かない

 「ともかく、榛名さんにも話を聞く必要がありますね」
滝川が目配せすると、花森が

「僕、行ってきます!」
榛名を呼びに駆け出していく。
それを待っている間、

「碧。榛名ってこの前、生徒会に取材依頼しに来た人だろ」
関谷がドカッとソファに座る。

「そう。つい昨日、個人的に取材受けたばかりだけど・・・」
星崎が顔を曇らせる。

「何かあったなら言えよ?」
心配してくれる関谷に

「ありがとう、で

もっとみる
連載小説『キミの世界線にうつりこむ君』第三十二話 押し付けられた“姿“

連載小説『キミの世界線にうつりこむ君』第三十二話 押し付けられた“姿“

「笑いませんよ。それよりも、羨ましい。僕はそう思ってしまいます」
まっすぐな瞳で答える片山先生。

「羨ましい・・・?どうしてそう思えるんですか」
つい、思ったことが口から出てしまった星崎に

「何かあったんですか」
心配そうに眉を曇らせる片山先生。

それに

「いえ、ちょっと気になっただけなので気にしないでください」
愛想笑いを浮かべる星崎。

「そうですか。
何かあったらいつでも相談してくだ

もっとみる
連載小説『キミの世界線にうつりこむ君』第三十一話 まわりに合わせられない“わたし“

連載小説『キミの世界線にうつりこむ君』第三十一話 まわりに合わせられない“わたし“

 胸ポケットからスマホを取り出し、メッセージを見る。

ー松島部長、宮野先生の呼び出し、大丈夫でしたか?ー

よほど心配してくれていたようで、つい口元が緩んでしまう。落ち着きを取り戻したのか、ゆっくりと帰路へとついていく。

翌日、1ーAでは騒がしいクラスの雰囲気のなか、ただ一人静かに本を読んでいる月城がいる。次のページをめくろうとする指が

「月城、おはよう!」
朝から元気のいい花森の声によって

もっとみる
連載小説『キミの世界線にうつりこむ君』第三十話 完璧なキミの影

連載小説『キミの世界線にうつりこむ君』第三十話 完璧なキミの影

 無事に生徒会劇の内容が決まったので、生徒会を締めようとした時

「えっと、失礼します。今、大丈夫ですか」
ドアの隙間から誰かが恐る恐る声をかけてきた。

「もう終わるから大丈夫ですよ」
滝川の手招きに促されるように声の主はドアを開け、ゆっくりと生徒会室に入ってきた。

「新聞部の榛名つかさです。生徒会の途中に失礼します。取材の依頼をしたくて・・・」

「取材って俺だよね、仕方ないなあ」

誇らし

もっとみる
連載小説『キミの世界線にうつりこむ君』第二十九話 梅雨の終わり

連載小説『キミの世界線にうつりこむ君』第二十九話 梅雨の終わり

 五月雨祭が終わったのと同時に梅雨の季節が終わり、じわじわと暑さが増している。
変わったことといえば、関谷に対するアウティングをした百合には教育委員会から学校内謹慎が言い渡され、見かけることは減ってしまった。

しかし、そんなことは誰も気にすることなく、昼休みの教室では教科書やノートを使って風をおこし、エアコンからの風を待ちかねている。

「くっそ暑いのにエアコンまだってあり得ねえだろ」
汗を懸命

もっとみる