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詩「メキシコハマグリとラッコの大量死における十字架の御業」

「メキシコハマグリと
ラッコの大量死における十字架の御業」
黒実 音子


カリフォルニアの
荒波に叩きつけられながら
ピズモ貝達はじっと耐え忍ぶ。

その貝血漿は、
海岸に沿って点在する
不潔な川からやって来る
原虫サルコシスティス・ニューロナ達から
この旧口生物の臓物を守るのだ。

分厚い骨の中で痛みに耐える事は、
キリストの卑賤であり、
受肉した低い器の中で
十字架に架けられる事だ。

ああ!!
心臓は苦しみ抜く・・
打ち寄せる波は
不可逆的な損失を与える・・

脇腹を槍で突き刺され、
細胞壁が破れ、
液体腔の中に組織が漏れ出す
闇の中の攪拌の苦痛を
ピズモ貝達は知っている。

ああ!!
岸に打ち上げられた
大量のラッコ達の死骸(シャルニエ)・・
太陽によって乾いていく
海藻の毒(ドウモイ酸)の虚しさ・・

末期患者であるオポッサム達の糞尿は
川から海岸に流入し、
汽水域は、ある種の悍ましい
原虫達のロンドとなる。

ラテン語で[愚者(スルトルム)]と名付けられた
このハマグリ達は知っている。
誰もがいずれ死ぬのだ!!
朽ち果てる為に命は生まれて来た!!

毒化した二枚貝を食べ、
心嚢液貯留で心臓(カルディエ)に水が溜まり、
危険な汽水的で
腐乱した惨めな死体を
神に御前に曝け出すラッコ達の様に!!

そして、美しい礼拝堂ではなく、
その蠅の集る[悲惨]にこそ
ミサ・ソレムニスの旋律が
必要とされるのだろう。

荒い波打つ砂の中の二枚貝は
我々の心臓であり、
キリストの心臓でもある。

ああ!!
大事なのは生き抜く事ではない!!
響く骨の音のままに
ただじっと・・
ただじっと砂地でうずくまり、
その時が来るのを待ち続ける事だ!!

諸君・・
確かに
人生はお気に召すままであり、
貝の骨の様に虚しい。




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