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広告の企画立案や制作指示に求められる能力って? クアドラ所属のディレクターに聞いてみた

ピラミッドフィルム クアドラ(以下、クアドラ)では、6つのチームが同じフロアでフレキシブルにコミュニケーションをしながら、日々新しいものづくりに邁進しています。そのなかでディレクションチームが担っているのは、クライアントの課題を解決するための企画立案と制作指示。高いクオリティが求められる現場で、ディレクターたちはどのように力を養い、発揮しているのでしょうか。今回は、阿部達也と清水康祐の2名のディレクターに話を聞きました。


メンバー紹介

阿部達也(あべたつや)
クリエイティブディレクター / ディレクションチームマネージャー
1988年大阪生まれ。栃木・岐阜・長崎・大阪と転勤を重ね、2011年より上海で就職。デジタルを活用した課題解決や価値創造におけるプランニングとディレクションを手掛ける。2016年に帰国し、現在は東京を拠点に活動中。

清水康祐(しみずこうすけ)
ディレクター
2000 : PYRAMID FILM  / CM Dir
2009〜 : PYRAMID FILM QUADRA / Interactive & Mov & Promotion Dir

企画・ディレクション職としての個性は、人間の非合理性のなかに現れる

━━クアドラにおける企画・ディレクション職の役割はどのようなものでしょうか。

阿部__ひとつは仕事の入口になること。プロデューサーに同行してクライアントから話を聞いて、課題を解決するためのアイデアを考えて提案します。もうひとつは、制作におけるクオリティのコントロール。どのようなビジュアルや体験が最適かを見極め、メンバーに指示を出していく役目を担います。

━━二人はなぜ企画・ディレクション職になろうと?

清水__僕は90年代のCMやMVに影響を受けています。当時広告業界では大貫卓也さんや中島信也さんといった方々が第一線で活躍されていました。またMVも映像の表現がとても発展した時代で、海外のディレクターではクリスカニンガムやミシェルゴンドリーなど超スーパースターが登場した時代でもありました。そんなクリエイターたちに憧れて映像のディレクターになりたいと思ったんです。

阿部__自分は、広告業界に入って1年くらいはプロジェクトマネージャーを勤めていたのですが、その当時の会社ではポジションがあってないようなものだったので、なんでもやらせてもらえたんですね。あるとき、クライアントに企画を提案する機会があって、大学在学中や卒業して就職するまでの間も、デザインや映像の仕事をいただくことが多かったのですが、実際に広告業界に入り、仕事の全体の流れが見えたとき、デザインや映像を制作する部分は他人に任せてもいいけど、企画を考える部分に関しては、絶対に自分でやりたいという気持ちに気づいたんです。それでこの仕事を自分の本業にしようと決めました。

━━では、企画・ディレクション職になるためにはどのような能力や資質が必要だと思いますか? 二人が仕事をするうえで大切にしていることをお聞きしたいです。

清水_僕の場合は、熱くならないというか、独りよがりにならないように心がけています。
大切にしていることは、“クライアントはどんな課題を解決したくて、どうすれば満足してくれるか”だと思うんです。

━━冷静に物事を見る姿勢が必要ということでしょうか。サッカーでたとえるなら、司令塔のような存在というか。

清水__そんなにカッコいいものかはわからないですけど(笑)。僕、見た目で熱い人間だと思われることが多いんですよ。でも、そんなことなくて。もっとフラットに見ているというか……そういうスタンスで今まで仕事をしてきました。

━━阿部さんはどうですか?

阿部__僕は、清水さんが話していたことに共通する部分もあるし、相反している部分もあると思っていて。クライアントから何をお願いされているのかを把握する力は大事ですよね。一方でクライアント自身が何をしたいか理解していない場合もあるから、その人なりの哲学とか思想も必要だと思うんです。

特に今の時代は、昔だったら何十万円もしたツールが数万円で手に入るし、インターネットを介せばある程度の情報も入手できますよね。それだけでなく、AIも台頭してきている。だから、技術的なことで個々の実力差を出すのは今後さらに難しくなっていくはず。では、何が差になるかというと、先ほど話した哲学や思想のような、いわゆる人間の合理的じゃない部分だと思うんですよ。クライアントから受けたオーダーに対して、自分だったらこういう解釈をするとか、こういう方法を提案するという、その人らしさを感じさせる何かが価値になるんじゃないかなと。

モチベーションを維持しながら仕事の領域を広げていく努力を!

━━企画・ディレクション職としての力を伸ばすために二人が考えていること、または若手が実力を伸ばすために実践できることはありますか?

