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[番外編]アートのプライベートブランド化〜手ぬぐい展 開催に向けて〜

はじめましての方も、そうでない方もこんにちは。東京・中目黒で「日本をアーティストにとって活動しやすいフィールドにする」ため、Picaresque(ピカレスク)という「ちょうどいいアート専門店」を営んでいる松岡詩美です。

お客様一人ひとりに、居心地のいいギャラリー空間を提供し、アートをもっと気軽に見て楽しんでいただきたい。そうすることが、日本をアーティストにとって活動しやすいフィールドにする第一歩だと考え、Picaresqueは実験的な活動を繰り返してきました。

おかげさまで、ご近所の3歳児から90歳のおじいちゃん、海外旅行中の外国人団体客、ピカソを知らない女子高生、上京したての新卒サラリーマンなど、多種多様なお客様がご来廊下さり、それぞれPicaresqueで展示中の作家さんのファンになってくださいました。

それは素直に嬉しく、素晴らしいことだったと思います。

ですがそれと同時に、少しずつ一つの考え、観点が大きくなってゆきました。

アートに関する専門的な教育を受けられていないお客様に門戸を開き、ギャラリーで展示販売中の作品をご覧頂き、楽しんでいただく。作家さんのファンになって頂く。

けれど私はお店番に立つ中で、値札に記載されている価格を見た時、一瞬お客様の顔から表情が消える瞬間を何度も見てきました。

1枚の絵を描き上げるのに、1点のオブジェを完成させるのに、アーティストがどれほどの苦しみを乗り越え、時間をかけ、想いを込めて制作しているかを知っているからこそ「妥当」と思える値段であったとしても、やはり「美術作品を買ったことが無い人」の日常的な感覚からすると、その価格は確かに「高い」と言っても過言ではありません。

「高い」けれど「妥当」。

ですが「妥当」とは言え、お客様の「買えるかどうか」の線引きは非常にシビアなものです。

より多くの人々に気軽にギャラリーにお越しいただいたとしても、その方たちが気軽にコレクションすることができる価格帯の作品が無いということは、活動の矛盾に繋がるのではという着想が少しずつですが大きくなってゆきました。

もちろん、「妥当」な価格で作品を継続して販売してゆくことはアーティストの自立に繋がり、それはPicaresqueが切願している状態でもありますので、今後もその地平を目指した活動を続けてゆきます。

ですがそれと同時に、お客様それぞれのご状況に「寄り添える」アート作品があってもよいのでは、と考えました。

人々のニーズに応えたものはアートではない、という考え方があることはよく理解しています。ですがそれと同時に、特に日本において前世紀のサブカルチャーが次世紀のファインアートになるということは、歌舞伎や浮世絵、最近では漫画が第9の芸術と呼ばれるようになったことからも見て取れるように「趣味から文化への進化」の一般的な流れだとPicaresqueは考えています。

そういった考えから、Picaresqueは実験的にアートのプライベートブランド企画をスタートしました。

プライベートブランドとはそもそも、小売などの業者が企画したオリジナルのブランド商品を指します。Picaresqueの考えるアートのプライベートブランドとは、アーティストが制作した作品を「原型」として、作品の世界観やテイストにあわせた「複製品」をPicaresqueが主導して展開するものです。これは、作品を1枚描くことでアーティストが得られる収入額を増やす実験の面もあります。

これまでPicaresqueは、とても簡単な「アートのプライベートブランド」商品を企画販売して参りました。

例えば、とあるアーティストのファンのうち10代〜20代前半の女性は、作品価格がネックで中々そのアーティストの「平面作品」をコレクションできずにいました。そこで、売約済みの「平面作品」のポスターを、2種類の紙を用いてPicaresqueで作成しました。一つは、暖色がほんのり感じられるあたたかみのある色合いの紙に、もう一つは写真印刷にも用いられることが多い、発色が素晴らしくよい紙に。これにより、多くのお客様、特に学生がご自宅にこのアーティストのポスターを飾ってくださるようになりました。「今はお金がないから買えないけど、いつか買いたい」というお話を頂くこともあります。「いつか欲しい」という気持ちは意外とすぐ消えてしまうものですが、アーティストと鑑賞者を繋ぎ続ける一つの絆として、このポスターが末永く機能してくれるのでは、と期待しています。

