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2019年の 個人的・ベスト展覧会

 2019年も今日で最終日。2019年に見た展覧会を振り返りたいと思います。

今年足を運んだ美術館・博物館・ギャラリーでの展示は大小合わせて約280展示。2018年は約270展示だったので、ほぼ同じペースでした。

 2019年は「アートってなんだろう?」と、制作・展示・鑑賞というそれぞれの過程について考え直すような展示が印象に残りました。昨年のBEST10では「”人間らしさ”ってなんだろう?」と考えるメディアアート・バイオアートが中心だったので、かなり変化がありました。(その原因については最後に書きます。)

 では以下、個人的な2019年展覧会Best10です。

【1位】 あいちトリエンナーレ2019 (9月)

 今年、展示を見終わった後にもその展示のことを最も考え続けた展示でした。あいトリ2019に関しては「表現の不自由展・その後」展を起点に様々なことがありすぎて、本当に”展覧会として”印象に残るものだったのか?と、考え直しもしましたが、やはりあれだけの作品数がありながら「情の時代」の"3つの情け"のテーマから脱線せず、気づきのある作品が多く、また個人的には、初見の興味深いアーティスト(特にアジアのアーティスト)の作品に出会えたことが大きな収穫の展示でした。

 騒動を通じて、様々なアート関係の方々のスタンスの違い(特に”アート部外者”に対する考え方の違いや、作品や人の見方の公平性)が見えてきたり、自分自身が作品を観るときの態度を見直すきっかけにもなった点でも印象的な展示となりました。

【2位】 目  非常にはっきりとわからない @千葉市美術館 (11月)

 全てのフロアを回って 美術館から出ても「これって全部見られたのかな?」「図録やインタビュー記事が出るまで、自分の中で展覧会が完結できない…」という、「はじまりと終わりがあって、解説のもとで ”安心して見られる” 美術館での展覧会」という、”美術館に対する思い込み”を崩してしまう展覧会でした。

 展示とパフォーマンス、演じる側と観客側といった、通常でははっきりと分かれているはずの領域が曖昧になっていき、展示する側と観る側の役割分担のような”当たり前”のことが崩される一方で、展示する側と観る側の体験の非対称性(日常と非日常)はより明確になっていくことが両立されるのもまた衝撃的でした。

 そういった意味では、岡山芸術交流2019で初めて実際に体験したティノ・セーガル作品(特に「アン・リー」)もそんな ”当たり前” を崩されるものでした。ただ、ティノ・セーガル作品のほうは無理矢理に作品側に巻き込まれるのに対して、目の展示では 内発的に考えるものであった点で、より印象が強いものとなりました。

【3位】 S-HOUSE Museum (11月)

 今年、いくつかのコレクターさんによる展示を見に行くことができましたが、そのような個人のアートスペースの中でも特に印象に残った場所でした。自分が収集した作品を展示するだけでなく、7アーティストと10年単位で契約し、1アーティスト1部屋ずつ、毎年作品をアップデートしていくという手法が非常に印象的でした。さらに、そのアーティストもChim↑Pom、目、毛利悠子さんと、活動から目が離せないアーティストばかり。

 こんな収集の仕方やこんな見せ方があるのか…と驚き、また、オーナーさんご本人ともお話をさせていただき、ここで止まることのない今後の構想も伺い、感銘を受けました。

 SANAAの手がけた住居建築をまるごと使った、柔らかい光の入る展示スペースもとても素敵で、こちらもまた印象的な場所でした。

【4位】 FALSE SPACES 虚現空間 @トーキョーアーツアンドスペース本郷 (10月)

 こちらは、永田康祐さんの連作がとにかく印象的な展示でした。1つ1つは関連もなく”作品”にも見えない製品が、ヘッドホンからの”情報”によって、”作品”に変化し それぞれの関係性が見えてくるのが鮮烈でした。あいちトリエンナーレ2019の作品が良かったので見に行った展示でしたが、あいトリと一部は同じ作品を使いつつも全く違った(そしてどちらも面白い)印象となっていたのもまた面白かったです。

 ”日本と香港のメディア・アーティストの展示”という展示でしたが、地域性を感じる展示ではなく、もっと普遍的な、空間と時間の認識の仕方を、6人6様のメディアで表現するような展示で、伊藤隆介さん、津田道子さんの作品も良かったです。

【5位】 光るグラフィック展2 @クリエイションギャラリーG8 (3月)

 こちらも、展覧会そのものというよりも、展覧会全体をまとめ上げている谷口暁彦さんと原田郁さんの作品が非常に印象的な展示でした。バーチャルな空間に自分で作り上げた風景をスケッチして2次元に写し取る原田郁さんの作品と、現実の展覧会の会場をVRで作成し 展覧会の会場内で見せるという谷口暁彦さんの作品。さらに、谷口さんのVRの中では、実空間では2Dの原田さんの作品の中が3Dになって…という、パラレルに存在する実世界とバーチャールの世界が入れ子の構造になっている、という状態が不思議な展覧会でした。

