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「さようなら」
黒実 音子



あの日、楽園で
「さようなら」と誰かが言った。

「さようなら。
終焉が近づいているのだ」
と。

太陽が沈む朱い海岸・・
無慈悲なクロミズナギ鳥と
二枚貝(トヘロア)の条約・・
椰子(ニカウ)の実の上を這う多足類(フラ)・・

楽園の海食崖の海流は
命を海底に引き込み、
底生生物(ベントス)達の
餌食にしようと目論む。
どこまでも澄んだ青い水で・・

ああ、ここでの物語を
誰も記録する事が出来なかった。
ここであった
かつての時間を・・。

そうして、
あらゆるものが終わり・・
すなわち、
沢山の劇が終幕を迎え、
それらの作品の名は、
今では誰も知る者がいない。
辛うじてそれを耳にし、
口を閉ざしていた者達も
もう、とうの昔にここを去った・・

そんな
[終わってしまった物語]の死骸の上で
我々は失われた可能性について涙を流し、
僅かに遺された残滓で
ダンス・トヘロアを踊る。

それは最早、歪な哀しい社会だな。
ガラスと人工石とマリファナの上で
我々は今日も
人を殺す事に勤しむのだから。

ああ、沢山の楽園が
どんな結末を迎えたのか?
想像に難くない。
人間がやって来たのだよ・・
醜い人間の社会が!!

全ては・・
全ての争いは
パフィス・ベントリコサという
二枚貝によってもたらされた、
と言っても過言ではない。

欲に駆られ、心臓を刺し合う男達・・
腫瘍すら無い楽園を
神に与えられていながら、
臓物を海に曝け出す者達・・

確かに・・
物語はもう何度も
終わりを迎えて来たのだ。
様々な満たされた栄光が
その最後のページを閉じて来た。
彼らは皆、行ってしまい、
置いていかれた孤独な孤児が私達だ。

あの時「さようなら」と言った者。
楽園の終わりを察した者。
その者達がどうなったのか、
その後、何を言ったのか・・
鳥の声や、波音の囁きの中で
どんな幸福な人生を送ったのか・・
我々は永遠に知る事は出来ない。

そうだ。
永遠に神の島の物語を
知る事が出来ない
美しい海の
二枚貝の為に殺し合う者達の世界で・・
閉鎖的な箱の中で、
終わってしまった過去の
棺の夢を見ながら、
まるであの時、楽園にいた者達の様に・・
我々は現実の心臓をただ鳴らしている。







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