マガジンのカバー画像

エッセイ

37
日々を綴っています。
運営しているクリエイター

#家族

記憶に溶けていきそうな夜

記憶に溶けていきそうな夜

玄関を開けると、母がランタンを持って佇んでいた。

初夏の匂いがする。
この匂い、東京では決して嗅ぎえない。
だから、正確には初夏の地元の匂い。

母のそばに駆け寄り、歩く。
時々たわいもない言葉を交わす。黙ることもある。

空。やっぱり地元の空は一味違う。
青と紫を溶かしたような色。
西の空にはまだ明るさが尾を引いている。東の地平線近くは闇が迫っている。
巨大な雲が、その隙間から模様を描いて

もっとみる
青春という戦場を乗り切った

青春という戦場を乗り切った

父とお風呂に入れなくなったのは、小学校高学年の時。理由は父が嫌だったからではない。

膨らんできた胸が惨めでどうしようもなかったからだ。

子供のわたしから見た時、大人の体はとってもグロテスクだった。
だから大人は自分とは別の生き物に見えたし、自分が将来あの体になるなんて信じられなかった。

だけど、体の成長は容赦なくわたしを襲ってきた。そう、襲ってくるという感覚に近かった。わたしは自身の体の変化

もっとみる