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連載小説『キミの世界線にうつりこむ君』第三十話 完璧なキミの影

 無事に生徒会劇の内容が決まったので、生徒会を締めようとした時


「えっと、失礼します。今、大丈夫ですか」
ドアの隙間から誰かが恐る恐る声をかけてきた。



「もう終わるから大丈夫ですよ」
滝川の手招きに促されるように声の主はドアを開け、ゆっくりと生徒会室に入ってきた。

「新聞部の榛名つかさです。生徒会の途中に失礼します。取材の依頼をしたくて・・・」

「取材って俺だよね、仕方ないなあ」

誇らしげに榛名の前に堂々と立つが、榛名はキョロキョロと見回した後、関谷の横を通り過ぎていく。

「星崎会長!九月号の水標新聞で星崎会長の特集を組みたいので、取材お願いできませんか」

「え?わたし?」
まさか自分だとは思っていなかったので目を疑う星崎。

「俺・・・じゃないのかよ」
ガックリとうなだれる関谷の後ろで

「星崎先輩って人気あるんですよ」
ひょっこりと顔を出す花森。

「あれ、今年の生徒会劇の内容ですか」
ホワイトボードが目に留まったのか指を差して聞く榛名。

「ええ、まだ誰にも言わないでね」
唇に人差し指を当てる星崎に

「へえ。星崎会長はロミオ様一択ですよ!それ以外考えられないです」
まだ決まっていない配役について意見を挟む。

「まだ配役は決まってない」
月城がサラッと軽く言うと不機嫌そうに口をとがらせる榛名。

「まあまあ、その時まで楽しみに待ってて」
榛名をなだめる星崎。

「とりあえず、生徒会劇のことも含めて特集組む予定で考えますのでよろしくお願いします」
改まって礼をして生徒会室を出ていった榛名。

「じゃあ生徒会終わろうか」



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生徒会が終わり、それぞれ帰っていった。生徒会室にポツンと残り、窓の向こうの空を眺める星崎。

「ロミオとジュリエットか・・・。
家柄のせいで結ばれなかった二人。
もし、家柄じゃなくて性別だったら・・・なんて。
考えてもしょうがないか、わたしはできないんだから」
ホワイトボードを眺めながらつぶやく。

「おい。碧、何やってんだ。帰るぞ」
忘れ物を取りに戻ってきた関谷に声をかけられ、我にかえる。

「今行く!」
大きな声で返事をして、生徒会室の電気を消して窓を閉める。



その頃、新聞部の部室では榛名がソファに寝転がっていた。

「星崎先輩の特集、どんな内容にしようかな」
イメージを膨らませ、あれこれ考えていると

「榛名、入るぞ」
ノックをして新聞部部長である松島陽向(まつしまひなた)が入ってくる。

「松島部長!」
立ち上がり、頭を下げて挨拶する。

「なんか、顔がにやけてるけど嬉しいことでもあったか?」
いつもと違う榛名に気づく松島。

にやけていることを指摘され、思わず両手で顔を隠す。

「ばれちゃいましたか。実は九月の水標新聞で星崎会長の特集を組むことが決まったんです!」
ピースサインを見せて嬉しそうに報告する。


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「おお、星崎のファンだもんな・・・。ただ、取材依頼の以前に、僕は何も聞いていないのだが?」
榛名の勢いに押されそうになるが、勝手な行動を叱責する。

「すみません・・・」
先ほどまで舞い上がっていた榛名が肩をすくめる。

「はあ・・・。やってしまったことは仕方ない、それで進めるしかないな。それで、どうするんだ」
困った表情で向かい側にある丸椅子に腰をおとす。

「それが、生徒会劇の内容を決めているところだったみたいで、スクープつかんじゃいました!」興奮しているのか早口でまくしたてる榛名。

「生徒会劇か、毎年の名物だよな。それで、今年はなんだって?」
前のめりになる松島。

「『ロミオとジュリエット』です」
すぐさま、立ち上がってそばにあったホワイトボードにでかでかと書きこむ榛名。


「シェイクスピアの代表作だね。去年とは傾向がガラッと変わったな」
去年の生徒会劇を思い出しながらそう言う。

「配役はまだ決まっていないみたいなんですけど、私は星崎会長はロミオ様がピッタリだと思うんです!」
語気が強くなる。

「榛名の言いたいことはわかったから落ち着いてくれ」
座るように冷静に促す松島。その一声でソファに戻っていく。

「毎年、八月号がなくて、次は九月号になる予定だから、計画的に取材に行かないとな」
松島がカレンダーを眺めながら今後のスケジュールや取材計画などを確認する。

その様子を見守るように少しずつ陽が沈んでいき、辺りは暗くなろうとしている。


ーーーカッカッカッカッーーー



足音が少しずつ大きさを増して、近づいてくる。

「こら、あなたたち!もう下校時間は過ぎてるわよ、早く帰りなさい」
見回りをしている宮野先生が声を荒げる。その声にビクッとする榛名。

「すみません!」
思ったよりも時間が経っていたことに驚きながらも、慌てて帰り支度をする松島。

雑に荷物をつめ、新聞部室を出た二人。

最後に確認を済ませて鍵を閉めた宮野先生が振り向き

「松島さん、あなたはちょっと残ってもらえるかしら」
キッと睨むように松島を見る。

その様子を見た榛名は
「えっと・・・松島部長。お先に失礼しますね。お疲れさまでした!」
そそくさとその場を立ち去る。


残された松島は心が騒ぐのを抑えるように
「宮野先生、何かありましたか」
そう尋ねる。

「この前、提出してもらった進路希望調査書。どういうことなの」
手に持っていたファイルから抜き取り、目の前に突きつける。



ー特に希望なしー



そう書かれた進路希望調査書を前に無言になる松島。

「松島さん、あなた受験生なのよ?もっと受験生の自覚持ちなさい」
激しく詰め寄る。

「わかりました。もう一度考えてみます」
渋々頷いて受け取る松島。

それを見て安心したのか、宮野先生はくるりと向きを変えて立ち去っていった。


その姿を見つめながら
「夢とかそんなものない僕にどうしろっていうんですか・・・」
吐き捨てるようにつぶやく松島。そんな彼にメッセージが一通届いた。


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