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十六夜杯審査員賞🌖deko賞

綺羅星の力作がnoteの空で瞬き、進化し続けている『みんなの俳句大会』。「十六夜杯」も俳句部門では135名、363句ものご応募がありました。
会期中はもとより前夜祭、後夜祭と様々な企画が自発多発的に立ち上がり、「同じ月を見ている」のテーマのもと、皆さんがご一緒に盛り上げてくださったことに心より感謝申し上げます。

私が俳句をはじめたのは『みんなの俳句大会』の第1回「アポロ杯」から。まだ初めて1年ちょっと。俳句の基本すらわかっているような、わかっていないような素人です。そんな私が審査員を務めることになり、さて、選句で悩みました。どう考えても俳句の王道から選ぶことは実力的に不可能です。

そこで、本業であるコピーライターの視点から選ぶことに。
「言葉がビジュアルの説明をするな!」
コピーライティングの基本と本質は、これにつきます。
ビジュアルが表現しているものから、ほんの少しだけ(このサジかげんが難しい)ずらす。ビジュアルに異なる視点を持ち込む。言葉とビジュアルの相乗効果で、見えていなかった新たな世界を広げる。
「発見」といっても、いいかもしれません。
「新しい視点」とも、いいますね。
ありふれた言葉もテイストの異なる言葉に並べると、たちまち輝きだす。
そんな「輝き」を見つけた言葉がある句。
17文字で深く、広い世界を描きだした句。
それを羅針盤に、僭越ながら12句を選ばさせていただきました。

deko賞とは、私dekoのハートを奪った句です。
では、上位6句と入選句6句を発表します。

🌒🌓🌔🌕🌖🌗🌔

1位:水澄みぬ空真四角に開きたり <花風さん>

なんて清澄な句でしょう。なによりも「空真四角に」に心が冴えました。「空」を「開く」という動的な視点。「水澄みぬ」ですから、水はとても冷たい。その冷たさの硬質な感覚まで「真四角」でみごとに、でもさりげなく切り取られています。
場所はどこでしょう。茶室のある庭のつくばいか、寺の手水が思い浮かびます。
そう、「吾唯足知われただたるをしる」と刻まれ四角に切ってある蹲です。そっと指をひたすとひやりと冷たい。顔をあげて目を転じると、樹木のあいまに四角く抜けた空がどこまでも高い。秋の澄んだみずみずしい空気感があざやかに浮かびます。とんがった言葉はひとつも使われていないのに。頬をなでる清々しい風まで吹き抜けそうです。


2位:虚栗みなしぐり手あつく置きし木こりかな <兄弟航路さん> 

「虚栗」がこの句のなかでは最も存在感のある言葉ですが。それよりも、私が惹かれたのは「手あつく」と「木こり」です。ただ置いたのではなく、「手あつく」置いたのです、それも「木こり」が。「虚栗」は中身の入っていない栗の殻。そこから何かが芽生えるわけでもない。命や実りを継ぐものでもない虚栗すらもたいせつに扱う。置いたのが子どもであれば、遊びともとれますが、木こりであることがまた、この句に深い意味を与えています。詠んでいる景はミクロの視点なのに、森への敬愛と感謝がマクロの視点で、しかも無言で伝わってくる。みごとだと思いました。


3位:白風びゃくふうや番号だけの墓標あり <KOMAさん>

「番号だけの」にやられました。これが「名もなき」あたりの詩的な体温のあるぬるい言葉であれば、引っ掛かりはしなかったでしょう。番号だけで連なる墓標。紛争の容赦なき現実をこのひと言が突きつける。胸に砲撃を受けたようなショックが走りました。この句も、見るからに刺激的な外面をした言葉は使っていません。けれども無情が冷徹に突き刺さります。


4位:稲妻や宇宙そらの裂け目から一雫 <かっちーさん>

この句を輝かせているのは「一雫」だと私は思います。激しいイメージのある稲妻を「一雫」と表現するところに。広大な宇宙からながめれば、稲妻は宇宙の裂け目、それもとても微小な割れ目から、そっと一雫だけ漏れ出た輝きなのだと。そんなことに気づかせてくれます。一雫がかえって宇宙の広大無辺さを思い起こさせてくれるのは、宇宙を詠じたら右に出る者のいないかっちーさんならではですね。