 谷口さんの作品では、わざわざVR空間で見る必要がないと思い込んでいたものの”常識”を覆される感覚も新鮮でした。

【6位】 塩田千春展:魂がふるえる @森美術館 (6月)

【7位】 縮小/拡大する美術「センス・オブ・スケール展」 @横須賀美術館 (4月)

【8位】 横浜美術館開館30周年記念 Meet the Collection ―アートと人と、美術館 @横浜美術館 (4月)

【9位】 シンコペーション:世紀の巨匠たちと現代アート @ポーラ美術館 (10月)

【10位】 百代の過客Travelers Through a Hundred Ages @アートベース百島 (10月)

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 <BEST10>と言いつつも、良かったポイントは展示ごとに違うので順番がつけ難いし、10個だけでは選びきれない…というのが正直なところ。他には以下のような展示も印象に残っています。

<美術館>

水庭

(水庭 @アートビオトープ那須)

■水庭 @アートビオトープ那須
■『nendo x Suntory Museum of Art| information or inspiration? 左脳と右脳でたのしむ日本の美』 @サントリー美術館
■ 窓展:窓をめぐるアートと建築の旅 @東京国立近代美術館1階 企画展ギャラリー
■板室温泉 大黒屋 倉庫美術館
■大塚国際美術館

<ギャラリー>

イズマイルバリー

(「みえないかかわり」 イズマイル・バリー展 @銀座メゾンエルメス フォーラム)

■「みえないかかわり」 イズマイル・バリー展 @銀座メゾンエルメス フォーラム
■菅俊一展 正しくは、想像するしかない。 @松屋銀座7階・デザインギャラリー1953
■エキソニモ「LO」 @WAITINGROOM
■「佐藤慶次郎の不思議な世界展 『何ごとか?!を求めて』」展 @ギャルリー東京ユマニテ
■メディアアーティスト・落合陽一の世界「質量への憧憬 〜前計算機自然のパースペクティブ〜」 @amana square
■エマージェンシーズ!037 尾焼津早織 「ハイパーフレーミング・コミック」 @ICC

<イベント>

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(Reborn-Art Festival 2019 @牡鹿半島・石巻市街地)

■岡山芸術交流 OKAYAMA ART SUMMIT 2019
■ Reborn-Art Festival 2019 @牡鹿半島・石巻市街地

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 今年「アートってなんだろう?」といったテーマが個人的に印象に残った原因は3つ。

 1つ目は、1年を通じて、S-HOUSE Museum板室温泉 大黒屋 倉庫美術館アートベース百島・Gallery Cafe ULTRAといった、個人コレクターさんの運営するスペースに行き、コレクターさんから直接お話を伺う機会に恵まれたこと。自分で楽しむだけでなく、一方で美術館とは違ったスペースで 展示を行うことの意味について考えました。

 2つ目は個人的な事情ですが、2019年前半は、社内公募制度でアートに関連する事業を立ち上げたいと考えて動いていたこと。(結局最終審査で落選となりましたが…)アーティストや鑑賞者、アートビジネスを行う方など、aアートに関わる様々な立場の方にお話を伺いながら、今のアートには何が必要なのか?そもそもなぜアートは社会に必要なのか?ということについて何度も考えることとなりました。

 そして3つ目は2019年後半、「あいちトリエンナーレ2019」内の「表現の不自由展・その後」展の閉鎖騒動、それを起点としたボイコット、ReFreedom_Aichiの活動を見て、それに関わる方のお話を伺ったり、クラファンに参加したり、ディスカッションに参加したりしながら、アートとは何か?そしてやはり、なぜアートは必要なのか?(それとも必要ではないのか?)ということを考え直すようになりました。

 あいトリ2019の”もやもや”は未だ抱えたままですが、でも、今年も多くの素敵な作品と出会うことができました。2020年も、素敵な作品と出会えますように!


過去の「BEST展覧会」はこんな感じでした↓↓↓
◆2018年:2018年 展覧会 ベスト10 。
◆2017年:2017年 展覧会 BEST10 【美術館編】
◆2017年 展覧会 BEST10 【ギャラリー編】。
◆2016年:● 2016年 展覧会 BEST 5 ●
◆2016年 アート作品 BEST 5 ●
◆2015年: かってに選ぶ BEST展覧会 -2015。
◆かってに選ぶ BEST作品 -2015。
◆2014年:かってに選ぶ BEST展覧会 -2014。
◆2013年:展覧会2013。(展覧会BEST3)
◆2012年:展覧会2012。(展覧会BEST3)
◆2011年:展覧会 2011。(展覧会BEST3)

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