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12/7火:出張帰りにはにこやかな笑顔を。

今日は日帰りの出張だった。

駅に到着してからしばらく歩いて、券売機に向かった。仕事が終わる時間が未定で帰りの新幹線のチケットを事前に買っていなかったので、券売機で買うことにしたのだ。

私は、新幹線の席は窓側に座る派である。出入りに不便だから、と通路側を選ぶ人もいるようだが、私はそんなに座りっぱなしが苦にならないタイプなのだ。

だから、いつも窓側の席を選び、運よく隣の席に誰も座ってこなければそこを荷物置きとして占拠して、1人優雅な時間を楽しむことにしている。

券売機で座席の検索をかけると、あいにく2人席の窓側の席が全て埋まってしまっていた。あまりそういう経験が無かったのだが、帰宅ラッシュの時間にかぶるとこういうこともあるのだろう。

だから、やむなく3人席の窓側の席を選ぶことにした。

購入したチケットには16号車と書かれていた。ホームに行ってみると、16号車とは一番先頭の車両なのだということに気づいた。

これもあまりない機会だなぁなどと思いつつ乗車すると、3人席の一番通路側にはすでに若い女性が座っていて、真ん中の席には彼女の荷物が置かれていた。

すみません、と言いながら奥に入ろうとすると、彼女は私を通した後に真ん中にあった自分の荷物をどかしてくれた。配慮いただきありがとう、と思いながら、私は上着を脱いで窓側の席に座った。

発車してすぐに耳栓代わりのイヤホンをつけ、読書に集中していた私だったが、しばらくしてから車両内のある違和感に気づいた。

先ほどの若い女性が、前に座っているマダム世代の女性に話しかけたり、他の席のお年寄りから通りすがりに声をかけられたりしているのである。

新幹線の中で起きるにしては珍しい現象だ、これは一体どういうことなのだろうと観察していると、彼女たちは何かが書かれた白い紙を渡したり受け取ったりしている。

また、彼女が手に持っているメッシュケースの中に、多量のレシートらしきものが入っているのがわかった。

その他の色々な情報から洞察した私の結論は、この車両は、何がしかのツアー旅行者がまとまって乗車している車両で、私の列に座っている女性はツアースタッフなのだろう、ということであった。

考えてみれば、一番先頭の車両は、確かにそういう用途で使われる可能性が高いことは想像がつく。

そして、そういう車両に、ツアーとは全く関係ない私が1人紛れ込んでしまったのである。

こういう場合、果たしてどうすべきなのか(何もいけないことをしているわけではないのだから、気にせず乗っていれば良いだけなのだろうが)、私にはわからなかった。

そのうち、前の席に座っているマダム世代の女性も同じくツアースタッフであることがわかったので、しばらくその様子を観察していた。

すると、私の列に座っていた若い女性が、マスクをしていても「あぁ本当に笑顔で話しているのだ」とわかるようなにこやかな笑顔で私に話しかけてきた。

「あの、ここ一体の乗客はほとんど同じツアー参加者でして・・・。少し騒がしいかもしれません、すみません。」

イヤホンをして開いた本を手に持っていながら、本に目を落とさずに周りの様子をじっと観察している私の姿を見て、この状況をうるさく思っているに違いない、と思ったのだろう。

私はお気遣いありがとうという気持ちを込めて、「大丈夫ですよ~」と、自分にできる最大限のにこやか笑顔で返した。

それから、彼女は前のシートについている簡易テーブルも使わずに手元でメモを取ったり、書類を整理したりと忙しそうにしている。

先ほど私が来たときにどかした自分の荷物を、目の前のスーツケースの上に載せているからテーブルが使えないのでは、と思った私は、彼女に声をかけた。

「あの、真ん中に荷物置いていいですよ。テーブル使ってくださいね。」

すると、またにこやかな笑顔で、

「ありがとうございます。大丈夫です。」

と返された。

その後、彼女は荷物を片付けてまとめてから他の座席に出張したようで、しばらく帰ってこなかった。

その間私はひたすら読書に集中し、あっという間に下車駅に到着した。

荷物を持って出口に向かうと、先ほどの女性が、同じ駅で降りるツアー参加者の見送りのために立っていた。

ツアー参加者の後に続いて私も下車しようとすると、またにこやかな笑顔で、

「先ほどはどうもありがとうございました。」

と声をかけてくれた。

私も再び、にこやか笑顔を返して下車した。

疲れる出張帰りだったが、彼女のにこやか笑顔に少し心が温まった思いがした。

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