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第84回 実録エッセー『ここはやはりBrastemp だろう』 カメロー万歳 白洲太郎 月刊ピンドラーマ2023年3月号

2022年も終わりを迎えようという頃、我々はある大きな決断を前にパソコンとにらめっこをしていた。ああでもない、こうでもない。あれは安い、これは高い。などと呟きながら次々と画面をスクロールしていく。何をしているのかというと、インターネット通販の最大手、MercadoLivre で家電を選んでいるのである。それもヘアドライヤーやトースターなどの小物ではなく、全自動洗濯機という超大物である。時代はすでに21世紀となって久しいが、我々は洗濯機という便利なアイテムを持ち合わせていない。正確にいえば、旧式の安物洗濯機を使っている時期もあったが、それも3年ほど前に壊れたきりである。以来、洗濯板付きの洗い場でせっせと手洗いを敢行してきた我々であるが、ついに全自動洗濯機を購入する日がやってきたのだ。

理由としてはやはり、労力の軽減、時間の節約といった項目が挙げられるが、手洗いでは到底キレイにすることのできぬバスタオルや毛布などの大物も、余裕で洗えてしまうところに魅力を感じる。3年前まで使っていた洗濯機は、脱水機能のついていないシンプルなタイプで、それでもかなりの助けになったが、今回購入を検討しているのは、脱水機能のついた紛れもない全自動洗濯機。ちゃむが1番重要視している購入要件である。

当然のことながら、タンク内が一定方向に回転するだけのシンプルなタイプとは価格帯がまったくちがう。メーカーや容量にもよるが、大体2000レアル前後の出費は覚悟せねばならぬという、我々にとってはかなりの大物なのである。

オレもついに全自動洗濯機のオーナーになるのか…!!

つい目頭が熱くなってしまうボクであったが、じゃあどれにする?という段階になると、各種メーカーが様々なモデルを販売しているので、目移りしてしまう。しかしテクノロジーが発達した現代では、YouTubeやインターネットなどで各種モデルの評判、使い勝手など、ある程度の事前情報を得ることが可能になっているのであり、我々は目を皿のようにして、その手の情報を収集したのである。

結果、『ここはやはりBrastemp だろう』
ということになった。Brastempについて詳しいことは何も知らないが、どの家電売り場にも必ず置かれている有名メーカーで、巷に溢れている安物メーカーたちと一線を画しているのはマチガイない。
『せっかく買うなら一流メーカーのモノを』
これがボクとちゃむの一致した意見であり、昔は低価格商品にばかり目が向いていたボクであるが、最近は考え方も変わってきた。その根底にはやはり『安かろう悪かろう』という思想があり、それを裏付けるような経験をボクなりにしてきたということでもある。

だからこそのBrastemp。ブラジルの家電メーカーの中でも圧倒的な存在感を漂わせているし、ボク自身、このメーカーの商品をひとつも所有したことがないという点にも興味をひかれる。
『Brastempよ。おぬし一体どれほどの実力をもっておるのか?その力、わが藩で役立ててみてはどうだ?悪いようにはせんぞ!』
などと、有力な武将を欲しがる殿さまのような気持ちにさせられているボクなのである。

ちなみに我が家ではElectroluxというメーカーを贔屓にしており、冷蔵庫と電子レンジを所有している。電子レンジは去年壊れてしまったが、10年以上も正常に動いてくれたし、修理した後も未だに現役だ。冷蔵庫は去年、ついに憧れのFrost Free タイプ(霜がつかない機種)を購入、たまにビックリするほどの音を立てるときがあるものの、今のところ絶好調といって良いだろう。
『だったら洗濯機もElectroluxでいいんじゃないの?』
と、つい保守的な考えが脳裏をよぎることもしばしばであるが、ここはやはり新しい風を吹かせたい。我々は清水の舞台から飛び降りる気持ちでBrastempの購入を決意したのである。

よし、買うぞ!と、ポチるつもりで改めてMercadoLivreのサイトをチェックしたボクであったが、
『???』
昨夜見たときよりも、50レアルほど値上がりしているのである。あれ、何かのマチガイかな?と目をこすってみるも、やはり同じ販売店の同じ商品である。
『ひと晩で50レアルも?』
狐につままれたような気持ちになったボクは、とりあえずその場での購入を見送ることにした。

翌日。目が覚めるとともにMercadoLivre をチェックすると、なんと昨日よりもさらに50レアルほど値上がりしている。
(2日間で100レアルも?)
何かとてつもないことが起きているようである。せっかく購入する決意をしたというのに、少し躊躇っているうちに100レアルも値上がってしまった。明日にはさらに高くなっているのであろうか?であれば一刻も早くポチるべきであるが、こうも急激に価格が変動しているとなると、上がったのちに下がる可能性も十分にある。今ここで動くのは性急だ。とばかり、さらに様子を見ることにしたが、数日の間に500レアル以上の値上がりが行われ、送料を含めると2600レアルほどの価格になってしまった。払えぬ金額というわけではないが、1週間前との価格差があまりにも大きく、ちょっと馬鹿馬鹿しいほどである。それからは、ヒマさえあればMercadoLivre をチェックする日々。さすがに2600レアル以上にはならなかったが、小さな変動は毎日行われ、ボクは首をひねるばかりであった。

我々の予算は2000レアル前後だったため、このままいけば購入機種の変更も視野に入れざるを得ない。そんな心持ちになったある日、いつものようにサイトをチェックしていると、突然、送料込みで2170レアルという数字になった。諸々の事情を鑑みると、ここらが潮時だろう。覚悟を決めた我々は、震える指で『comprar (購入する)』のボタンをポチり、めでたく全自動洗濯機のオーナーになることができたのである。

それから10日ほどして本体が届き、せっかくだから開封動画を撮影して、ボクらのYouTubeチャンネル『ブラジル露天商しらすたろう』で公開しよう!ということになったのであるが、当初は大いにノリ気だったその企画も、日々を漫然と過ごすうちになんとなく億劫になり、結果、現在に至るまで洗濯機は開封されぬままになっている。

居間のど真ん中に鎮座ましましているBrastempは、ハッキリ言って邪魔者であり、我々住民の妨げになっているのであるが、いつか小生のYouTubeで開封動画を公開する予定なので、興味のある方は是非、チャンネル登録をしてお待ちください。

それではまた次号!

白洲太郎(しらすたろう)
2009年から海外放浪スタート。
約50か国を放浪後、2011年、貯金が尽きたのでブラジルにて路上企業。
以後、カメローとしてブラジル中を行商して周っている。
yutanky@gmail.com
Instagram: taro_shirasu_brasil
YouTube: しらすたろう
Twitter: https://twitter.com/tarou_shirasu

月刊ピンドラーマ2023年3月号
(写真をクリックすると全編PDFでご覧いただけます)

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