【紫陽花と太陽・中】第十一話 報告会@剛宅 高校二年生/七月
以下、本文
「や」
「おう」
「久しぶり」
「そうだな。あ、適当にそのへん座って」
「はぁい」
「よっ……と、一応お茶かカルピスあるけど」
「カルピスもらおうかな」
「好きだよな、カルピス」
「前ほどは飲んでないけどね。最近は、水か、珈琲ばっかりだから」
「少し痩せたんじゃね?」
「そうかも。立ち仕事だし、けっこう動くからね」
「そっか」
「剣道も筋トレとかするの? 棒を打ち合いするばかりじゃないんだよね?」
「棒。竹刀な、竹刀。……筋トレより、走ってるな。毎回走る。それがないと始まらないと言うか……」
「へぇー」
「最初の頃は、袴着て走るから、わりと疲れてた」
「……」
「……」
「……っはぁ、美味しい」
「そりゃ良かった」
「わざわざ買っておいてくれたんだね、カルピス」
「今日来るってなったからな」
「はは、ありがとう」
「お前がそれ以外好きだって情報が更新されてねぇんだよ」
「前も言ったと思うけど、珈琲。豆から挽いて淹れて飲む」
「……ってか、本題に入ろうぜ。今日何しに来たんだよ」
「何しに来たのかな」
「忘れたフリするなよ。メモ紙、郵便受けに入れたくせに」
「うん、あずささんから『剛がいつ遊びに来るのか聞いてたぞ』って言われた」
「メールできねぇなって思ったから、学校であずさに伝えてもらった」
「伝書鳩だもんね」
「スマホ、持ってねぇの?」
「あるよ」
「あるのかよ! 番号くらい教えろよ!」
「剛の番号とか連絡先、知らなかったからメールできなかったんだよ」
「あずさから聞けよ」
「えっ? ……あ、それもそうか」
「……まぁ、いいや」
「今教えてー」
「これで、メールできる」
「おぉ、ありがとう」
「……でだ。郵便受けに入ってた紙なんだけど」
「すぐ読めたでしょ? 短いから」
「『あずささんと 付き合うことになりました』だけだろ。差出人の名前くらい、書けよ」
「書いてなかったっけ?」
「なかった。字を見て分かったけど、親が先に読んでたら……。いや、うちの親なら分かるかもな。んで、家まで乗り込むかもな」
「ええっ⁉︎ それは困る。桐華姉たちには秘密なんだよね」
「そうなのか?」
「うん、だって、絶対反対されるから」
「そうなんだ」
「僕がもっとちゃんとしてから報告するつもりだけど」
「ちゃんと、っていつだよ」
「十八になったら、かな」
「早えよ、来年にはもう『ちゃんと』するのか」
「成人になるから」
「……うん……まぁな」
「……今はさ、自分が中途半端だって、思うんだよ」
「例えば?」
「えー? んー、自分の進む方向をうまく説明できないこととか」
「??? どういうことだ?」
「いや、違う例えにする。ええと、例えば、旅行も自分一人じゃあ予約ができないこととかかな」
「旅行行ったのか?」
「行こうかなって、話をした」
「ん」
「それで、ホテルを探したんだけど、未成年は予約できないって」
「あー、まぁ、そうかもな」
「予約には保護者の同意が必要だって」
「同意で大丈夫なのか」
「書類を提出するホテルもあった。ともかく、子供だけじゃダメだって」
「小学生だけで泊まりとか、まぁ無理だよな」
「小学生じゃないけどね。高校生……でもないんだけど、学生旅行とか、皆どうしてるんだろうね?」
「大学生は卒業旅行とか、そういうプランもあるよな」
「大学生は成人してるもんね」
「そうだな」
「高校生は友達同士で旅行とかしないのかな」
「高校生は金がねぇからな。やっぱ親にホテルとか予約してもらうんじゃないか?」
「ま、同意書っていう書類を出せばOKなホテルを探してみるけどね」
「めんどくせぇな」
「だね。そんなこと、考えもしなかったから、意外なことで困ってる」
「……あずさと泊まりって、どこ行くんだ?」
「一応、修学旅行先の予行演習も兼ねて、京都を考えてたよ」
「もうすぐだしな」
