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映画「BLUE GIANT」は、なぜ感動するのか

どんな映画?

今上映中(2023年4月8日現在)の映画「BLUE GIANT」にとても感動した。

そこでなるべくネタバレしないようにおすすめブログを書いてみた。ネタバレ絶対NGの方は注意してほしい。観ようか悩んでいる方、知らなかった方、観終わって語り合う人がいなくてウズウズしている方にも読んでいただきたい。

この物語は、主人公でサックス奏者「宮本大」、都内に上京してきた大学生ドラム担当「玉田俊二」、ピアニストとして既に活動している「沢辺雪祈(ゆきのり)」の同世代3人の友情と成長の物語

なぜ感動するのか?

第一に既成概念を覆す設定がある。主人公の大は、サックス歴3年。音楽というと、幼少のころから恵まれた環境でレッスンを受け続けた人のもの。限られた人たちが成功するイメージが一般的だ。でも、大はたった3年、努力をしつづけた結果、素晴らしい演奏が出来るようになっている。もちろん才能もあるのだけど。。。

また雪祈に関しては、音楽家イメージ通りの恵まれた環境下で育ったピアニストだ。しかし、日本最高のジャズクラブ「So Blue」の平からは「一番だめ」だと言われてしまう。恵まれた環境や才能があっても、ほかの2人よりダメって???

第二は、サックス担当、大のキャラクターだ。とにかく前向きで努力家。そして自信もある。さらには助けてくれた人への感謝も忘れない。練習場を貸してくれたアキコさんへの感謝は胸熱ポイントだ。

第三は、誰にでも圧倒的な感動を与えてくれる本物の音楽。演奏家はもちろん超一流!ピアノは世界的に活躍している上原ひろみ。サックスは、2016年から4年間「報道ステーション」のテーマ曲のバンドを手掛けるなど活躍中の馬場智章。ドラムは海外アーティストとの共演も多い石若駿。ドラムに関しては初心者の音から担当しており、とても難しかったそうだ。そこもこだわって成長していく音を表現してくれている。

ジャズは、譜面通りではない。その時、その場所のバイブスを通して演者の感情を乗せアレンジされる。ライブならではの唯一無二の演奏が行われるのが特徴だ。その特徴が今回の物語と伏線となっている点も感動ポイントだ。

第四は、3人の若者が挑戦する姿をかげで多くの人が支える人々の存在。大(サックス)が仙台でレッスンを受けた由井さん、練習場所を貸し続けたアキコさん、ファンなど温かいまなざしに包まれている。人は自分の力だけで生きているのではないと改めて実感できる点も感動ポイントだ。

3人3様の人生哲学

この映画で玉田(ドラム)と雪祈(ピアノ)に多大な影響を与えたのが主人公、大(サックス)。大は、自分が世界一のジャズプレーヤーになると疑わない。さらに目指したい理由が自分の音で感動を届けたいという利他的なところがいい。

若い頃は、モテたいとかお金持ちになりたいという下心からバンドを始める人も多いという。しかし大(サックス)はとにかく自分の音で感動を届けたいことにこだわる。そのため会場が小さかろうが、観客が少なかろうが関係ない。自分の技術を磨き、目の前の観客に届けるだけだ。

俗世の欲を超越し悟りきったお坊さんみたいな境地だ。だからこそ、余計な雑音に邪魔されず技術を磨き続けることが出来るのだ。

都会に憧れて大学進学のため上京した玉田(ドラム)。都会に来たらサッカーをサークルで楽しくやる。恋人を作って楽しいキャンパスライフを送るという普通の大学生を夢描いて上京する。

しかし、現実には真剣にやらないサッカーサークルは楽しくない。家には大が恋人のごとく居候している。そんな中、ジャズに出会いドラムをやることに。ドラムを一生懸命練習し、仲間に追いつこうとする。しかも、仲間をとても大切にして助けたいと願う。

雪祈(ピアノ)が壁にぶつかったとき、一番に寄り添おうとする姿は印象的だ。彼は一貫して仲間とともにいたいという思いを貫く。

雪祈は4歳からピアノ教室を開いている母の元生まれた。恵まれた環境で音楽の才能を伸ばす。幼い頃ピアノ教室に来ていた女の子。明らかに才能があり、楽しそうに弾く姿を見て雪祈もピアノが好きになる。

しかし、彼女が家族の事情で突然夜逃げ同然に引っ越していく。その後、世の中を斜にかまえてみるようになってしまう。

ピアノを続けられるのはお金のある人。勝ち組にならなくてはならないという考えに偏る。そのことがピアノ演奏にも影響していく。

しかし、色々なことを通して自分の感情と向き合いさらけ出すことで演奏も変わっていく。
「女の子にピアノを続けていってほしかった。」「ずっと教室に通ってほしかった。」という本当にほしかったものに気が付いたこと。

ずっと蓋をしていた感情を解き放つことの難しさ。出来たときの喜び。
これは、ヨガ哲学にも通じる。まずは、自分自身の内側の感情と向きあう。意外と難しいことだ。

愛あふれ嫉妬が描かれないのはなぜ?

前章でも触れたが、それぞれが自分自身と向き合い、しっかりとした人生哲学の元、行動している。

普通なら幼少期から恵まれた環境にいる雪祈(ピアノ)に対して、大(サックス)や玉田(ドラム)が嫉妬してもいいはずだ。しかし、皆それぞれの出来る範囲で最大限の努力をして協働しあう。どんな場所、どんな立場にあっても分を尽くしていれば、嫉妬など生まれないのだと分かる。

雪祈(ピアノ)は最初から大(サックス)に向かってお互いを「踏み台」にすると言っている。これは裏を返せばお互いを尊重し自律した存在という意味だ。誰かがいなければ成立しないような依存した関係ではないからこそ、3人のハーモニーは実力以上のものとなる。また、3人のうち誰かが違う形で成功しても、心から喜びあえる理由でもある。

やっと出られた地域のコンサートでは、有名なバンドの前座を任される。有名なバンドのメンバーに対しても、大(サックス)や雪折(ピアノ)はものおじしない。目標と努力に裏打ちされた確固たる自信があれば、憧れさえも持たない。先日優勝したWBC決勝戦前に大谷翔平選手も「今は憧れを捨てて勝負しよう」と鼓舞したことを思い出す。

登場人物は事細かに感謝し続ける場面が多い。実際に原作の漫画も読んだ。巻末に作者から必ず感謝の言葉があった。原作者の感謝があふれる物語だからこその愛あふれる映画なのだと改めて実感した。

生活に生かす哲学

この映画を通して教育に生かせると思ったことは、同じ物差しで比べないこと。既成概念を基準にせず、本人の希望や成長を基準に見守っていく。
本人の希望をもとに応援出来ているのだろうか?という視点を持ち続けたい。

また自分がやっていることは、本当にやりたいことなのだろうか。
自分と大との違いは何だろうか。嫉妬してしまうことがあるとすればなぜなのか?
自分を支えてくれている人はどんな人がいるのだろうか?
と考えて直してみるいい機会にもなるだろう。

さいごに

本当にとっても素晴らしい映画なので、ぜひ劇場で観ていただきたい。私はジャズにはあまり詳しくない。ジャズや音楽に興味がなかったり、分からなかったりしても本物の素晴らしさを実感できる。
読まなくても十分楽しめるが、原作の漫画1~4巻は読んでおくとなおよい。上京して雪祈(ピアノ)に出会うまでの背景描写が良く分かる。

原作者が「テレビよりも映画にしてほしい」とこだわった理由を是非劇場で体感してきてもらいたい。

【参考文献】


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