また、別のアーティストが描いた、平面作品に登場する特徴的なキャラクターを切り抜き「ステッカー」にしました。ステッカーは手帳やノートの表紙など、毎日目に触れる場所に貼って頂くことが多い印象です。そうして繰り返しステッカーの絵を鑑賞されたお客様が、同じアーティストが描いた作品をご覧になった際、例えそのキャラクターが登場していないものであったとしても「(作者は)このステッカーと同じアーティストですか?」という指摘をされることが多々あります。毎日ステッカー1枚が目に触れ続けたことで、そのアーティストの作品世界の本質を掴まれた小さな事例です。

それと同時に、皆様が一様に仰られるのは「やっぱり原画はいいですね」という一言。そしてキャプションを見ても、お客様の顔から笑顔が消えることはありません。どちらかと言うと、恍惚とした、うっとりした表情であることが多い印象です。

毎日の暮らしの中で「複製品」を鑑賞し続けたことで、「原画」と「複製品」の違い、また「原画」の価格の「妥当性」を感覚的に気づいて頂けたのだと考えています。更にこれは「趣味が文化に転換した瞬間」ではないかとPicaresqueは思っています。

やはりこういったことはPicaresqueが言葉で伝えても中々伝わりにくい感覚ですので、実際に体験して頂けたほうがよいのかもしれません。

Picaresqueの活動目的である、「日本に自立したアート鑑賞者を増やす」「日本のアート市場を2倍にする」「日本をアーティストにとって活動しやすいフィールドにする」。これらを達成する上で、ポスターとステッカーの事例を通じ、アートのプライベートブランド企画は有効かもしれない、という仮説が立ちました。

また、現在アーティストが行っている表現が、既存の美術業界からアートとして認められるということよりも、人々に求められ、暮らしに根付いてゆき文化として残ってゆくことの方に、Picaresqueは興味を持つようになったのかもしれません。

加えて、アーティストが絵を描くことで得られる収入を変えること無く(作品の値下げなどすることなく)、かつお客様も気軽にアート作品を購入し、アートとの暮らしをお楽しみ頂くために今回、Picaresqueは一歩踏み込んだアートのプライベートブランド企画として、手ぬぐい展を開催するに至りました。

今回の企画では、3名のアーティストに、手ぬぐいの元となる原画をお描き頂きました。それを図案化し、注染(ちゅうせん)という伝統的な染めの技法を用いて手ぬぐいを染めました。完成した原画と手ぬぐいは、基本図案は同じなものの、筆と染め、キャンバスと布、それぞれの素材ならではの特徴を持った、異なる風合いを持った「作品」になります。手ぬぐいは1枚売れるごとにポスターやステッカー同様、原画を描いたアーティストに報酬が入ります。作品やアーティストへの理解、共感がこの手ぬぐいを通じて生まれればと思います。

また、今回新たにPicaresqueのプライベートブランドのラインナップに加わる手ぬぐいは、ポスターやステッカーよりも更にお客様の生活に入り込める、変幻自在なアイテムであると考えています。

手ぬぐいはタペストリー、カーテン、あるいはファブリックボードにしてみるなど、居住空間にお客様主導で自由に展示することができます。加えて、「代替可能な作品」ですので、汚れたり破損したとしても、世界に1つしか無い原画と同様の大きな罪悪感や責任感を感じる必要がありません。更に、手ぬぐいは布でもありますので、バッグやシュシュ、中にはペット用の甚平など、リメイクすることでよりそれぞれのお客様の生活に組み込むことができます。