「うん。二年生で修学旅行に行くんだね。高校って」
「来年は受験受験だからかな」
「進学校は大変だね」
「あずさは推薦狙うらしいけどな」
「へぇー、推薦ってよく分からないけど、そういう受験もあるんだ」
「部活動も生徒会活動とかもやってないから、使える手段かは分からないけどな」
「……」
「十七な……」
「……あぁ、美味しい。……ここに来るの、本当に久しぶりだよ」
「さっきからキョロキョロ俺の部屋、チェックしてるよな」
「えぇ? チェックじゃないよ。珍しいから、見てるだけ」
「片付けといて良かったよ」
「あの机の上の分厚い本、ああいうの、読むの?」
「あー、英語長文だけを集めたやつだな。練習になるんだよ」
「何の練習?」
「英語の長文読解。……学校のテストじゃなくて、模試とかでは知らない長文が出てくるからさ。知らない単語とかけっこう使われた文章が。んで、慣れておくためにもひたすら長文だけやれるように、買った」
「はぁ……」
「ひとつひとつの長文は内容も違って別に覚えなくてもいいんだけどな。知らない単語の予測とか、慣れてくればしやすくなるっていうか……」
「へぇぇ」
「……おめぇ、興味無いだろ」
「いやいや、聞いてるよ?」
「ニヤニヤ笑ってるぞ、いや、苦笑いか」
「やー、剛が自分流の学習方法を実践してるなって思って、感動してただけだよ」
「一般的な学習方法の一つだよ」
「それはそうと、勉強頑張ってるなーって」
「志望校は、わりと難関だからな」
「あずささんと一緒の大学でしょ? 警察官になるための」
「一緒はそうだけど、就職先は警察官以外も視野に入れてるよ」
「そうなんだ」
「目指す方向が同じなら、他の職種でもかまわないのかなって思ったんだよ」
「ふぅん」
「昔は、職業なんてさ、警察官とかケーキ屋とか、床屋とか、そんなもんだろ?」
「椿はプリンセスになりたいって昔言ってたよ」
「どこに需要があるんだろうな。あー、アイドルが近そうだな」
「あはは、なるほどね」
「実際は目立つ職業以外にだって、たくさん職業があるから」
「そうだね」
「でも学生なんて、知らねぇし。細かい職業」
「うん」
「大学は、道を知るため、道を決めるため、行くための方法を知るため、に行くのかなって俺は思ってる」
「高校卒業しただけじゃ、道は分からないんだ」
「楽しい、と受験勉強、で終わっちまうな」
「剛はすごいなぁ」
「……お前も変わってるよな」
「そう?」
「こんな真面目な話、しないぞ普通」
「しない? あずささんとは、するよ?」
「なんだろうな……志望校決めた? って聞いても皆はぐらかして、実際はしっかり決まってはいるんだろうけど、人前では頑張って勉強してますって思われないようにしてるっつうか……」
「頑張って勉強しちゃ、だめなの?」
「あまり真面目すぎるのは引かれるっつーか」
「なんだか、色々気を遣うんだね」
「馬鹿らしいけどな」
「……」
「……ふぅ」
「……もう半分飲んじゃった。……剛とも、疎遠になったものだねぇ」
「仕事し始めたからじゃね?」
「高校入った頃からだよ。やっぱり学校が違っちゃうと、会わなくなるよね」
「喫茶店とか、夜の公園くらいだもんな。会ったのは」
「うん」
「僕さ」
「どうした」
「本当はあずささんと剛と、一緒の学校が良かったんだよ」
「お、おぉ……」
「でも無理だった」
「そうだな」
「もっとちゃんと勉強してたら良かったって、思った」
「遼介は、頑張ってたよ」
「レベルが違いすぎたよ」
「偏差値のことじゃなくて、生活のこと。椿の面倒、家のこと、自分のこと以外の諸々。頑張ってたと思ってたよ」
「剛……」
「俺も、お前のためにもっと何かできてたら、良かったのかもって思うよ」
「何もないよ」
「けっこうグサッとくるな」
「え? 何も気にすることないよ。今もこうして遊んでくれる」
「遊ぶ……」
「遊ぶじゃなくてお話か。それだけで、僕は十分」
「……そっか」
「うん」
