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佐藤慶次郎の不思議な世界展 『何ごとか?!を求めて』」展 @ギャルリー東京ユマニテ

 そのアーティストやギャラリーのことをよく知っているわけではないし、キービジュアルが目立つわけでもないのに、なぜか直感的に「これは行かなきゃいけない気がする…」って不思議な”引力”を感じる展示って たまにあるんですが、こちらはそんな展示。「この展示に出会えてよかった!」と感じられる展覧会でした。

① 重力や浮力 ”当たり前”の力を感じさせない世界

 ギャラリーの扉を開けてまず驚いたのが、たくさんの小さなものが、それぞれの作品の中で動き回っていること。

(「回転シーソー」 / 佐藤 慶次郎)

 針金の上をいくつものワッシャが行き来していたり、身長よりも高いポールを小さなボールが昇り降りしていたり… 構造はとてもシンプルですが、作品を構成する要素が相互作用しながら作り出す動きは、”生きている”ようにも見えてきます。動きの面白さと、なんでこんな動きをするんだろう?という不思議さで、「鑑賞」と「観察」を行ったりきたりしながら、いつまでも見入ってしまいました。

(「ススキ 3B」/ 佐藤慶次郎;ポールを昇降する白球。”フラフープ”のような原理と教えてもらうと、なるほどと思いつつも、そんなシンプルな原理でこんなに安定した動きを生み出せるの?!と、種明かしを聞いてまた驚いてしまいます。)

 「重力」を感じさせないような動きをする作品群と対になるようだったのが、「ヴォーテックス パフォーマンス」という作品。水の入ったシリンダの底の”コマ”の回転による渦で”浮き”や”気泡”が底に吸い込まれていきます。渦に引き込まれるのは当たり前の現象のようにも見えつつ、ボールの作品と比べてみると、「重力」で落ちるはずのものが浮かび、「浮力」で浮くはずのものが沈む…という対比に見え、また、身の回りにある”当たり前”の力に「抵抗する」のではなく、そんな力から「解放された」ような動きにも見えてきました。

 これらの作品の多くが1970年代につくられたもの(佐藤慶次郎さんご本人は2009年に亡くなられている)というのもまた驚きでした。

(「ヴォーテックス パフォーマンス」 / 佐藤 慶次郎)

② ”何ごとか” を表現する、機械とアートと詩の交点。

 もう一点面白かったのが、「尺トリムシ」と言った作品のタイトルや、展示の中に散りばめられた谷川俊太郎さんの文章などの ”言葉” と作品との関わり方。

(「開花」 / 佐藤 慶次郎)

 展示に合わせて新しく刊行されたという谷川俊太郎さんとの対談本「詩と造形 何ごとか?!を求めて」を思わず購入しました。展覧会タイトルにある「何ごとか?!」は、はじめ”驚きの言葉”のように捉えていたのですが、書籍を読むと、もっと柔らかい、”言葉では捉えきれない感覚”のようなものと感じられました。

 書籍の中で 谷川俊太郎さんはそんな「何ごとか」な感覚のこれらの作品のことを「詩」と表現していました。

「機能も持ってなくて何の役にも立ってないくせに存在していて、人間にある感動を与えるものというのは、やっぱり詩としか言いようがないところがありますよ。」
「そういう詩が持っているのと同じような力で、非常に何げなく置いてあるのに、なんか見てると、おれはこれでいいのかなみたいなことをちょっと感じさせるような変な力があるわけなんです。」

 これらの言葉は、佐藤慶次郎さんの作品を見た感覚を的確に表現しているように感じました。「言葉で説明しづらい感覚」を 言葉でできた「詩」と例えるのは矛盾しているようにも見えますが、言葉で「説明」するのとは違って、「詩」や「アート」(そして、おそらく”音楽家”でもある佐藤慶次郎さんの「音楽」も同様に)を介する事で、誰かの「説明」ではなく、感覚がそのまま、感覚として伝わるのかもしれない(イルカが超音波で言語としてではなく、現象として意思疎通している、という考え方に近いのかもしれない…)と思いました。

 この展示は2019年2月23日(土)まで。残り会期も短いですが ぜひご覧ください。


【展示概要】 佐藤慶次郎の不思議な世界展 『何ごとか?!を求めて』

会期:2019年2月4日(月) 〜2019年2月23日(土)
会場:ギャルリー東京ユマニテ
入場料:無料
時間:10:30〜18:30
日曜、 祝祭日休館

 佐藤慶次郎(1927-2009)は慶應大学医学部在学中から作曲家早坂文雄に師事し、音楽コンクール入賞後作曲家として活動を開始。1950年代に詩人瀧口修造の下に集まった若手芸術家たちがジャンルを超えた前衛芸術運動で先駆的な功績を残した「実験工房」に参加。
 本展は1970年代に制作されたオブジェ作品「ヴォーテックス パフォーマンス」「尺トリムシ」「オーバー ザ ウェーブス」「ススキ」などのシリーズから2011年以降に再制作された約20点を展示いたします。

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