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至高の現代文/記述解法の探究・肉

【至高の現代文/記述解法の探究・肉】

ここでは、本書に収録した全200題(記述小問)の解法を、汎用性のある形に分類して提示する。あわせて、各解法ごとに本書収録の参照問題を挙げる。略称は以下の通り。東→東京大学、京→京都大学、東北→東北大学、九→九州大学、北→北海道大学、阪→大阪大学、名→名古屋大学、橋→一橋大学、神→神戸大学、筑→筑波大学、広→広島大学。例えば「19東一.一」は、2019年東京大学の大問一の小問一をあらわす。


1.内容説明の基本形式

「どういうことか」を問う内容説明タイプの問題に対して、以下(~16)に示していくようにいくつかの思考のバリエーションがあるが、おおよそ全てに通用する基本的な方針は「要素に分けて言い換える」である。傍線が不完全は文であるときは一文で把握し、要素の中でも特にポイントになりそうなものに検討をつけ、接続語や指示語、本文構成を手がかりに本文から言い換え要素を探す。その上で、解答が意味の通らない継ぎはぎのものにならないように、適宜自分の言葉で言い直す表現力も求められる。例えば「何か複雑で動的な現象」(→19東一.二)なら、一文で把握した上で、「何か複雑で/動的な/現象」と分け、換言するのである。


2.術語の語義への配慮 

ただし、傍線部の要素で本文中に言い換え要素が見当たらない場合もある。筆者は、コミュニケーション一般がそうであるように、文章の多くを読者との共通了解をあてにして展開するわけだから、むしろ当然といえる。出題者が、そうした事情を踏まえた上で、そこに傍線を引き解答者に問うならば、解答者はそれを自力で言語化することが求められているのだ。その共通了解(筆者が自明とするもの)でもっとも顕著なのが「術語の語義」である。これを問われたら、文脈に沿うように、その術語の語義を特定し表現することになる。以下に、参照題とともにそこで問われている術語を示しておく。こうした術語には習熟しておかねばならない。

→19東一.二「現象」、19東一.三「福音」、19京二.三「社会化」、19北二.三「アナロジー」、14東一.二「他者性」、13.東一.四「テクスト」、10東一.二「イデオロギー」、05東一.三「表現的」、17東四.四「飽和」、11東四.三「封鎖」、11東四.四「象徴」、17橋一.四「正義」「卓越性」、16京二.一「相対化」、18九一.三「抽象化」


3.自明性の言語化(比喩など)

他に、筆者が自明としているもので、解答者が自力で言語化する必要のあるものに比喩などの慣用表現がある。そもそもが比喩表現自体、対象の説明なので、筆者の方でそれを改めて説明などしない。出題者がその比喩の説明を求めるならば、比喩自体の喚起する感覚的イメージに文脈を加味して、ズバリその意味するところを言い当てなければならないのである。言葉への深い理解と感度が試される。

→19東北一.三「音の灯台」、15東四.一「野生の掟」、12東四.二「鮮烈な傷のような痛み」、16京二.二「手すりは切れた」


4.具体例の利用

言い換え要素を探すにあたり、一般性に欠ける具体例より、その前後の抽象的な記述を優先するのは当然である(→18阪(文)一.二)。しかし、抽象部だけ抽出して言い換えたとき、意味がしっくり通らない場合も難度の高い問題にはよくあることだ。その場合、具体例を利用してその要素を理解し直したり、例を一般化して表現することがある。そもそも具体例は抽象的な内容の理解を促すためにあるわけだから、当然の筋道だといえるが、解答は一般性を十分担保したものであるよう注意する必要がある。

→19京一.四、19九二.六、19北一.三、19北一.四、09東一.五、05東一.三、17東四.三、18阪(文)一.四、16京二.三


5.経緯の説明(SG式)

経緯の説明を求める問題は、長めの解答を求めるものになることが多い。注意点は、始点(S)と終点(G)を見極め、その経緯をつないで必要十分な内容を書き込むことである。また、傍線は終点(G)の部分にあることが普通なので、内容が終点(G)に向かって収束するように逆算してデザインするとよい。

→19東一.四、19京二.四、19阪一.一、01東一.五、16京一.二


6.論理的推論

論理的推論を要する問題は、問いの性質上、本文の結論部にあり、問われているポイントについての直接的な言及がないものである。この場合、そのポイントに至る経緯や背景を整理し、その延長上に論理必然的に見出される内容を推論により導出しなければならない。長めの解答を求められることが多く、問いの難度も極めて高い。

→19京一.五、19京二.五、19九二.六、10東一.五、16東四.四


7.構文変換(名詞の動詞化)

