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今日も「突発的発作型」で呑みに行く

2週間にいっぺんくらいの頻度で職場のみんなと酒を呑む。

僕と同じように公務員をしている友人に聞くと、この頻度は相当に高いほうらしい。


僕の職場は、男がたった5人だけの小さくてムサ苦しい所帯だ。
年齢層はバラバラで、いちばん上のボスが55歳くらい。
そしてその下の副ボスが45歳、僕を含めた下っぱ3人組がそれぞれ30、27、26歳と続く。

ボスは全く呑めないゲコなんだけれど、他の4人は皆一様に酒好きである。
ひどい時は浴びるように4人で50杯くらい呑んで、ベロンベロンになりながら午前3時にやっと解散したりする。
いやもうホント狂ったように呑むのだ。


終業時間を過ぎてボスが早々と帰った夕方5時半、ほかの4人も机を綺麗さっぱり片付け、あとはもう席を立って「お疲れ様でした。お先に失礼します」と言うだけの頃。
それなのに、みんな椅子に座ってスマホを眺めたり、新聞を読んだりするフリをしながら、どことなく落ち着かない様子で何かを待っていることがある。
そして、ある拍子に互いの顔を見合わせてニヤリと不敵な笑みを浮かべ、誰からともなく「今日もとりあえずイッパイいきますか!」と声がかかるのである。

どうせ呑むのなら前もって日取りを決めてから行けばいいのに、これだからオトコどもはしょうがないんだから、と世の奥様方は思うかもしれない。

でもイマドキは、猫も杓子も「ワークライフバランス」を掲げ、個人の余暇を尊重することをヨシとする時代。
終業のベルが鳴ってからは、「ハイ今からもうワシらは他人だかんね。さっさとおうちに帰りますけんね」ということが当たり前になってしまっている。

そういう中で、「エー、来週の20日金曜日は当課の懇親会といたします。場所は長崎駅前の魚民、時間は18時から、会費はヒトリ3,500円で・・・」などとやっていては、誰も幸せにならない。
会を取り仕切る上司だって「部下はイヤイヤ参加してるんじゃないかなァ...」とか気に病むし、部下は部下で「その日は予定があるんだけどなァ...でも参加しないとカドが立つし...」 と両手の人差し指をツンツンさせて思い悩む。


だったら最初から予定など立てず、互いの「呑みたい欲」が高まった時、なしくずし的に居酒屋へなだれ込む「突発的発作型」呑み会のほうがずっと良いはずだ。

もちろん、「急に言われたって今日は予定があるんですケド」というヒトや、「今日はそんな気分じゃないし...」というヒトだっているかもしれない。
ただ、この「突発的発作型」のいいところは、そういう時に適当な理由をつけて断っても、全く不自然ではないことだ。

たとえば、さきほどのように、終業後たがいの顔を見合わせて「イッパイいきますか!」と号令がかかったタイミングで、「イヤーマイッタナー、今日は6時から床屋を予約していまして...」といかにも残念極まりない表情でオモムロに鞄を持って席を立てば、まわりも「そーかそーか、予約しているんなら仕方ないね。こちらも急に誘ってしまったしね。また今度行こうね」と、ココロヨクそいつを送り出せる。

しかし、これが1、2週間前くらいから予定を組んで催行する呑み会なら、何らかの理由で断るほうも、そして断られるほうも、「ウソついて逃げたと思われたかなァ」、「そんなにオレと呑むのがイヤだったのかなァ」とお互い疑心暗鬼にならざるをえないだろう。

そういうわけで、僕の職場では「突発的発作型」呑み会を採用している。
まあ実際そこまで深く考えてやっているわけじゃないんだけれど、結果的にうまくまわっている。


もうすぐ僕は異動になる。

この先、「突発的発作型」で気軽に呑みに行ける職場に出会えることはないかもしれない。
ワークライフバランスが叫ばれる今の世の中こそ、こういう気張らないスタイルの「呑み二ケーション」がもっと流行ってもいいと思うんだけどなあ。
家でヒトリ、芋焼酎のロックグラスを傾けながらしみじみとそう思った。

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