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【十六夜杯】 審査員賞 【プッククン賞】

皆様、こんばんわ。

十六夜杯審査員賞、プッククン賞を発表します。
俳句の審査員は初めてのことですが、自分なりに、誠意をもって選ばせていただきました。
さっそく、参りましょう。

君の背に 鉄塔ヒヤリ 後の月

泥棒猫 さん

泥棒猫さんの作品を、プッククン賞1位に選びました!
厳選した候補の中から、審査員賞をどれにしようかと考えたときに、この句が真っ先に思い浮かびました。一番印象的で、記憶に残っていたんだと思います。その直感を信じました。

(気がついたところ)
17音にドラマに込められていて、鉄塔のもつ硬質なイメージと相対するようにして伝わってくる、「君」との心の距離感がよかったです。
また、「君→鉄塔→月」と、五・七・五のリズムの中で、きれいに映像が広がっていく感じ。それも俯瞰的な映像としてではなく、「私」という人物の目を通して見ているところがまたいいと思います。

「後の月」とは、十三夜の月のことで、満月になる二夜前の月のことだそうです。一見満たされているようで、まだ満たし足りないような、あるいは相手のことをもっと知りたいような、良い意味でのもどかしさが季語によって表現されていると思いました。

「君の背」に「鉄塔ヒヤリ」。自分自身の感触として抱いているのではなくて、相手の側に立って、「ヒヤリ」ということを推して測っているような印象。相手は自分のことをどう思っているんだろうか、ひょっとして嫌っていないかなど、少し不安げに邪推する感じがあり、これもまた「君」に対するもどかしさを演出していると思いました。

僕は、御句のストーリーを、ハッピーエンドの前兆と捉えました。満ちる前の月ですから。句の中で、いまは「君」は月に背を向けているけれども、いつかは「私」と二人で月を眺められるかもしれません。「十六夜杯」のテーマ『同じ月をみている』とも関連づけられるのではないかと思ったのですが、いかがでしょうか。そんなふうに、読み手に想像を促してくれる余白があるのもこの句の魅力です。

ということで、1位に選ばせていただきました!
日頃、僕はnoteで自己完結するオチの漫画ばかりを描いているのですが、そんな自分にはまず出てこない感性だなあと、羨ましく思った節もあります。

ところで、前大会「鶴亀杯」で、僕は大橋ちよさんから審査員賞をいただき、その際に副賞として、俳句にちなんだ楽曲を作っていただきました。受け取ったものをぜひ別の形で還元できたらと思い、また、一応noteでは漫画を描いている身分ということもあり、勝手ながら御句をイメージした1頁漫画を描かせていただきました。あくまでも自己流の解釈による表現になりますが…。
こちらです、どうぞ!m(_ _)m

【御礼の一頁】

鉄塔は、長野県の某山に建っている電波塔をモデルにしております。


泥棒猫さん、素敵な俳句をありがとうございました。



続いて、2位〜6位の方々も順に発表させていただきます!



2位

三個しか採れなかったのさつまいも

akkiy☆ さん

(気がついたところ)
さつまいも、1株で5〜6個採れるイメージがありますが、それが3個しか採れなかった。「三個」という数字加減と、「採れなかったの」という口語体が、説得力のある切なさを感じさせてくれます。

採れたてのさつまいもを使って、ふんだんに料理をするつもりでいたのに…。さつまいもの発掘といえども、悲哀は起こる。お腹を満たしてくれる幸せな存在だからこそ、それが採れなかったときの残念さも、またいかばかりかといったところ。食にまつわる悲劇はどこか滑稽味も覚えますが、そこが共感できていいなと思いました。

幼稚園の頃、芋掘り遠足に行ったことを思い出しました。芋掘り遠足では、さつまいもを掘って、それをビニール袋に入れて持ち帰るんです。僕は、自分で掘ったさつまいもを、丸ごと紛失するという事件を起こしました。生まれて初めて茫然自失になった体験でしたが、あのとき、先生が優しく声をかけながらいっしょになって探してくれて、しばらくして無事に出てきて安堵したという、そんなことを覚えています。



3位

干柿や残り五問の参考書

はねの あき さん

(気がついたところ)
あと五問解いたら、ひと休憩とって、干柿を食べよう。ひと山を越えるための、自分へのぷちご褒美。受験生が黙々と机に向かっているイメージが自然とわいてきました。思い当たる節がありますね。視界の片隅に入っている干し柿。糖分は高そうだけど、そのぶん脳を使う勉強のお供には向いているはず。

