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詩「心臓血管外科医のファド」

こんにちは。
「墓の魚」の作曲家です。

私は詩人として詩作品も書いていて、
それも「墓の魚」の中で
オペラの歌詞となったり、
の台詞となっているのですが、
多くの現代日本の詩人が
人間の[感情]想い等を
詩のテーマにしているのに対して、
私は、この世界で起きている[現象]
を詩にするのが好きです。

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人間社会が全く関与していない
極限環境微生物の世界や、
海でプランクトンが異常発生する赤潮
ウニに発生する病気
我々の体内の癌細胞の事などを、
人間や人間社会からの立場ではなく、
淡々とした自然界の中の無常、無情の営み
として描いています。

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勿論、そこに視点を入れない訳ではなく、
そういった生物学的病理学的な世界に、
キリスト教的
[神の作りし策略と、惨めさと、
救いと、浄化の構図]
を発見し、記すのです。

上記にも書いた様に、
私がテーマにする事の多い生物は、
微生物や、細菌ウニ内臓などの
感情の無い生物がほとんどです。
対して、あまりなどの
感情表現豊かな生物を題材にする事は
少ないかもしれません。

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そうした淡々とした生物達の
感情の無い無慈悲な営みの中から、
人間の感情の迷走風刺したり、
人間社会の政治思想象徴したりしています。

イソギンチャクテナシバクラムなどの
生物達を私は[海の臓物]と呼んだり、
カビ蛆虫[神の作りし肉]と呼んだりしていますが、
そういった肉達が平然と受け容れる
損害・・すなわち喪失などの[生きる代償]を、
人間は必死に拒絶します。

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しかし、結局の所、我々人間は、
嘆こうと、足掻こうと、
必ずその代償を支払う事になるのです。

故に、人間の人生とは、
喪失足掻きこそが本質である
と私は思っています。

(自宅で飼育している生物達と、自作の詩を朗読した動画↓↓↓)


そして、そういった人間の自ら作り出した
システムの疎外と、
権威主義による[驕り]を笑い
(社会システムや権威は死を隠蔽し、
永遠を騙る)、
喪失足掻きを愛する事
が私のテーマだと思います
(こうした視点を持つと、
フランス詩やポルトガル詩の本質を
理解できるようになるかもしれません)

私の詩作品は、こちらで読む事が出来ますが
↓↓↓


最後に、こちらでも
新作の詩を一つご紹介しようと思います。

「心臓血管外科医のファド」
黒実 音子

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我らの心臓(ポンプ)が
必死に熱泉を汲み上げているうちは、
お前は思想に銃口を突き立て、
老いと密告に怯え、
夜の荒海の浜に
打ち捨てられた子犬の死体を見るだろう。

腐敗した惨めな肉に哀れみを感じるのは、
お前の滾る心臓の見せる熱だ。

接続を断て!!
循環停止させ、凍えた臓物を見つめる時、
心臓外科医は他者の夢の秘密を覗き見る。

ああ、心臓にメスを突き立て、
我々の情熱を冷気で冷やすのだ。

夜の沼地に浸かる臓器は
有肺類(ガルバ・トランカチュラ)の歯軋りさえも逃さない。
だが、テナシバクラムや破傷風菌が
命の肉を突き破り、
魂を摩耗させ、
そして、何より熱情が・・
人間社会を愚鈍にしていく。

そうしている間にも、
心臓外科医の術式は続く・・
キリストのいない手術室では
適宜の器具こそが十字架故に・・
吻合し、腐肉を現世に執着させる。
それは命を繋ぎ変える行為であろう。

ああ、密告され、怯えた詩人は
プラサ・ド・コメルシオで心臓を突き刺される。
ファドよ・・
お前は毎夜、
詩人のかつての吐息を歌うのだ。
記憶に過ぎない死者の心音を響かせる為に。

社会は、方々で
亡霊の心臓を響かせる蓄音機だ。
どんなに吻合し、生き足掻こうと、
思想の道は狭窄(ステノージ)し、肉は腐る。
だから心臓外科医は
そっと愛用のメスを置く。
最後は結局、手術室を出て行く。

亡者もこの世に未練はあるか?
虚のバルサルバ洞を抱え、
死者は眼球の無い眼窩(オルビタ)で
何を眺める?
臓物の暗闇の中から。

ある日、その心臓の音が途切れた時に、
全ては変わるだろう。
空の血管(ヴェナ・カーヴァ)が白く変色し、
あらゆるもの全てが夢から覚め、
口の中を切った血の味も、
砂の色も、哀れさも、
全てが手術台で見た影絵だと気づくのだ。

別の存在になるんだよ。
ポンプで血を身体に巡らせ、
不器用なブリキの様に粋がるのではなく、
死肉は朽ち、分解され、
物言わぬ高貴な汚泥となる。

ああ、心配いらない。
我らが死肉として、
夕暮れの海岸を認識しなくなった後も、
波は存在し続ける。

それは思想も無く、
哀しみも無く、
苦痛も無く、
ただ、永遠に無人の浜を飽く事なく
打ち続ける虚栄の水なのだ。





「墓の魚」のラテン詩と、
メメントモリ曲の融合した
配信動画
「死んだ珪藻とマキシロポーダのミサ」
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