明治期宇都宮の初午料理「すみづかり」
「初午」というのは2月最初の「午」の日を指すが、この日はお稲荷さんの祭礼の日と決まっているようだ。
今では新暦でおこなうところが多いようだが、本来は旧暦。今年2022年は、今月3日が陰暦2月のはじまり、そこから数えて最初の午の日はその4日、つまり陽暦3月6日(日)にあたるらしい。
前に☝「元旦」論3回目でも取り上げた、明治後期の百科事典『國民百科辭典』をみてみると、次のように書いてある。
和銅四年は西暦でいえば711年だからときは奈良時代、ずいぶんとまた古いお話だ。
☝これも以前同じ合本のほかの号をご紹介した明治20年代の『風俗畫報』に載っている、東京は金町の半田稲荷大社の当時のようす。
この半田稲荷神社も、和銅四年創建説もあるのだそうだ。
表紙絵は、王子稲荷神社の初午風景らしい。
☝このお狐さんがたしか、王子土産じゃなかったかな。
ところで、『改訂新版 世界大百科事典』の「初午」項には、民俗学者の田中宣一が次のように書いておられるようだ。
この「スミツカリという独特の食品」について、これまた以前も引用した☟『婦人寳典』という本に紹介記事があるのだが、おそらく土地の方にもこの本は知られていないとおもわれるので、この際ご覧に入れることにしよう。
卷の三の鼇頭に「各地特殊の料理」という記事がある。
編集発行元の大日本女學會が各地方の会員から募ったレシピのなかから30種ちかくを択び、それに料理の家元☟四條流9代の石井泰次郎
が評を加え、ついでに蘊蓄も披露する、というなかなか面白い企画だ。ちょっと『オレンジページ』みたい? ちょっと違うかな?ww
これの最後に、宇都宮市の方が投稿された「すみづかり」という料理が載っている。
古式の料理法を代々受け継ぐご一族の当主である石井のご興味を大いに惹いたようで、このコーナー中最長の記事になっているのだが、実はこれ、現在では「しもつかれ」と呼ばれる当地の郷土料理と同じものらしい。
「すみづかり」と「しもつかれ」、だいぶ語感が違うけれど……。
「鬼卸」というのは☟こういう(画像3番目に出てくる)道具らしい
が、ご存知なかったらしい石井が指摘しておられる山東京傳『近世奇跡考』
卷之三にある図というのは、「古代山葵擦圖」というもので、説明文を読んでみても「おにおろし」とは書かれていないようだ。ということは「おにおろしとは」はこの引用の後の疑問文にかかっているのだろうが、ちょっとわかりづらい。
「是に似たる器にや。圖を以て示されたし。」とまで仰せだが、結局ご覧になれたのかどうか。この『婦人寳典』再版にもその図が載っていないのは残念……。
ここにいう『貞丈叢書』はインターネット公開はされていないようだ。伊勢貞丈は十八世紀の有職故実家とのこと。
ということでその中身はわからないのだが、その次の『宇治拾遺物語』の方は喜多村信節『嬉遊笑覽』卷十上にも出てくる。
これに添えてある解説によると、「酢むつかり」に使われていた「酢」は、元々は柚子の果汁だったようだ。
石井は「酢が睦まじく着く」から「スムツカリ」なのでは、とのお考えだったようだ。ただ、「考ふべし」と2度も書いておられるように、確信はお持ちになれなかったとみられる。
それはともかく、明治時代あたりまでの宇都宮周辺地域では「すみつかり」「すみづかり」と呼ばれていたものが、いつの間にか「しもつかれ」優勢に変わってしまったようだ。だから今日ではなおさらのこと、☟宇都宮大学『宇都宮大学農学部學術報告』12巻1号掲載の阿部憲治+鈴木健治「栃木県郷土料理「しもつかれ」の製法検討」にも紹介されているように、さまざまな語源説が出ているのだろう。
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この記事を書いているヤツは、実はひょんなことからここ何年か、栃木ご出身の方にご実家製「しもつかれ」のお裾分けをいただいている。
こんなことでもなければ、恐らく一生口にする機会はなかったろう。
チーズが結構合うお味☆ とおもうので、いつもとろけるヤツをかけてチンしていただいている。
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