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詩「ミサ・シネ・ノミーネ ~イキトスの水~」

「ミサ・シネ・ノミーネ
~イキトスの水~」
黒実 音子


燭台と、その上を飛び回る蛾(ティネア・ペリオネラ)は、
火の中のラテン語の王国と、地上が
邂逅するミサである。

イエスがパンを分け与えた様に、
・・
【ACCIPITE,COMEDITE HOC EST CORPUS MEUM.
取って食べなさい。これは私の体である】

・・
それは肉体であり、蛾であり、火である。

イキトスの町から流れる水。
その町の泥水の上を浮かぶ
腐った魚(ぺス・ポドリード)。

イエスが葡萄酒を分け与えた様に、
・・
【BIBITE EX HOC OMNES
HIC EST ENIM SANGUIS MEUS NOVI TESTAMENTI,
QUI PRO MULTIS EFFUNDITUR
IN REMISSIONEM PECCATORUM.
皆、この杯から飲みなさい。
これは罪の赦しの為に、
多くの人の為に流される
私の契約の血である】

・・
それは血であり、町の水であり、
労働(地上に存在する摩耗していく苦痛)である。

キリストはあらゆる事を・・
地上の多くの事を語った。

「イキトスの町の
あらゆる所に私がいる様に・・」
弟子達は言った。
「おお、我が主よ。
その様な町の名を私達は知りません」

キリストは言う。
「目の前に存在しないものでも、
真理としては存在するのだ。
世界は常に可能性を内包しているが
あなた方が肉質的に見るものは、
その一部に過ぎない」

誰も記録しなかった対話は、
以後の世で
永遠に知られる事はない。

ああ、どれだけの対話が・・
溢れた言葉が・・
記録される事なく
消えていったであろう・・

(それらを全て記録しているのは
誰も知らぬ神の聖櫃の中に
一枚だけ入れられている
乾いた羊皮紙のみである。

そこには、
海底でウニ達が岩礁を齧る音、
祈る徴税人(マタイ)の足元を這い、
講壇(アンボ)の下に
永遠に消えていった蟹の足音まで
全て刻まれているのだ・・)

それは、キリストの肉体が
地上から永遠に
隠されてしまった様に、
世界の喪失であり、
失われた真理(ヴェルダージ)である。

だからイキトスの町の人々は
日常のあらゆる所に
キリストを感じるのだ。

彼らは
まるで浸潤影の様な黒い水と
赤いペンキが剥がれ、
湿度と嵐で
打ちひしがれた母屋の壁に、
高貴な王国のラテン語を見る。

切り身(カルカッスム)と祈り・・
アトリナ・マウラの貝血漿の栄光・・
崩れゆく終末に開かれる
永遠の幸福の晩餐・・

例え、地上の肉体が
悍ましい吸虫(ディゲネア)を内包し、
打ちのめされ、
消費されていくとしても、
魂は十字架の上で
楽園にいる事が出来る。

我々は腐肉の甲虫(エスカラバホ・カローニャ)が這う
汚れた死骨の墓所で、
聖餐を感じるのだ。

したたかに暴風すら利用する
肉質的な打算(アネモコリア)の低地から、
乾いた人糞の中にすら聖性を見つける
栄光を捨て去る栄光(コメンダティオ・アニマエ)まで・・

イエスがパンを分け与えた様に、
・・
【ACCIPITE,COMEDITE HOC EST CORPUS MEUM.
取って食べなさい。これは私の体である】

・・
それは肉体であり、痛みであり、泥である。

イエスが葡萄酒を分け与えた様に、
・・
【BIBITE EX HOC OMNES
HIC EST ENIM SANGUIS MEUS NOVI TESTAMENTI,
QUI PRO MULTIS EFFUNDITUR
IN REMISSIONEM PECCATORUM.
皆、この杯から飲みなさい。
これは罪の赦しの為に、
多くの人の為に流される
私の契約の血である】

・・
それは血であり、望郷への涙であり、
知らぬ者への再会である。

あるいは、
誰にも知られず、
価値が無いと蔑まされる
日常という白く塗られた墓・・
すなわち、
名も無きミサである。




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