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アメリカにおける人種間差別

今回は最近ニュースであまり見なくなりました、黒人によるアジア人への差別についてです。
日本のメディアでは取り上げることはなくなりましたが、ネットニュースではアメリカでアジア系が黒人に暴力や暴言を吐かれたという内容のニュースは未だに目にします。

そこで今回はなぜ黒人がアジア系に対し暴力や暴言を吐くのかについて書こうと思います。
主観的な部分も多いと思いますが、最後まで読んでいただけますと幸いです。

コロナが世界中に蔓延してから、アジア系(以下東洋系)に対する差別、暴力が日に日にエスカレートし、中には殺害される例も起きてしまいました。

特にショッキングなのは、同じ有色人種である黒人からの暴力や被害現場で東洋系に救いの手を出さないことです。このことから、何故東洋系だけが差別や暴力の対象になっているのかという疑問や不満の声をよく聞きます。

画像1特に黒人に対しては日ごろ差別や警察からの不当な暴力で悩まされているのに、何故今回の東洋系への差別について共感できないのか、黒人たちが受けて嫌な思いは東洋系も同じく嫌な気持ちになるということがなぜ分からないのかなど黒人に対する失望感や反感が高まっています。

しかし、私はそれらのコメントや不満の声に対し違和感を覚えるのです。
アメリカを訪れた、あるいは居住した経験のある方は分かるかもしれませんが、東洋系が黒人のように日常的に差別や暴力、特に白人警察官から不当に暴力を受けた、または殺害されたという内容を見聞きしたことがないからです。

そこでまず、アメリカで実際に私が見た黒人への差別の事例をいくつか挙げます。

1. アメリカの空港で飛行機に乗った際、搭乗橋で若い黒人女性のみ空港セキュリティに呼び止められ、ボディチェックを受けた。

2. 大学時代、アフリカからの留学生と車で出かけたとき、彼の車の調子が悪く道路わきに停車し、エンジンルームをのぞき込んでいる際、そばを通った車の窓から白人が顔を出し”Chocolate!” と大声で叫んだ。

3. 飛行機に乗った際、前に座っていた白人の子が、東洋系である私には"Hello"とあいさつしたが、私の隣に座っていた黒人男性に対しては目を合わそうともせず、彼が声をかけても無視し続けた。

4. アメリカで私と日本人の友人とファストフード店で食べていた時のこと、ある白人中年男性が店内にいた黒人男性にスタンガンを向け「俺から金をむさぼり採れると思うな!」と脅しをかけた。

いずれもコロナ禍よりもずっと前に目にした光景です。
同じような扱いを東洋系である私には起きたことはありませんし、見たこともありません。
また、私が覚えている限りでは東洋系だけでなく、黒人と同じように褐色の肌を持つインド系やヒスパニック系に対しても見たことはありません。

誰が見ても明らかに「肌の色」そして「外見」で差別しているのが分かります。当事者でない私もそのような光景を見て非常に不愉快になりましたし、何故黒人の人たちがそのような扱いを受けなければならないのか理解に苦しみました。

そして、こうした黒人への扱いはテロや今回のコロナに関わらず日常的に起きています。

アメリカで生まれ育った黒人は当然ですが、アメリカ人です。しかし同じアメリカ人にも関わらず「黒人」というだけで、不当な扱いを受けたり、社会的信用が低かったりなど同じ国籍扱いをされません。ましてやBLMのきっかけとなった白人警察官によって殺害されても正式な謝罪を受けることはありません。

対して東洋系は同じ有色人でも日ごろから不当な扱いを受けることはあまりありません。元来勤勉で忍耐強い東洋系は往々にしてアメリカにおける社会的地位は白人の次に高いです。また、彼らの祖国も大戦後に経済的に発展しアメリカにおける認知度が高くなり、相対的に彼らに対する処遇もよくなっていきました。

