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連載小説『キミの世界線にうつりこむ君』第三十一話 まわりに合わせられない“わたし“

 胸ポケットからスマホを取り出し、メッセージを見る。


ー松島部長、宮野先生の呼び出し、大丈夫でしたか?ー


よほど心配してくれていたようで、つい口元が緩んでしまう。落ち着きを取り戻したのか、ゆっくりと帰路へとついていく。







翌日、1ーAでは騒がしいクラスの雰囲気のなか、ただ一人静かに本を読んでいる月城がいる。次のページをめくろうとする指が

「月城、おはよう!」
朝から元気のいい花森の声によって止まる。

「おはよう、朝から元気良すぎてうるさい」
サラッと毒を吐く月城に

「そんなこと言わないでよ。今日、生徒会終わった後に一緒に帰ろうよ」
気にすることもなく、話し続ける。

「なんで部活がない前提なんですか。まあ、文芸部はありませんけど」

「じゃあ、決まり!」

花森が楽しげにしている様子をクラスメイトが不思議そうに見ている。

「クールな月城にあれだけ話せるの花森さんしかいないよ」

「それな!本当・・・」

そんな会話が繰り広げられていることを二人は知るよしもない。そこへ



ーーーガラッーーー



教室のドアが開き、担任の片山先生が入ってきて、教壇に日誌をおく。それに気づき、生徒たちが自分の席へ戻っていく。

「みんな、おはよう。今日はー」
いつものようにHRが始まる。予定や連絡事項が述べられていくなか、肘をつきながら空模様を眺める月城。




そうこうしているうちにHRはすでに終わっていた。

「月城、HR終わってるよ。ぼーっとして珍しい」
月城の顔の前で手を振って呼びかける花森。

「なんでもない。次の授業、数学だろ」

「数学・・・。今日当てられる日なんだよね。もちろん、答え教えてくれるよね?」
いたずらっぽく言う花森に

「嫌だ。自分で考えろ」

塩対応でかわして席から立って移動する月城。それに肩を落としながらも、月城を追いかけるように花森も教室を出る。


その結果、一時間目の数学の授業では数学担当の教員に

「復習してないのか!」
と大目玉をくらう羽目になった花森。
朝の元気な様子は跡形もなく消え、二時間目にある好きな国語の授業でも落ち込みようは続いていた。



https://onl.la/epRNksp




二時間目が終わり、休み時間になると教室を出て星崎は中庭に向かう。
水標中学の中庭は校舎と校舎の間にあり、自然豊かな緑に囲まれている。生徒からの人気が高い場所の一つでもある。

「今日も風が気持ちいいなあ」
両手を大きく広げながら深呼吸してベンチに座る。そこへ


「星崎会長!今、お時間大丈夫ですか?」
視界を遮るように榛名が前に立つ。

「榛名さん、何かわたしに用事?」
隣を指差して座るように促す星崎。頷きながらゆっくりと座ったかと思えば

「この前に話した取材、今ここでやってもいいですか」
目を輝かせて返事を待っている。

「いいよ。どんなことが聞きたいのかな」
快く受け入れる星崎。榛名がポケットに入れているメモ帳をパラパラとめくって、質問を始める。


「星崎会長はどうして生徒会長に立候補しようと思ったんですか」

「うーん、そうだね。わたしの前に生徒会長をしていた先輩への憧れ。それと、この学校が本当に好きだからやりたいって思えた」
立候補した頃のことを回想しながら答える。

「星崎会長が、この学校を好きだって気持ち本当に伝わってきます。誰からも信頼されていてー」星崎のことを語ると熱くなりすぎて長くなる榛名に

「ありがとう」
嬉しそうな表情になる星崎。

「そういえば、生徒会劇の『ロミオとジュリエット』の配役はあれから決まりました?」

「ううん、まだ決まってないよ」
首を横に振ると

「星崎会長ってロミオ役やりたいとか思わないんですか」

「ちょっとまだ、考え中なんだ」
言葉を濁してかわす星崎に

「星崎会長にはロミオ一択しかないですよ。他の役は合わないです」
自分の意見をはっきり放つ榛名。その言葉を聞き、黙り込む星崎。

胸の中でふつふつと何かが湧き上がるような感情を抑えようと

「ごめん。ちょっと取材はまた改めてもらえるかな」


やんわりと言いながら立ち上がって、その場を去る。その後ろ姿にぽかんとする榛名。

(星崎会長・・・?)

よもや、自分が原因だとは考えていない。



ーーースタスタスターーー




廊下を早歩きする星崎。どこへ向かっているのかすら自分でわからなくなるほどに心がかき乱される。



ーーードンっーーー



正面から来た誰かとぶつかり、尻餅をつく星崎。ゆっくりと体勢を立て直そうと見上げると、ぶつかった相手は片山先生だった。

「星崎さん、前見ましょうか」
苦笑いしながら、立ち上がり、星崎に手を伸ばす。差し伸べられたその手を握り、立ち上がる星崎。

「それで、どうしたんですか。そんなに急いで」いつも落ち着いている星崎ではないことに気づく。



「片山先生は可笑しいって笑いますか?」




「え?」






「花森さんや颯みたいな生き方を」
声を微かに震わせながら星崎が聞く。


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