「ブラジルの医療って危険なの?(前編)」 開業医のひとりごと 秋山一誠 月刊ピンドラーマ2023年10月号
今月は4月に開始した「我々人類の将来を脅かす糖尿病」のひとりごとは一休みです。最近当地の駐在員社会の中で「医療事故で死亡した件」の噂が出回っていること、コロナ禍が一段落したためサンパウロにも新規の赴任邦人が増えてきていること、等を踏まえて今回は当地ブラジルの医療に関する疑問について真偽型の設問でひとりごとしてみます。
まず、下の表に日本とブラジルの医療の違いを示します。これらの差異をふまえた上で、設問の回答をご覧ください。
疑問1:ブラジルの医療は危険である。
回答:「真」
まず、医療自体が危険です。医療は元々病気を治したり、病気にならないような措置をしたりして人間に役立つのが存在意義です。しかし命を扱う業務なので、一番命に関わる仕事なのです。なので、措置を失敗すると医療事故という事態になり、そのうち最悪の事態が「医療事故による死亡」です。米国の統計では年間44,000人〜94,000人の医療事故による死亡があると試算されてます。日本では年間100〜150人といった数字があります。この数字の開きは法律的な「医療事故・医療事故による死亡」の定義の違いや医療制度の違いによるもの(註1)ですが、確実に医療事故といった事故はありますし、それによる死亡も存在します。ブラジルの場合、さらに危険です。当地の社会のすべてにおいてピンとキリの間がとてつもない距離があるのはこのコラムの24人の読者様もよく承知されておられるとおもいますが、医療に関しても同じです。医師・医院・病院を標榜していても最低限のサービスすら保証がありません。ブラジルでは医師国家試験がないので、医学部を卒業したら医師を名乗ることができます。また、2013年に労働者党政権下で始まったPrograma Mais Médicosという「ブラジルの医療が行き渡らないのは医師不足である」と言う誤った見解を元にした政策のため、医師免許すら持っていない外国人や海外の医学部に通学したブラジル人が医業をしている状態です。
対策:①医療従事者の出身校、専攻など学歴をチェックするのは必須。医療機関に関しては、どこの学派であるかや雇用規準を把握することは必須。②一番の宣伝は口コミといいます。周りの人達の評価は非常に重要です。
疑問2:ブラジルの医療の手技は低度である。
回答:「真」
全体的にはレベルは高いとは言えないと思います。特に都会と地方の差は大きく、なかなか差が埋まりません。サンパウロ大学医学部付属病院の周辺には地方から来た救急車や行政の車両が何十台も見かけられますが、これらは田舎から高度医療を受診に来る患者さんの搬送なのですね。また、サンパウロ市のような大都会でも地域差が大変大きい。加入している医療保険の善し悪し(高額・低額)で使用できる医療機関の差が顕著にあります。一般的に公共医療のほうがレベルが低いと思われがちですが、これらに採用されるには一応公務員試験があるので一定レベルの担保はあると思います。かえって安い医療保険で利用できる医療機関こそがレベルが低いです。理由はそのような所に採用されるには試験はありません。雇用側が提示する報酬(低いのが普通)を承諾する者が採用されます。この状態はさらに酷くなるのは間違いありません。前問で出ている医者を増やす政策で、2002年以降無尽蔵に医学校が設立されたため、2022年時点ではブラジル全体に334校あります(註2)。医学教育に必須の病院がない市町村にも医学校があります。最近では入学試験すらない学校も出てきています。ろくな教育を受けていない“医師”が溢れるのは特殊な計算をしなくてもわかりますね。しかし、ピンキリの上の方は日本でも一般的でない高度な施設や教育・訓練を受けているので、良い所さえ選択すれば世界的にみても何処にも引けを取らない環境です。
対策:前問と同じ。
疑問3:ブラジルの医療報酬は高すぎる。
回答:「偽」
表でも示しているとおり、医療のやり方が異なるので一概に日本と比較できません。まず3分診察でないので時間をとった診療であること。自由診療で受診すると10割請求されますので1割請求とは額が一桁違うこと。日本では診察費以外に管理料、電話相談料、基本料、時間外料、文書作成費など色々加算がありますが、当地の場合の医療費はコミコミが普通といった点が違います。また、医療機関により報酬額が自由に設定できるのもブラジルの特徴です。
対策:良質な医療保険を利用できるようにする。
(次号に続く)
月刊ピンドラーマ2023年10月号表紙
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