本屋の楽しさを思い出した話ー直感・偶然・出会いー「TAKIBI」@谷中
(「TAKIBI」に行くまでの話はこちらですが、読んでなくても大丈夫です)
さて、駅をおりて、大通りを曲がり路地裏に入る。車はほとんど通れないような細い道だ。
「こんなところに住んだらどうだろう」なんて思いをはせながら歩く。
そんな中に「TAKIBI」があった。白い壁と黒い枠で仕切られた窓と入り口は、ミニマルな美しさだ。
外から見えるのは、ギターのオブジェクト。その下は、立花隆の特集雑誌や森崎和江などで「なるほど」と思う。「スイミー」や「バムとケロ」は親しみやすい。
「すてきな本がありそうだ」と入る前から心が躍る。
「古書店」とも「新古書店」とも違うのは、まずはこの空気感。
静かにジャズがかかっていて…というと、排他的な感じを想像するかもしれないけれど、フレンドリーで落ち着いた雰囲気だ。
飲み物は良心的な値段で、座ってゆっくり本を選ぶこともできる。
この日は、安藤さん自ら用意し、イタリアのチョコレートも出してくれた。お菓子はその日にあるものだという。
すみからすみまで、安藤さんのセンスが行き届いている。
入ってすぐ右が、絵本コーナーだった。コーナーにあるから、小さなお子さんも、安心して好きなものを選べるだろう。だいたい半額程度で購入できるようだ。
左側一面は、棚貸しの本が並ぶ。
棚には、エッセイの隣に哲学書が、その隣にマンガが並ぶ。棚ごとにオーナーが違うのだから、それは偶然の仕業なのだ。
「あ」と、一冊を抜き取る。小熊英二さんの新書だ。
実は、小熊さんの学術系の専門書をいつも買わずに迷っていた。「重いし何千円もするし…」と手が止まり「今度にしよう」と棚に返す。そんなうちに、なんとなく忘れてしまっていた。
この日は、彼の新書を買うことにしたけど、やっぱり専門書を今度、本屋で買おう、と思う。(分厚い本のほうが好きだ)
安藤さんは「エコシステム」といったけど、その通りだ。新刊本も欲しくなる。
楽しいなあ、と思う。こんな感覚を忘れていた。
ーーー
席に戻って、コーヒーを飲んだ。
小熊英二氏の新書、「銃・病原菌・鉄」(ジャレド・ダイアモンド)、それから安藤さんに勧められた「女たちのテロル」(ブレイディみかこ)をテーブルに置いて眺めた。
これらは、ここに来るまでは、まったく買おうとは思っていなかった。
ーーー
私は、慎重すぎたのかな、と思う。
ネットでは、ランキングがあり、レビューがあり、いいという人もいれば、ダメだという人もいる。他人のレビューを参考にして、「賢く」本を買おうとしていた。
だけど…。
自分の直感よりも、他人の感想にいつの間にか、重きを置いていたのかもしれない。
偶然や直感のなかにこそ、出会いがあるのに。
ーー
「自分の」感覚で、ぽいぽいって買うときのワクワクした感覚。
私は、きっと、そういうことが好きだったのだ。
自分の感覚を信じてた。自分が何を読みたいか、分かってると思ってた。
子どものころは、そうだった。だから、本屋さんが好きだった。
また、本を読む生活に戻ろうかな、と思う。
出会いや偶然や、自分の直感を信じるほうがすてきだ。
ーーー
(余談)
安藤さんに近づき「この間、本をお渡しした青海です」と挨拶をしたときことだ。
「おー。すぐ読みましたよ」
笑顔でそう返事をされた。予想外だった。
「面白かったよ。青春小説なんてあまり読まないのに、『ジミー』はさらっとすぐ読めた。今の時代の話なんだと思った」
そう言って、油性ペンを私の手にポン、と置く。
「サイン本のほうが、価値があるから。よろしくね」
というわけで、「目利き」の安藤さんからも「よかった」と言われた『ジミー』。
サイン本は、一冊だけ「TAKIBI」にある。
ーーー
私は『ジミー』書いたとき、まったくの素人だった。小説を書くのが初めてどころか、文章を書く仕事もしたことがなかった。
その文章を、出版社は一か所もなおさず、まったくそのまま出してくれた。
それを「いい」と言ってくださるプロの方がたくさんいるというのは、不思議な気がする。
自分の作品というのは、「自分基準で言えば」もちろん最高になるように作ってる。それに、2冊目もそろそろ発売される。
だけど、ときどきふっと、本当に、不思議な気がするのだ。
「TAKIBI」は、とても素敵な場所だった。私に大切なことを思い出させてくれた。
本当は、教えたくない気持ちもあるけど、同時にこんな場所が地方にも広がる未来を見たいと思う。
偶然を信じる世界。
きっと、私みたいな人がでてくると思う。
自分の直感で動いていたころの、大切な何かを思い出す人が。
すてきなことが、起こる場所。
ぜひ、行ってみて。
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いろんな人が大注目している場所です Books&Coffee「TAKIBI」
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