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「ブラジルの医療って危険なの?(後編)」 開業医のひとりごと 秋山一誠 月刊ピンドラーマ2023年11月号

前回に引き続き当地ブラジルの医療に関する疑問について真偽型の設問でひとりごとしてみます。

疑問4:ブラジルで流通している薬は危険である。

回答:「真」

一般的に市販されている医薬品は当局の認可を受けたものなので、例えば中国で流通しているような訳のわからない薬ではありません。しかし、用量が日本とは異なることが多く、そのような場合は日本で使用する量の2倍強です。日本人種は欧米人種と比べて体格や代謝が異なるのでブラジルで使われる量は過剰になりやすいので注意が必要です。特に日本人種の女性(註1)は明らかに体格が異なるのでトラブルになりやすいです。このような事情があるので、「ブラジルで使用される薬は強い」といった話になるのです。

対策:これは日本人種の特徴を理解している医療従事者にかかるしか対策のしようがないと思います。

『日本人種は薬の用量の違いだけではなく、ブラジルで実施された検査の基準値の相違もあるぞ。正常範囲と安心していたら、日本人種の基準値では異常値であることも臨床現場でよくみるぞ』

疑問5:ブラジルでは日本で使用されない薬を出される。

回答:「真」

最近日米では使用禁止になっている解熱鎮痛剤の一種のジピロン(英語dipirone,  ポル語dipirona, 商品名 Novalgina®)の副作用、無顆粒球症が広範囲に報道され、医療に関する不安材料になってます。認可制度などの違いからブラジルと日本で流通している医薬品は100%同じではありません。日本は1991年まで外資系の製薬会社の活動を制限していた歴史(註2)があるので、日本の製薬会社が開発した独自の医薬品が多く、国内でしか使用されない薬が多いです。なので、当地の医者側からしたら反対に日本では海外で使用されない薬を出されていることになります。

対策:①日本で流通している治療薬を把握している医療従事者にかかり、投薬の調整をしてもらう。②前述のジピロンのように日本で使用されない薬を日本人種に投薬経験が豊富にある医療従事者にかかる。


疑問6:ブラジルでは処方箋なしで薬が購入できる。

回答:「真」

これはブラジルの薬局が商売として甘いだけで処方箋が必要な薬を処方箋なしで販売しているからだけです。このような事情があるため、販売したら当局に処方箋を提出しないといけない治療薬の分類があります。そのため当地では処方箋は四段階に分かれ、使い分ける必要があります。詳しくは2022年9月のひとりごと(ブラジルには4種類も医療用処方箋があるのだ)をご覧ください。

対策:薬局で「自由に購入できる市販薬」ではない処方薬(正式名:医療用医薬品)は効き目が強かったり、副作用が強かったりなどで医療従事者(この場合は医師、歯科医師、獣医師)の判断が必須であるからこそ処方薬なのである。慢性の疾患なので、勝手に医薬品を購入し漫然と服用して治療になっていると思っている患者さんはいっぱいいます。自己投薬行為(auto-medication)と呼ばれ、後進国によくみられる現象です。しかし実は病態が進行している場合も多くみられる。副作用で命に関わる場合もある。伊達に処方薬として流通しているわけではないので、ちゃんと医療従事者の判断(診察)を受けることが大切と考えます。


疑問7:ブラジルでは日本語が通じる医療機関が多くて助かる。

回答:「真」と「偽」の両方です。

真の部分は「多くて」で、偽の部分は「助かる」です。当地は日本以外では一番たくさん日系が住んでいる国です。医療従事者ともなると日本の色々な奨学金制度で日本へ留学している方も多いです。なので、他の国と比べて圧倒的に日本語が通じます。日本の政府系の給付金や企業の助成金が出ている医療機関もあります。しかし筆者はこのような環境のため「助かる」部分が「偽」と考えます。日本語ができるイコール日本人種の特徴や日本人特有の文化や価値が理解できているわけではないと思います。前述の問題点に展開したとおり、医療の場合、「日本語が通じるだけ」 では不十分なのです。

対策:医療従事者や医療機関を選ぶ時にはまず技術的な熟練度や設備の内容などを最重視し、その上言語的なコミュニケーションがスムーズにいけば言うことなしといった手順こそがよろしいのではないでしょうか?


註1:ここは「人」ではなく「人種」がポイント。つまり混血していない日系も同じ条件である。

註2:日本の薬事法により、1991年までは外資系は自由に日本市場で治療薬の販売ができなかった。日本の製薬業界のために市場閉鎖していたのだな。


秋山 一誠 (あきやまかずせい)
サンパウロで開業(一般内科、漢方内科、疫学専攻)。
この連載に関するお問い合わせ、ご意見は hitorigoto@kazusei.med.br までどうぞ。
診療所のホームページ www.akiyama.med.br では過去の「開業医のひとりごと」を閲覧いただけます。

月刊ピンドラーマ2023年11月号表紙

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