御句記事のコメント欄にも寄せられておりますが、「干柿」と「参考書」という取合せの妙が素晴らしいと思います。言われてみればすごくしっくりくる感じなのに、そうそう思いつかない取合せといったところでしょうか。言葉のバランスが絶妙でした。

干柿といえば、実家の母がよくベランダに吊るして作っていました。ある日の夜、それを知らずにカーテンを開けてしまったことがあり、暗闇に浮かぶいくつものオレンジの塊を見てびっくりした記憶があります。でも、そんなこんなでうちには自家製の干柿がたくさんあり、毎日1〜2個食べていました。以来、秋の味覚を思わせてくれる、好きな食べ物です。



4位

右折待つフロントガラス小望月

井戸乃くらぽー さん

(気がついたところ)
カーブを曲がったその先には、いったい何があるのでしょうか。日常の中の、ちょっとした高揚を思わせる一句です。「小望月(こもちづき)」とは、満月の前夜である十四日月のこと。「待宵月(まつよいのつき)」とも言われ、名月を楽しみに待つという意味をもつそうです。

御句からは、期待感をもった心情を読み取りつつ、一方で、丁寧で落ち着いた雰囲気も感じました。一言で、大人だなぁと。一番の魅力に思った点です。きっと、その車に乗っている人物は、普段から奥ゆかしさをもった素敵な方なのだろうと推察できます。心の余裕を感じさせるのが、とてもいいと思いました。

車には、運転する人の心情がそのまま乗り移りますよね。まるで車自体に人格があるように見える瞬間があります。僕は車の運転があまり得意ではなく、右折するときは「そろりそろり」となってしまうのですが、以前タクシーに乗ったときに、運転手さんに「シューッ」と切れ味鋭く右折されたことがあって、自分の運転との違いにシビれました。もっと思い切りのよい人間にならなければと強く思ったものです。
右折には、運転する人の性格や、人生観が如実に表れる気がします。



5位

艶肌の割れるのを待つ柘榴かな

歓怒 さん

(気がついたところ)
柘榴(ざくろ)から想起されるあの質感や、真っ赤な色合い、繊細さ、そして色気が伝わってきます。柘榴について、真正面から臆することなく描いているのが素晴らしいと思いました。また、中七の「割れるのを待つ」という展開、リズム感も心地いいです。

歓怒さんの句は、「赤蜻蛉人も決まった道歩む」も好きなのですが、季語を一点に観察するような、視点の潔さを感じます。俳句に限らず、作品づくりのアプローチとして、感銘を受けました。

柘榴といえば、昔、小学生の頃に母から教わった手遊び(?)で、左手と右手の甲と甲をくっつけて、指を交互に絡めて手首を内側にぐりんと回すと、柘榴みたいになるというやつがありまして…(なんだそりゃですが)。それをクラスメイトに披露したところ、「おぉ〜」と感心されたことがあります(余計になんだそりゃで、すみません)。柘榴は、それほど個性的な見た目をした果実なんですよね。魅惑的とも、蠱惑(こわく)的とも言える、人の心を奪う見た目をしていると思います。



6位

横たえる身体は白し秋の浜

美味しい蒸しエビ さん

(気がついたところ)
生と死の狭間について、考えさせてくれる一句です。人けのない砂浜に、かつて生きていたものが静かに時の経過を待っているような。その横たわる身体は、しだいに浜との境界線を曖昧にしていき、やがては同化していってしまうのでしょうか。そんな思いとともに、吹き抜けていく風や、遠く響く波の音、さらさら(ざらざら)とした砂の粒が、立体的に、読み手に届いてきます。

「白秋」という、中国由来の言葉が示すとおり、秋には白のイメージもつきまといますね。紅葉の色だけが、秋ではない。「身体は白し」とありますが、身体ごと秋という季節にとけていくような感じでしょうか。綺麗事ではない生命の果てが表現されており、何とも言えない美しい光景に思えました。

これから先、秋に浜を訪れたときには、きっとこの句のことを思い出すでしょう。気が鎮まるような、静かな心持ちへと、いざなってくれる気がします。


以上です。皆様、心よりお祝い申し上げます。

最後に、ご投句いただいた皆様、ありがとうございました。選ぶのは想像以上に大変でしたが、やりがいのあることができて光栄でしたし、勉強になることばかりでした。

運営にご尽力された皆様も、本当にお疲れ様でした。高い次元での熱量と気遣いをいつも感じながら、自分もがんばろうと、気合いをもらっておりました。

俳句は、やはりいいものですね。これからも精進していきたいと思います。


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大橋ちよさんから、前大会でいただいた賞はこちらです!


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