「……よく、あずさに告白したよな。お前」
「えへへ、そうだよ。告白したよ」
「俺に照れてどうすんだよ。告白するまでえらい時間かかってたよな」
「えっ」
「何がきっかけになったんだよ。ずっと告白しないつもりなのかと思ってたぞ」
「えっ」
「どした?」
「ずっと……って、いつから?」
「は? 中学から?」
「そんな前から⁉︎ って、なんで知ってるの?」
「……なんでって……見たら分かるし……」
「まさか」
「だから、照れてどうすんだよ。分かりやすすぎなんだよ、お前は」
「ええぇ……」
「そんなしょげた顔すんなって。数年経つぞ。ようやくだよな」
「色々あったんだよ」
「それもそうだな」
「父さんが死んだ時期がけっこう精神的にキツかったからなぁ。告白なんて全然考えてなかったよ……」
「おぅ」
「だんだん僕も身長とかけっこう大きくなっちゃったからね。あずささん、怖がらせていないかどうか、それも気にしてた」
「そんなこと気にしてたのかよ」
「したよ。おんなじ物食べて、おんなじように寝て、起きて。なのに僕だけが大きくなっちゃってさ」
「二人並ぶとあずさが見上げてるもんな」
「そうそう」
「声変わりも遅かったよな、お前」
「たぶん遅かったんだろうね。普通よりも。声変わるって知らなかったから、戸惑った」
「保健の教科書くらい、読めよ」
「読まなかったんだよね、それが。……だから、他のこともけっこう困った」
「他?」
「うん、まぁ、身体の変化だよね」
「……親父さんには、やっぱ相談とかできなかったのか」
「父さん? そうだね。しなかった。話すらもうまともにできなくなってたしね。僕の悩みなんてされても困らせちゃっただろうしさ。……でも今から思うと、剛には相談してたら気が楽だったのかもね」
「……」
「あずささんとはずっと隣で寝てたし、同じ部屋だし、どうしたって意識しちゃって。病気かと思ってたよ」
「病気……」
「ひろまささんが、あ、姉のだんなさんね。本を貸してくれてさ」
「エロ本?」
「何それ? 身体の変化が男女別に載ってる本。それ見て、病気じゃないって分かった」
「……知らねぇのかよ。それにしても、ホント、相談してくれよ。そういうのはさ」
「すればよかった」
「あずさにはさすがに聞けないもんな」
「考えもしなかったな……。あずささんが知ってるのかは知らないけど」
「教科書全部読むタイプだから、知ってんじゃねぇの?」
「読むか……読むよな。それでも、心配かけさせたくなかった」
「そうだろうな」
「……」
「エロ本、貸すか?」
「何それ?」
「何って……ええと、こんなやつ」
「勉強は嫌いなんだよ……」
「ある意味勉強に値するよな」
「うぇ、何、何だこの本……。いろんな女の子が載ってるよ」
「やっぱ知らなかったのか」
「う、うん。普通は知ってるもんなのかな?」
「普通にこだわるよな、お前」
「う、まぁ。普通じゃないよなって自覚はあるよ」
「別に人それぞれだろ。コンビニとかでも見かけたりしないのか?」
「コンビニ……行かないからなぁ……」
「行かないのかよ……」
「あーっ、ほら、その反応! だから普通を知りたいんだよ、色々」
「夜に出歩いたりしなさそうだもんな。めちゃくちゃ不良から程遠いな」
「仕事終わったら夜だけど、まっすぐ家に帰るからね」
「ふっ……それ、貸すから勉強すればいいんじゃね?」
「笑ったね! ……まったく! これでどう勉強すればいいのさ」
「まずは露出に見慣れればいいんじゃね」
「ロシュツ?」
「水着とか、裸とか」
「……」
「ほら、この写真は後輩がオススメしてたグラビアだな」
「いらないよ」
「あっそ。俺は別の本だけど、読んだりはしたからな」
「読むの……」
「何だよその目。部活の奴らと交換とかすんだよ。金ねぇから」
「そうなんだ」
「性欲持つのは当然の生理現象だろ? そうやって、段々と知識が増えてくるんだ」
「そんな、手を振り上げて説明しなくても……」