清水__会社もそうだし、個人もそうなんですが、うまく利用されないと意味がないと考えています。これは余談ですが、僕が若かった頃は「俺は社会の歯車にはならない!」みたいに言われることがあって、それがすごく嫌だったんです。フラフラしていた時期があって、スリランカの海岸でタバコを吸いながら「俺はこのままじゃダメだ……大学まで行かせてくれた親に面目が立たない」と思ったことがあるんですよ。それで、きちんと社会の歯車というか、利用される、信用される人間にならなきゃって。ディレクターという肩書きのつく職業は先頭に立って物事を定着させる役割を担うので、そういった側面が必要ではないかと考えています。

━━でも、話を伺ってるとただの歯車にはなれなかったような印象があります。

清水__どうせ歯車になるなら、なるべく大きな歯車になりたい気持ちはあります。それで今は欲望を剥き出しにするようにしています。でも、依頼内容はきちんと冷静に判断するというか。仕事ってモチベーションがないと続けられないと思うんですよ。それは全ての職種に言えることかと思います。自分の場合は、モチベーションが落ちないように映像表現を軸にスキルをチューニングしながら、欲望をむき出しにして次はこういうことができるんじゃないかと少しずつ仕事の領域を広げるようにしています。

━━阿部さんはどうですか?

阿部__ひとつは、とにかく実践経験を積むこと。もうひとつは、事例を数多く見ることですね。大量にインプットすることで見えてくるものってあるんですよ。これはこういう狙いがあって、こういう人をターゲットにしているから、こういうクリエイティブになっているんだなっていう目算ができるようになるというか。それに現代において、ゼロから価値を生み出すのはかなり難易度が高いことだし、クリエイティブにおいては既存のものを掛け合わせて新しい価値を生み出していくことも多いので、サンプリングできる知識は多ければ多いほうがいいと思います。

清水__もし今の世の中に24歳の自分がいたら、とても喜んでいると思うんですよ。というのも、当時はPCでやっと映像を制作することができる時代に入ってきた頃だったので。映像を取り込むために高価なボードを購入しないといけませんでした。今はスマートフォンひとつあれば動画がつくれるわけじゃないですか。しかもYouTubeのようなプラットフォームもある。個人のモチベーションやスキルがあれば、好きを見つけやすいし、深掘りしていける。だから、自分の得意なことや好きなことを見つけるのがすごく重要な時代だと思います。それをほんの少しシフトすれば、仕事につながっていくのではないでしょうか。会社に属そうが属さなかろうが。選択の時代だと思います。

━━清水さんがおっしゃるように、今の時代は制作から発信までを個人で担うことができます。そんな個が強い時代において、それでもクアドラに籍を置くことの価値についてどのように考えていますか??

清水__今は体験装置やVRのようなテクノロジーに直結する様な表現領域を主にやっているので、設備が整っているほうが仕事がしやすいです。それは人も環境も含めて。僕があと2人いれば、話は別ですが(笑)。

阿部__極端な話、僕は課題解決や価値創造につながるアイデアを考えることしかしたくなくて。しかも僕はマルチタスクがあまり得意ではないので、ひとつのことに集中するとなったら、他のことができる仲間がいたほうが働きやすいんですよね。

清水__会社に仕事を頼める人がいなかったら、それこそ全て自分でしなきゃいけないし。困ったときに相談できて、一緒に取り組めばなんとかなる。そういう仲間がいるのはクアドラの強みだと思います。

阿部__あと、クアドラは自由自治のような場所なんですね。清水さんの言葉を借りるなら、モチベーション次第でなんでもできる舞台が整っているというか。もちろん「デジタルクリエイティブ」という大きな括りはあるのですが、クライアントからのオーダーと、先ほど話した自身の思想や哲学の掛け算によって取り組めることの範囲も変わります。映像を制作することもあれば、アプリを開発することもあるし、Webサイトを構築することもある。それをどこまで実現するかは、自分のモチベーションと実力次第っていう。

企画・ディレクション職は、あらゆることがコミュニケーション

━━では、どんな人がクアドラの企画・ディレクション職に向いていると思いますか?

阿部__サバイブする力がある人ですね。自分でインプットできて、自分で考えられて、自分でアウトプットできる。そういう意味では、いろんなことに興味を持てることが大切だと思います。極端な話をすればまったく好きじゃない領域に対しても、自分の土俵で取り組める好奇心を持っているといいのかなと。

━━清水さんはいかがですか?

清水__自分の考えていることを、オリエンに基づいて客観的に根拠をもって話せる人でしょうか。職種に関わらずコミュニケーション能力はすごく重要なスキルなので。

阿部__僕たちの仕事はあらゆることがコミュニケーションですからね。クライアントとのやりとりはもちろんですが、僕たちがつくる制作物もコミュニケーションの媒介になるものなので。それを生み出す基礎となるコミュニケーション能力がないと、そのポテンシャル以上の体験を構築することは難しいと思うんですよ。

あと、クアドラはデジタルクリエイティブを専門にしている会社なので、最近であれば「ChatGPT?なんですか、それ?」みたいな人は厳しいかもしれません。それがすべてではないんですけれど、デジタルテクノロジーに関する知識が前提になる環境だという認識を持っていただければと思います。

取材・文:村上広大

(この記事の内容は2023年8月1日時点での情報です)

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