記事に「#ネタバレ」タグがついています
記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。
見出し画像

映画『ロング・グッドバイ』 ギムレット飲まんのかい!(ネタバレ感想文 )

監督:ロバート・アルトマン/1973年 米(リマスター版日本公開2023年5月26日)

恥ずかしながら、今日こんにちここに至るまで「ハリウッドの異端児」ロバート・アルトマン作品を1本も観ておりませんで。
80年代の不調後、『ザ・プレイヤー』(1992年)、『ショート・カッツ』(93年)、『プレタポルテ』(94年)と立て続けに発表して復活した時期が、私が観るべきリアルタイムのタイミングだったんですけどね。
いやいや、やっぱり『M★A★S★H』(70年)観ないと始まらんでしょ?
とか思って、ずーっと観てこなかった監督。
結果、未だ『M★A★S★H』も観ないまま、製作50周年記念の本作が初体験。

『ロング・グッドバイ』の原作は読んでいます。
何年か前に村上春樹訳も出ましたしね。そのおかげでウチのヨメも読んでいたのを幸いに、「ロバート・アルトマン傑作選」なる上映企画に足を運びました。

原作からかけ離れた探偵像と結末の大改変に公開当時は非難轟々だったが、歳月を経てカルト映画に。

ロバート・アルトマン傑作選公式サイトより

賛否両論ではなく非難轟々だったそうで(笑)
でも、50年後の今鑑賞して、私は嫌いじゃありません。

そもそも原作からかけ離れたフィリップ・マーロウ像かなあ?
チャンドラーはケーリー・グラントがイメージに近いと言ってたらしいけど、世間的にはハンフリー・ボガートのイメージだったんだと思うんです(『三つ数えろ』(1946年)は「大いなる眠り」が原作だけど)。
ボギー、あんたの時代は良かった。
でもね、村上春樹訳だと、なんだかイメージに合ってる気がするんです。
舞台を1970年代に移したことも影響しているかもしれません。
そういや、NHKドラマで浅野忠信版「ロング・グッドバイ」も観てるな。
あ、脚本は渡辺あやだったんだ。

減らず口を叩く主人公、70年代、猫……。
何故か勝手に、レイモンド・チャンドラーというより村上春樹作品のようなイメージで観ていたかもしれません。
実際、村上春樹はこの原作小説に多大な影響を受けていて、「羊をめぐる冒険」は本歌取りですものね。ラストなんかほとんど一緒。
そういや「ねじまき鳥クロニクル」はこの映画同様、猫の失踪で話が始まるな。

それで、本作でフィリップ・マーロウを演じたエリオット・グールドですが、スティーヴン・ソダーバーグ『オーシャンズ』シリーズに出てるんですね。気付かなかった。
なんでもソダーバーグがファンだそうで、出演を依頼したとか。

また、ポールPトーマスTアンダーソンAもこの映画が好きなんだそうですよ。
観ていて『インヒアレント・ヴァイス』(2014年)を思い出したもん。
あ、そうそう。エリオット・グールドの最初の奥さんはバーブラ・ストライサンドなんだって。
P.T.A.が『リコリス・ピザ』(2021年)でネタにしてたバーブラ・ストライサンド。

そんなこんなで、村上春樹やらソダーバーグやらP.T.A.やら、私好みの人たちが好きなこの映画(あるいは原作)が嫌いなはずがありません。
面白がるツボが似てるんでしょうね。
ソダーバーグやP.T.A.がこの映画を好きだと知ったのは本作鑑賞後ですが、「あー、わかる。好きそう」って思ったもん。
あと私は、藤田まこと「はぐれ刑事純情派」的な面白さもあったんです。
これはソダーバーグやP.T.A.には分からんだろうけど。

「生命の尊さなど一顧だにされず、友情や義理のたぐいが無意味なものとなった自分本位の世の中でさまよう、道義をわきまえた寛大な男」(アルトマン)の物語である。

ロバート・アルトマン傑作選公式サイトより

私はこれを読んだ時に、この映画は「ハリウッドの異端児」ロバート・アルトマン自身の物語なのではないかと思ったんです。
アルトマン作品をこれしか観てないから、何も語れませんけどね。
でも、結末を大改変していても、ハードボイルドの本質は正しく捉えてると思うんです。

1953年刊行の原作を1970年代に置き換えたこの映画は、「70年代のハードボイルド」だと思うんです。
つまり、50年代のハードボイルドは「強い一匹狼」だった。
アメリカ的な正しさというか、己の正義を貫く男。
象徴はジョン・ウェイン。それが50年代の「強いアメリカ」の理想形。

一方、この映画が作られた1973年、偶然にも前述した『リコリス・ピザ』の時代設定と同じですが、アメリカの夢が破れた時代なんですね。
この時代の一匹狼は「アウトロー」なんだと思うんです。
ジョン・ウェインが世界や時代を牽引する男なら、70年代アウトローは世界や時代に染まらない男。
時代は変わるんですよ。

時代は変わると言えば、この頃はタバコが格好良かった。
(世界一喫煙シーンの多い映画じゃないか?)
私自身30年以上愛煙家でしたが、3年前くらいにやめたんです。
だって今、タバコ吸う方が格好悪いんだもん。
吸えないとイライラして、ウロウロ喫煙所探して、オジサンたちが肩寄せあってタバコ吸ってるの。恰好悪くない?

あと、タバコやめると他人の煙が気になるって言うじゃない?
あれね、オジサンの煙だと嫌なの。若い女の子の煙なら全然OK。なんなら膝の上に座らせて吸わせちゃっても平気。
あれ?何の話だっけ?
こういうところが、俺がハードボイルドになれないところなんだな……。

余談(自分の備忘録も兼ねて)
端役のチンピラ役(無駄にムキムキマッチョ男)は無名時代のシュワちゃん。

(2023.05.28 角川有楽シネマにて鑑賞 ★★★★☆)

この記事が参加している募集

#映画感想文

67,900件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?