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詩「人間の肉に鉄という病を撃ち込んで脂質過酸化を起こして無意味に死ぬ」

「人間の肉に鉄という病を撃ち込んで
脂質過酸化を起こして無意味に死ぬ」
黒実 音子



熱帯雨林の湿り気の高い
サトイモ達から逃れる為、
牧草地を過ぎ去り、
さらに風通しを求めて
鬱蒼とした丘を登る・・

大昔の見知らぬ他者が
立てた
「COPEIこそ希望!!」
と書かれた朽ちた立て札・・

その周囲を飛び回る
沢山の薄暗い田園の蚊(モスキート・オスクロ・デ・カンポス・デ・アロス)・・

ああ、その丘で
やがてあなたは獏の死骸と、
その骨を養分に育った
巨大なナス科植物に出会うだろう。

ダトゥラエと呼ばれるこの歪で
巨大な花を咲かせる植物の
禍々しい実は、
書斎の引き出しに入れると
アーモンドに似た
奇妙な匂いを発する。

昔、兵士が
この草を引っこ抜いていたのを
私は見た事がある。
彼は
「この草は不吉なものなのです。
祖母の時代から・・」
と言って笑っていた。

医学志望であったという彼は
人生のあらゆる不快感の事を
「胃排出(ヴァシアミエント・ガストリコ)の失態」
と呼んでいたものだ。

ああ!!
社会はあらゆる争い、
暴力的抗争(ラ・ビオレンシア)の事を
記録する。
それを
見落としの無い歴史(アウトリダ)と
学者共は呼ぶ。

しかし、この草が引き抜かれた音・・
漂ったアーモンドの香りは、
誰も記録しない。
記憶にすら残さない。
だから、この世界での些細な事は、
全て神のものになるのだ。

そして今、
この毒草を引き抜く者は
誰もいなくなった。

人の背丈を優に越える
巨大なナス科植物は、
荒涼とした丘で、
ただ風に吹かれて揺れている。

ああ!!
労働者の為の回勅(レルム・ノヴァルム)を片手に持ち、
脂溶性の異物を飲み込む下らなさ!!

兵士は言っていた・・
「諸君、ご存じだろうか?
我々の細胞膜は
脂溶性のものを
易々と通過させてしまう!!

それ故に、
随分と様々な毒を
通過させて来たのではなかったか?
まさに
[胃排出(ヴァシアミエント・ガストリコ)の失態]によって?」

この地上を人間として歩く苦痛・・
変化(エル・カンビオ)・・
吸収(アブソルシオン)・・

あるいは、
人間の肉に
鉄という病を撃ち込んで
脂質過酸化を起こして無意味に死ぬ。

その方が神の意思に適う故に・・

さて、
これから丘を下って・・
アナタや、見知らぬ誰かが
右へ行こうと、左に行こうと・・
[失態]という名の喧騒が
この地上(ゴルゴダ)では
ナスの養分にもならず、
永遠に繰り返されている・・・




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