5位:曼珠沙華他界し続けていく日々 <春野恵さん>

「他界しつづけていく日々」
この表現に打ちのめされました。確かに時間は不可逆で、一日の終わりは、今日という日が「他界」するときでもある。当たり前のことなのに、人はそれに気づかない。その当たり前をガツンと殴られたようです。有名なコピーで「異常も、日々続くと、正常になる。」というのがありますが、それと同じくらいガツンときました。「死ぬ」でも「逝去」でもなく、「他界」であるところがまた深い。


6位:芒葉や恋のちょっとで深手負い <緋夢灯さん>

「恋のちょっとで」がこの句を、ちょっとではない句に引き上げています。「少し」ではなく「ちょっとで」という軽みが、オリジナリティへとつながっている。「ちょっとで」の「で」と、「深手」の「で」の濁音の連なりが耳にも引っ掛かり、いろんな想像がかき立てられ、「恋のちょっとで深手負い」をそのままキャッチコピーとして頂戴したいくらいです。


ここからは、順不同で。私の心に刺さった佳句6句を
deko賞「入選句」としてご紹介いたします。

赤蜻蛉人も決まった道歩む <歓怒さん>

トンボは縄張りのなかを決まったコースで周回するといいます。それ自体はよく知られたことなので驚きはありません。そこに「人」と「人生」という視点を重ねたことで、なんども叩頭したくなる句に昇華してあざやかです。


身震いし土帰る蟻穴に入る <しろくまきりんさん>

「身震いし」がいいなぁと感じました。私には、そしてたぶん多くの人には蟻が「身震いする」という視点や観察眼がなかったように思うのです。さらに、「身震い」は蟻だけでなく、観察している人が秋風に身震いしているとも。冬に向かう命の営みを「身震いし」が思い起こさせてくれます。


横たえる身体は白し秋の浜 <美味しい蒸しエビさん>

「身体は白し」がなんとも艶めかしい。夏のギラギラとした陽射しではなく、秋の浜であることが「身体は白し」で言い得ていて美しい。視覚的にも「白(し)秋」で白秋へと目が追うしかけがあって、秋のうれいを帯びた浜を連想しました。


老農の深き一礼今年米 <鮎太さん>

みんなの俳句大賞受賞、おめでとうございます。
堂々の受賞は当然だと思います。私もdeko賞に選んでいたので自分のことのようにうれしくなりました。
なんといっても、この句はまず佇まいに品格があります。ひらがなが2つしかないため漢文のような緊張感があり、読み手である私たちも居ずまいを正してしまう。そして、「老農」が句の映像をクリアにしています。刈り取った田に佇み、たわわな実りに深々と感謝する。春から秋までの田のようすまで思い浮かぶ。目の前の景以上のものがしぜんと立ち上がってきます。


君の背に鉄塔ヒヤリ後の月 <泥棒猫さん>

この句で視覚的にも、言語的にも、引き付けられるのは「ヒヤリ」です。この身体的シズル感が、句の温度まで決めている。鉄塔の触感にふさわしい。
そして満月まであと二夜の「後の月」。足りないのは時間でしょうか、想いでしょうか。

鳥渡るリハビリ室のアスリート <すうぷさん>

一見すると、「リハビリ」と「アスリート」というカタカナ語が目を引くのですが。この句を決定づけているのは、季語の「鳥渡る」だと私は思います。リハビリをする、いえ、しなければならないアスリートの心情はひと言も語られていないけれど、「鳥渡る」にすべてが込められている。思うように動かない身体、挫折、忸怩たる思い、焦り‥‥。いったいどれほどの思いを抱えて大空を渡る鳥を眺めたのでしょうか。


私の心を奪った句は、とても12句ではおさまりきれません。
ご応募いただいたすべての句に、毎朝、こんなふうに詠めるのか、
と軽いジャブに似た刺激を受けていました。
ご参加いただいた皆さま、ありがとうございました。

「勝手に賞」も、あちこちで発表されているもよう。
『みんなの俳句大会』のいいところは、
みんなが自由に応募できるだけでなく、
だれもが自由に「賞」を授けて讃えあうことができる――
参加者が企画者にもなれる自由な双方向性にあるように思います。
同じ月を見ながら、このお祭りを最後までご一緒に楽しみましょう。

皆さまの全俳句は、こちらに。
それにしても363句!すごいですね。


他の審査員賞は、こちら。


サポートをいただけたら、勇気と元気がわいて、 これほどウレシイことはありません♡