こうした背景から黒人の視点から見れば、東洋系は常日頃から差別されることなく優遇され、自分たちよりも良い生活を送っていると思われています。

今回のコロナで東洋系が不当な扱いを受けたとしても、いずれ収束し普段の生活が戻れば、そうした差別も消えてなくなるでしょう。しかし黒人の場合はコロナが収束しても彼らの生活が良くなることはありません。

その証拠に黒人へのコロナに対するワクチン接種率は他の人種に対し圧倒的に低いです。
ワクチンを打てるのは一部の黒人(富裕層や大都市に住んでいる人達)であり、スラム街や黒人が多く居住する低所得者の居住地区でのワクチン接種はなかなか増えません。

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そうした人から見れば、アジア発祥のコロナのせいで、余計な医療負担が増える、或いは金銭的にまともな医療を受けられない、入院もできないなど心理的なストレスが溜まっています。そしてコロナのせいで大切な家族や友人を失うなど、コロナが蔓延していなければ死ななくてもいい人が亡くなってしまっているのです。一方で、コロナをまき散らした東洋系がワクチンも打て、必要であれば入院もでき、アメリカの地で暮らしているという非常に不公平な世界に映るわけです。

こうした生活の格差による恨みが東洋系への暴言、暴力に繋がっているのです。
しかも、東洋系のアメリカへの移住の歴史は黒人と比べ、比較的新しいので、外見だけではアメリカで生まれた東洋人なのか、生粋の東洋人なのかの見分けはつきません。したがって、黒人からは東洋系イコール外国人とみなされているのもまた事実です。アメリカ人である黒人が社会的に新しく移住してきた東洋系よりも待遇が低いことに対する反感は少なからずあり、今回のようなアジア発祥のパンデミックによるアメリカでの人種別の処遇に対し、彼らの日頃の鬱憤が爆発したといっても過言ではないと思います。

だからと言って今回のコロナで東洋系が差別の対象になっていいというわけではありません。東洋系への差別に対し、黒人に対する差別はBLMのような抗議デモがあるのに対し、誰も東洋系への差別にはデモ起きないではないかという人もいます。

もちろん、そうした方の気持ちは理解できます。しかし黒人の多くが抱えている格差は想像以上のものがあり、それは何も今回のコロナだけではありません。例えば2010年代にアメリカ南部を襲ったハリケーンサンディでも、洪水災害を被った黒人住居者に対する救出・支援が遅れたり、災害後のケアも受けられなかったりなど社会問題になりました。その時の東洋系はどのような状況でしたでしょうか。黒人と同じような問題を抱えたというニュースは無かったはずです。

先の文章でBLMについて触れましたが、BLMのような反黒人差別デモは去年から始まったものではありません。
2016年、ミズーリ州で起きた白人警察による黒人青年射殺事件でもありました。この時のスローガンは"Hands up. Don’t Shoot"でした。当時のアメリカ大統領はオバマ氏でしたが、初の黒人大統領が生れようとも、基本的に黒人を取り巻く環境や社会的地位は何も変わっていないということを改めて見せつけられた事件でした。そしてそれからたったの4年でまた同じ事件が起きたのです。

そうした人たちから見れば、今回の東洋系への差別は「一過性に過ぎない」というのが本音です。理由は簡単です。2020年まで東洋系が日常的に差別や暴力を受けることが無かったからです。

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コロナ禍における東洋系が黒人による差別・暴力の対象になっていることについて理不尽だと感じる人も多いと思いますし、そうした気持ちはよく理解できます。

黒人を特別に擁護するわけではありません。すべての黒人が今回の東洋系に対する暴力に賛同しているわけでもありません。しかし、白人警察からの暴力を受けるのは圧倒的に黒人であり、紛れもない事実なのです。

先述したとおり、テロやコロナ関係なく常に差別のまなざしで見られ社会的信頼も低いとなれば、そうではない人種に対する妬みや憎悪が増えるのは自然のことだと思います。

黒人に対し不満や暴言を吐く前にアメリカにおける黒人の状況を鑑みることも重要だと思います。


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