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あなたを思う本当の優しさがあれば


親友が京都にいて、その子とは大学で出会った。


なぜ仲良くなったのか、今でもとてもよく覚えている。桜が咲きはじめて、ちょっとその時のことを思い出したから書いてみる。

わたしが演劇部に入りたての頃のはなし。
(同級生より一年遅い入部だった、なんと一年の時はワンダーフォーゲル部でしかも何故か一度も山に登っていない)
新入部員であるわたしの初めての役割は、宣伝用立て看板の制作だった。

通っていた大学は半分が芸術学部で、そういうことに長けた人はうじゃうじゃいたけど、何せわたしはばりばりの文学部だ。
演出の先輩に言い渡された納期もわりと短く、稽古でバタバタしていたのか、指示もあまりなかった。


芝居は新入生歓迎の春公演。
桜が咲きはじめた校舎下に、絵具と看板を置いてボーッとしていたところに、偶然通りがかったのが彼女だった。


巨大な立て看を前に、ぼんやりしているわたしがよほど頼りなげだったのか話しかけてきた。
聞けば彼女も演劇部で、今回の芝居には参加していないらしい。

「何してる?」
「これ●日までに塗らんといかん」
「一人で?」
「うん」
「どうやって塗るん」
「点々で塗ってけって」
「この量?」
「......そうみたいだね」

へらっと笑うと、彼女はもう筆を持っていた。
「こんなん丁寧にやってたら間に合わん」
と超豪快に塗り始めた。

わーっ、こんな感じでええんか!と戸惑いながらも、なんだか楽しくなって、暗くなるまで二人で話しながら立て看を塗った。

同じ学部であること、わたしは兵庫から、彼女は長野から来たこと、ふたりとも一人暮らしなこと、
いろいろ話した。
話の途中で、なんと一緒のビジュアル系バンドが好きだったことが判明し、大爆笑した。

夕方、お礼を行って別れた。
絵具を塗る要領も掴んだし、ありがたかったな、なんとか終わりそうだな、また会いたいなーと思って、続きの作業をしに次の日も同じ場所に行くと、彼女がやってきた。

今度は両手にラジカセと、話していたCDを持って。
あたりまえみたいに。

本当にあたりまえみたいに来てくれたから、わたしはなんかもう嬉しくなって、それからの大学生活には彼女との思い出がいっぱいある。

放課後一緒にカラオケにいきたくて、履修してないのにくっついて同じ授業に出たり、わたしのアルバイト先のマクドナルドにお茶飲みにきてくれたり、学祭で出店したり、部室でカップラーメン食べてダラダラしたり。

特別な言葉はないけど、あと、今もたまに怒られたりするけど、わたしはあの日から今までずっと彼女のやさしさに絶対の信頼を寄せている。
この信頼の気持ちは、たとえば一年会えなくても、連絡をとってなくても、ときどきわたしを温めている。

本当のやさしさって、なんだろうと考える。
それは、その誰かのことを思った行動のことじゃないかなと思う。
思えば、不意打ちみたいなやさしさに何度も出会ってきた。どんな言葉よりも、そういうやさしさを差し出せる人はおしなべて素敵でいつもほうっとなってしまう。
そして、それにちゃんとやさしさの行動で返せていない自分がいつもちょっとうろめたかったりもする。

こないだ、その京都の親友と電話していたとき、
「わたしが今後一生ひとりぼっちで年老いていったら一緒に暮らそうよ〜」とプロポーズしたら、
「ごとうのトイレットペーパーのちぎりかたが嫌だからムリ!」とふられた。

まじか!!
これからはちゃんと行儀良く切るから見捨てないでほしい。

ひさしぶりにあの子に会いたいなーと思っている春。
桜は今年もきれいだなあ。

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