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短編小説 | えっ?!何かご用?!

(1)

 後ろ姿が元カノそっくりだった。5年前に別れてから、もう一度も会っていない。ほとんど喧嘩別れのような感じだったから、声をかけようかどうか迷った。今更とくに話すことはない。そして、だいぶ時間が過ぎていたから、彼女に期待することは何もない。しかし、今なら少しは冷静に話すことが出来るような気がして、話しかけてみようかな、と思った。別に長話するつもりはない。ただ、お互いの生存確認くらいはしてもいいのではないか?

「久しぶり、ミナミ!」

 振り向いた女は全くの別人だった。

「えっ!、何で私の名前をご存知なのですか?」

 どうやら、その女も偶然にも、ボクの元カノと同じ名前らしい。

「えーと、ミナミさん。どうやら私は… …」と言いかけたとき、女が言った。

「あっ、思い出した。東くんだよね。懐かしいなぁ。元気でしたか?」

「うん、元気だったよ。ミナミも元気そうだね」

 女のほうも、私のことを「東くん」だと思い込んでいるらしい。私の本名は「東」だから、こんな偶然もあるんだなと思った。お互いにお互いのことを他の誰かと勘違いするなんて。せっかくだから、とことん東くんを演じてみることにした。

「ミナミ、覚えていてくれたんだね。嬉しいよ」

「東くんのほうこそ。忘れるわけないじゃない?声をかけてくれて、どうもありがとう。ところで今は暇かな?私は暇なんだけど。ちょっとコーヒーでもどう?」

「うん、暇だよ。そうだね、ちょっとカフェで、昔話でもしようか?」

 予期せず、見知らぬ赤の他人の女の子とデートのような雰囲気になってきた。彼女の思い出の「東くん」はどういう人なんだろう?いろいろと妄想に耽りながら、考え続けた。

「じゃあ、あそこの👵SUTABABA👵コーヒー☕にしようか?」 

 ミナミは言った。
「👵SUTABABA👵コーヒー☕、行ったことがないから楽しみ😄」

「じゃあ、一緒に行こう!!」

(2)

 二人一緒に歩きながら、👵SUTABABA👵コーヒーの入り口までたどりついた。その時になって、ミナミは私の横顔を見ながら、こういった。

「あれっ、東くんてさ、なんか雰囲気が変わったかなぁ?横顔がまったくの別人に見えるんだけど」

 さすがにバレたかな?、と思ったが、私もおうむ返ししてみた。

「あれっ、ミナミの横顔を見るとさ、なんかボクの知っているミナミではないような気がするんだけどなぁ?」

 ミナミはしばらく沈黙したあと、

「5年前に別れてから、いろいろありましたから。だから、中身の人間が変わったのかもしれません。あなたが私の人生を変えました」

(3)

 なんか話が妙なことになってきた。見ず知らずの女に罵られているような気がしてきて、そろそろ、「私はあなたの東くんではありません」と告白しようかと思い始めた。

「ミナミさん、私はあなたの東くんではなく、全く別人の東なんだよ」

 その時に、ミナミの顔が豹変した。ボクに近寄って来て、「東くんはいつも逃げるのよね」と言った。
 次の瞬間、左脇腹に激痛が走った。脇腹をおさえたボクの手は真っ赤に染まっていた。

 これが、ボクのこの世での最後の記憶である。


おしまい

フィクションです😄

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