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#聖なるウソを呟いて

「約束ね。付き合うからには、お互いに隠し事をしないこと。ウソをつかないないこと。絶対ね」

僕が彼女と付き合うようになった最初に交わした約束だ。それからもうすでに3年の月日が流れた。

正直に言うと、彼女に対する思いは冷めつつあった。

付き合い始めた頃は何もかも新鮮だ。
初めて彼女の手に触れること、手をつないで歩くこと、初めてのデート、初めてのキス、そして初めての夜。

女との付き合いは、初デートした頃がいちばん気持ちが高揚するものである。そして、初めての夜をともに過ごした瞬間に、恋愛の熱はピークに達する。

もちろん、その後も、熱せられた硫黄と鉄の化合のように、化学反応はつづく。それなりの熱を保っているが、やがて徐々に冷めてゆく。言葉は悪いが、惰性の恋愛に堕する。

「あたしのこと、今も愛してる?」
突然、彼女が尋ねた。

僕は少しテレる気持ちもあって
「どうかな?最初の頃より、少し冷めたかもしれない」と言った。冗談めかしたように。

「そこはウソでも、『愛してる』って言ってほしかったな」

僕はとまどった。

「最初の頃、僕たちは約束したよね。お互いにウソはつかないって」

「あたしだって馬鹿じゃない。私は気づいてた。あなたの気持ちのピークは、初めての夜を過ごしたときだったってこと。だけどね、たとえ気持ちが冷めていたとしても、『愛してる』と言い続けて、それを完璧に演じてくれたなら、それは決してウソなんかじゃない。『聖なるウソ』は、真実そのものへ変わるものよ」




#青ブラ文学部
#聖なるウソを呟いて

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