今回のプライベートブランド企画で発表する手ぬぐいたちは「洗濯機で洗える絵」「裁断できる絵」そして「私の生活に歩みよる絵」という考え方ができるかもしれません。基本的に欧米を中心とした美術作品の売買において、作品が第一、その次に人、という優先順位を感じることがあります。長い歴史の時を超えて市場を旅し続ける美術品。購入者は、それを自身の暮らしの中で自由に鑑賞して楽しむというよりも、お金を投じてその作品の保護に務める、見方によっては人が作品に従属していると言えるかもしれません。ですが、それはあくまで美術の専門教育を受けたアッパー層たちのアートの楽しみ方でしかありません。日本で暮らし、毎日を営む私たちにそういったアートとの関わり方はあまり馴染まないように思います。

明治維新で定義があやふやになってしまった日本の「芸術」あるいは「アート」。Picaresqueは先述したとおり、文化の先駆けはいつも趣味の流行から始まるものだと考えています。美術に造詣は無いけれど、趣味のプロであるお客様一人ひとりの生活、暮らしの中で「絵」がそれぞれの輝きを見せてゆく。そして、毎日の鑑賞が、絵で描かれている作家独自の世界観の理解に繋がり、作品への愛着やアーティストへのリスペクトの気持ちも自然に湧き上がってくるのではないかと考えています。

そうして、作品の価格を「妥当」であると感覚的にご理解頂く。

Picaresqueは今後、多くの人に気軽にお越しいただき、多くの人が気軽にコレクションできる作品が揃っており、もっと作家独自の世界を楽しみたくなった時にもコレクションできる作品が揃っているお店として機能して行ければと考えています。

アートのプライベートブランド化。アーティストがアーティストとして生きてゆくための新しい仕組み。気軽にアート作品をコレクションすることができる仕組み。今回の手ぬぐい展は、そういった仕組みを見つけるための実験的な企画の一つであり、かつ欧米や流行に左右されない、日本独自のアートの姿を見つけ出すための探求でもあります。

また、西洋にルーツを持つ日本の美術教育の中で学び、現代の日本を生きるアーティストたちが描いた原画が、日本の伝統的な手ぬぐい染色技法・注染で手ぬぐい化される。西洋の美術ルールと日本のサブカルチャーの文脈が絶妙に入り交ざる現在の日本のアーティストの感覚と、守り育まれてきた日本独自の伝統文化の合体。それが現在を生きる鑑賞者とぶつかった時にはじめて、新たな趣味、文化の先駆けが生まれるのではないかと考えています。

2016年秋、Picaresqueで開催される手ぬぐい展は、ただ完成した手ぬぐいを並べた展示なのか、現在の日本で新たな文化が芽生える発心の場となるのか、ぜひご高覧のうえお確かめ下さい。

Picaresque 松岡詩美 拝

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■「手ぬぐい展」 概要

開催期間:2016年9月20日(火)〜10月9日(日)

     12:00〜19:00

開催場所:Picaresque(ピカレスク) 

     〒153-0051 東京都目黒区上目黒3-1-13

     (アクセス)中目黒駅より徒歩5分

展示内容:

 ピカレスク参加作家の3名(あべせいじ・飯田彩香・イクタケマコト)が原画を制作し、それをもとに、各作品10枚ずつ手ぬぐいを作成します。原画・型紙・手ぬぐいの3つの行程を一度に展示する企画です。なお、手ぬぐいは他店舗での委託販売も予定しております。

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Picaresque(ピカレスク)とは

日本をアーティストにとって活動しやすいフィールドにすることを目標に、若手作家を中心にアート作品の展示販売を行うギャラリーです。普段アートと接点のない方にとっても、「ちょうどいい」と思えるアートをご提案しています。

・公式ホームページ: http://gallerypicaresque.jimdo.com/

・facebook:https://www.facebook.com/picaresquejpn/

・Twitter:https://twitter.com/picaresquejpn

・Instagram:https://www.instagram.com/picaresquejpn/

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