傍線部を言い換えるにあたり、そのまま要素に分けて換言しても文が硬直し、十分な説明とならない場合がある。特に、傍線が(動詞的)名詞で締められている場合がそれにあたる。この場合、まずは傍線を一文に戻して傍線部の位置づけを把握し、動きのある表現(動詞的表現)に構文を変換するとよい。これにより、あとの解答作業がスムーズに進むことになる。言葉を適切に置き換える柔軟な思考力と語彙のストックが必要だが、マスターすれば本番で差のつく答案を示すことができる。

→19九一.二「当為そのものの在所」、19九二.一「等質空間の捏造」、19筑一.三「バーチャルな訪問者」、15東一.三「足跡」、14東一.三「錯覚」、16京二.三「労働のイメイジ」


8.表現への配慮

文末表現や副詞的表現に配慮して、解答構文を決定したり、見えにくい解答要素を加えたりする場合がある。「Aとなる」(→19東一.四)ならば、Aという帰結に対する原因・背景を加える必要がある。また、「し損ない」(→19京一.四)ならば、「志向しながらの頓挫」であり、その志向性と頓挫の理由を答える必要が出てくるのである。以下に、参照題とともに配慮すべき表現を挙げておく。

→19九二.五「そうではない(判断)」、19神一.二「さらに」、19広二.三「?(確認)」、14東一.四「も実は」、05東一.二と02東一.三「さえ」、15東四.二「してしまった(失態)」、09東四.一「残っている」、18九一.四「極力限定」


9.カギカッコ外し

カギカッコやそれに準ずる表現(傍点、カタカナ表記など)は、単なる強調の場合もあるが、一般的な意味合いと異なる筆者特有の意図を込めていることが多い。傍線部や参照箇所にカギカッコで囲まれた語がある場合には、筆者の意図を汲み取り、それを表現した上で、カギカッコを外さなければならないのである。

→09東一.一、05東一.四、01東一.二


10.対比の基本形式

対比の答え方は、「XとYはZ(Z1,Z2…)という点で異なる」(一括型)という場合もありうるが、たいていは「Xは(X1,X2…)だが、Yは(Y1,Y2…)である」(分離型)という形式をとる。分離型では、できる限り要素をそろえ、対比を明確にして答える必要がある。できる限りとしたのは、場合によっては対比要素のうち、片方に重きが置かれることもあるので、その場合は「Xが~なのに対し、Yは~」といった形で後ろに厚みを出してまとめることになる。以下は典型的な対比問題。

→19九二.二、19阪一.四(1)、19阪(文)一.三、18広一.五、17橋一.四、18阪(文)一.五、18九一.五、18九一.七


11.パラドックス(逆説)の基本形式

パラドックス(逆説)とは、一見矛盾するが、実は真である事態をあらわす。パラドックスの説明が問われている場合は、矛盾するように思える二項を、対比が明確になるように示す。その上で、その二項が真として結びつく理由を加えることになる。基本構文は「Xは、Rであるので、かえって(逆に)Yである」となる。

→19九一.五、02東一.三、09東四.二、17東北一.四


12.対比の設定(発見)

直接、対比を問うていないような場合でも、そこに対比が隠れていることを発見することで、一気に解答要素がそろうことは少なくない。また、対比を発見したら、情報の多い片方から、その情報を裏返す形でもう片方を具体化していく、という手法も汎用性の高いものである。

→ 19東一.一、19京一.三、19京二.三、19東北一.四、19東北一.五、19九二.四、19橋一.四、15東一.一、10東一.四、10東一.五、05東一.二、16東四.三、11東四.二、09東四.三、17神一.四、17神一.五、16京一.四、18九一.一


13.対立項の利用

一見、解答ポイントについて直接的言及がない場合も、先に述べた対比の性質を理解すれば、その内容を浮き彫りにできることがある。解答ポイントに対立項が想定されている場合は、その対立項と反対の要素を、語義も踏まえて解答ポイントにあてはめ、文脈上矛盾することがないかを確かめる、という手順をとる。難度の高い手法である。

→19東四.三、18東一.二、09東一.三、02東一.一


14.類比の形式と設定

類比の場合も、対比と同じく、一括型「XもYもZ(Z1,Z2…)である」か、分離型「Xは(X1,X2…)であり、Yは(Y1,Y2…)である」のどちらかで答えるが、 類比の場合は共通性の程度や制限字数により、一括型と分離型を慎重に使い分けなければならない。また、これも対比と同じく、直接的に類比が問われなくても、実質は類比の問題だと見抜き、解答構成の中心に据えなければならないことも多い。

→19東北一.三、19名一.三、19神一.四、19神一.五、18東一.四、14東一.一(一括型の典型)、14東一.五(分離型の典型)、16東四.二、18広一.六、17神一.三、16京二.五


