![マガジンのカバー画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/122284280/794f4eccab83465317c7bb7722647b35.png?width=800)
- 運営しているクリエイター
2023年12月の記事一覧
羊の瞞し 第3章 REALISTICな羊(4)
(4)備品調律
梶山との食事を終え帰宅した響に、宗佑は大して関心もなさそうに「今日はバイトは?」と問いかけた。その様子が、あまりにも呑気で緊張感がなくて、響は少し苛立った。
そもそも、正社員として定時まで働いた後に、何故バイトをしなくてはいけない状況なのか? 誰のせいで、響がこのような境遇に陥ったのか? その一番の要因である宗佑が、家計や収入に無関心なことに響は腹が立った。同時に、少しだけ、
羊の瞞し 第3章 REALISTICな羊(5)
(5)Träumerei
昼食を終え、三原池センターに戻った二人は、先ずは午前中に響が調律したレッスン室に向かった。調律のチェックだ。
ピアノ椅子に腰掛け、無言で試弾する梶山の傍らで、響は緊張の面持ちで講評を待った。梶山は尚も無言のまま、長三度、完全五度、オクターブ、2オクターブなど、様々な検査音程で唸りを確認する。そして、徐にピアノの演奏を始めた。バッハのインベンションだ。
お世辞にも上