15.相似性の利用

相似である関係性をいかして、記述が不十分な解答ポイントを説明する手法である。傍線の箇所と別個に設けられているエピソード(具体例)を適用する場合もここに含む。注意点は、意味内容と本文構成において、二つの項が相似関係にあるのかどうかを十分に検討した上で、採用することである。

→19東北一.二、18東一.一、15東一.四、14東一.三、02東一.四、16東四.三


16.両面性への配慮

物事の片面を説明したときに、言葉の用法や本文構成の観点から、裏面の説明も必然的に求められる場合がある。二者の関係を説明する問題で「X→Y」を説明した場合に、その折り返し「Y→X」が想定されていないかに留意することが肝要である。

→19名一.五、13東一.四、15東四.三、18広一.七


17.理由説明の基本形式(SG式)

理由説明の場合は、始点(S)と終点(G)を定め、その間にある論理的な飛躍を埋めるという定式が流通しているが、おおむね同意できる。始点(S)と終点(G)の落差を見極め、終点=着地点(G)に向けて収束させることを意識づけることは有効だからである。その上で、始点(S)から始め、終点(G)に向かっていく場合(順手)と、終点(G)から逆算する場合(逆手)が考えられるが、ここでは順手のうちで、経由点を複数とるものを挙げておく(S→A→B→…(→G))。

→19広一.五、18東一.五、13東一.五、05東一.一、12東四.一、17広二.三


18.着地点(G)からの逆算(逆手)

理由説明の場合、着地点(G)を意識することは特に重要だが、着地点から直接的な理由を導き、そこに向かって解答を収束させる手法もある。特に、ここでの直接理由は着地点の言い回しや語義を踏まえて慣用的に導かれるものなので、そうした言い回しが多くなる小説や随想でこの手法は有効になる。例えば「言葉少なに座っていた」(→19筑二.一)ならば、場面も踏まえて「余韻に浸っていたから」という直接理由が導かれる、という具合である。

→19阪(文)二.四、19筑一.二、19筑二.三、19広三.二、19広三.三、09東四.四


19.二方面の理由

理由の着地点(G)を意識した場合に、それが二つに分かれる場合もよく見られる。その場合は、理由も二つに分離して、それらがどちらの理由かわかるように提示する必要がある。二つの着地点は傍線で明示されている場合もあるが、本文構成的に(→15東一.二)、あるいは着地点の語義から(→19京二.一)、二つに分離して答えないといけない場合もある。

→19阪一.四(2)、19阪(文)一.四、19筑一.四、17東四.二(内容説明形式)、18名一.三


20.ないある変換

SG式の定式は、理由説明に対する意識づけには有効だが、何が何でもその図式に当てはめようとするのは思考停止の愚策でしかない。目的と手段を取り違えてはならないのだ。理由の終点(G)を意識することで、すぐに直接理由が導ける場合があるのは上に見た通りだが、傍線部が否定表現で終わる場合は肯定表現に返す「ないある変換」も直接理由の導出に有効である。すなわち、「Xではない」の理由については、Xと対比関係にあるYをおさえ、「Yであるから」というようにベースを決める。「ないある変換」は、内容説明問題も含め、様々なケースで役に立つ汎用性の高い手法である。

→19京一.二、19京(理)二.三、19九二.三、19神一.三、13東一.二、10東一.三、15東四.三、18広一.四、17橋一.三


21.根本理由への遡及

直接理由(R1)がすぐに導ける場合、そこからさらに根本理由(R2)に遡ることが求められることもある。理由として答えたものが問いに対して軽く、それが自明ではなく「なぜ」という疑問がうかぶ場合、その前提は何か(R2)を接続語や指示語、本文構成を手がかりに探すとよい。基本構文は「(Sは)R2なのでR1だから」となる。

→19京(理)二.一、19九一.六、19九二.三、02東一.二、02東一.五、17橋一.三、18名一.五


22.小説・随想の着眼(場-心)

ここからは小説・随想(文学的文章)における特有の手法について述べる(~27)。もちろん、以上に述べた手法は小説・随想にも応用できるし、以下の手法の26・27は評論(論理的文章)でも問われるものである。そこで小説・随想だが、基本的には「心情」と「表現」を問う問題に分けられる。直接的には「理由」を聞いていても、その行為に至る「心理(心情)」を問うている場合が多い(→19東北二.三)。「心情」問題においては、「心情」と「場面」は一体であると考え、「場面」を整理し、それと対応する「心情」をまとめる(→19東四.二)。また、比喩や象徴など含蓄のある言葉の理解や言い換えが求められることも多いので、その場合、「表現」も合わせて問われているといえる(→12東四.三)。「表現」問題の説明は、27に譲る。


23.行為主体と関係性の把握

「場面」の整理において欠かせないのは、行為(心理)主体とその主体を中心にした場の関係性の把握である。行為主体の想定がどこまでか、また、その行為主体と対象との関係性がどうであるかを整理すると、自ずとそこでの心情も明確になってこよう。

→19東四.一、19東北二.四、19阪(文)二.二、19広二.一、19広二.二、01東一.四、17東四.二(三角関係)


24.場面整理からの心情の推定

「場面」を踏まえて「心情」をまとめる問いの中でも、そこでの心情と直接対応する記述がないこともある。その場合もパズルのピースを周りから埋めるように状況を緻密に整理し、暗示的な表現なども手がかりにして、これしかないという心情(ラストピース)を特定しなければならない。心情説明の中では難度が高い問題となる。

→19東四.四、19.筑二.一、17広二.七


25.心情の変化(事態の媒介)

小説・随想の問題で、本文の始点(S)から本文の終点(G)に至り、どのように心情が変化したかを問われる場合がある。当然、長めの記述を要求されることが多いが、まずは始点(S)と終点(G)の定点での心情を、それぞれ対比的に整理する。その上で、間にどういう事態(A)が媒介したのかを明確にしてまとめることになる。基本構文は「SがAによりGとなった」となる。

→19東北二.五、19筑二.四、19広二.六、17広二.四


26.象徴の含意

象徴表現とは、具体的な事物に抽象的な含みをもたせたものである。象徴表現は文学的文章、とくに随想において好んで問われる。傍線部やそこから敷衍される参照部に象徴表現が出てきた場合、その事物に込められた含みを解読しないといけないわけだが、比喩(メタファー)(→3)がイメージを感覚的に喚起するのに対し、象徴はより慣用的にその含みを示唆する。よって、より高度な共通了解、文学的素養が試されるわけだが、比較的文脈に依存する問いも多く、総合的に判断してその含みを正しく言い当てなければならない。重ねて重要になるのは言葉への理解と感度であるが、現代国語が日本語を基礎とする学びである以上、むしろ当然のことといえよう。

→19東四.二「母」、19阪二.三「故郷」、19広二.五「がき」、19広三.五「役」「キャスティング」、09東一.五「白」(文脈依存)、16京一.五「オウムガイ」(文脈依存)


27.表現の意図(形式性への着眼)

言葉や表現は文脈に依存するわけだが、一方で特徴的な言葉や表現が文脈をリードする場合もある。表現意図が問われるのは、後者の特徴的な言葉や表現についてである。そう理解すれば、その言葉や表現でなければならない意図を問う問題で、文脈の「中で」答えるのがいかに的外れかがわかるものだ。表現意図を問うているのに、文脈に応じた内容を詳しく説明する「模範」解答がまま見られるが、これは問題の意図を初めから踏み外しているといえる。したがって、「表現」問題は、いったん文脈の外に立ち、メタレベルから該当する表現の前後の落差を見定め、その表現が果たす役割・効果について説明する、という手順をとる。本文内容よりも形式的展開に着眼し、必要に応じて内容レベルの説明を加味するというスタンスで挑まなければならないのだ。誤解の多い問題群なので、この手法をマスターすれば本番で大きな武器になりうる。

→19筑二.二、19広一.七、19広三.五、19広三.六、17東北一.三、17広二.四、16京一.三


28.解答範囲の特定(メタ視点)

解答根拠は、一般的に傍線部の近くにあり、また、指示語などの文法的要素が解答根拠を指し示してくれる場合も多い(→19九一.一、18名一.六)。解答範囲が広くなる場合は、設問の意図や本文構成上の必然性を踏まえて、範囲を限定することが重要になる(→19九一.三、17神一.二、17神一.三)。また、設問間の関係により解答範囲が自ずと決まるケースもある(→13東一.四、10東一.一、05東一.四、16京二.一)。解答根拠が離れている場合は、設問の誘導や本文構成に則り該当箇所を特定する(→19名一.四、19筑一.四)。また、近くの根拠を手がかりにして、離れた箇所にあるより重要な根拠を探すケースもある(「飛び石」戦法→13東一.二、17広二.六)。


29.要約問題への対処法

要約問題については、重要箇所の抽出(ミクロ読み)→本文構成の考察(マクロ読み)→要約文構成の決定(アウトライン)→細部の加味(ディテール)という手順で進めるとよい。詳しくは、2019年の一橋大学第三問の解説を参照してほしい。本書では、東京大学第一問の要約型の問題も定式化した上で、それに則り解答を導いている。ただし、上にも述べたように、定式は問題に挑むにあたっての意識づけとしては有効だが、それに拘泥して思考停止に陥ることなく、あくまで柔軟に活用して思考の飛躍に役立ててほしい。

・内容説明型要約(東大)→19一.四、15一.五、10一.五、09一.五、01一.五

・理由説明型要約(東大)→18一.四、14一.五、13一.五、05一.五、02一.五

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