「いざって時に、困らないようにだな」
「剛は、いざって時は、来たのかな?」
「はっ! ……まぁ、それなりに」
「ええっ」
「何だよ」
「どどど、どう……え、誰? お付き合いしてる人、いるの?」
「いるよ」
「教えてよ! うー、そうかぁー、そうなのかぁー」
「悔しそうだな。教えるタイミングがなかったっていうかさ……」
「うちの郵便受けに手紙でも入れてくれれば良かったのに!」
「入れるかよ! 恥ずかしい! あずさにだって、言ってねぇし」
「あ、そうなの?」
「言わねぇよ、あずさに言ったらお前にも伝わるだろうが」
「それでいいんじゃないの?」
「……あ、それで良かったのか」
「……」
「あー、はい。悪い。います、彼女」
「……」
「三白眼で睨むなよ」
「いいよ、それで、どんな人?」
「……どんな。えー、年は、一個上」
「歳上なんだ!」
「同じ剣道部の先輩で、今は主将だな」
「強そう」
「すげぇ強い。勝てたことねぇな」
「すごいね。……性格は?」
「うーん……怖い。強い。元気。そんなところかな」
「どこに惹かれたの?」
「尋問くさいな。……まぁ、憧れてたんじゃないですか? 先輩だし」
「剛、尻に敷かれてそうだね」
「そうかもな」
「自覚があるんだ。想像できないや。見てみたい。写真ある?」
「……あるけど」
「けど、何?」
「たぶんだけど……そのうち別れるっつーか」
「はぁ⁉︎」
「疲れるからな。色々と」
「えっ……そ、それで?」
「部活中は普通だけど、二人きりの時はかなり振り回されてるっつーか、なんかもう、疲れるんだよ」
「……」
「言葉遣いも荒々しいしさ、無茶な要求もけっこう言うしさ」
「……剛、軽い」
「何だよ」
「ううん、その、相談とかしないの? 相手のこと知らないからあまり言えないけど」
「相談?」
「うん。もう少しこうしてほしい、という希望をお互い言うとかさ。だって、ヤダなって思って思ったまま別れちゃうのは、何だか少し寂しいよ」
「まぁな」
「……あ、写真。……この人……へぇー確かに元気そうだね」
「元気だな」
「自己肯定感がしっかりある顔してるね」
「自己肯定感って……」
「大事だよ。持とうと思っても、なかなか持てるものじゃない」
「はぁ」
「自分に、揺るぎない自信を持ってる。主将さんやるの、納得だね」
「顔見ただけで分かるのか」
「偏見もあると思うけどね。いろんなお客さん、店に来るし」
「あぁ、いろんな人を見てきただろうな、遼介は」
「うん、本当にいろんな人がいるよ。年齢も、性別も、価値観も。それぞれみんな違ってさ。夫婦で来るお客さんも、仲がいい夫婦とお互いスマホばっかりの夫婦もいるよ」
「いるだろうな」
「恋人同士かなっていう二人も、仲いいのと冷めてるのと、いる」
「寂しいな」
「剛は? 今日聞いて今日別れそうだって言われて、結構びっくりなんだけど……」
「いやぁ……昨日もケンカしたばっかだからなぁ」
「ケンカするんだ」
「遼介とあずさは……出会ってからむちゃくちゃ長いけど、ケンカするのか?」
「したことないね」
「なんとなくそうだよな。仲いいよな。ずっと」
「えへへへへへ」
「気持ち悪いよ。しまりのない顔だな」
「いや、本当に嬉しいなぁって、毎日思ってるし」
「手くらい、繋げるようにしておけよ」
「手? どこで?」
「デートの時とか。学祭、誘われたんだろ?」
「なんで知ってるの?」
「さくらと日向がでけぇ声であずさと話してたからな。聞こえたよ」
「さくらさんって……」
「あずさの友達。一年からの。学校では、もうずっと三人一緒に過ごしてるな」
「剛……あずささんのこと、見すぎてない?」
「はぁ? 見守っていると言ってほしいな」
「はは、うそうそ。冗談です。……僕が頼んだってこと、忘れてないから」
「ったく」
「剛、ありがとね」
「何が」
「僕が、あずささんと同じ学校に行けないって思った時、ずっと見守ってほしいって、頼んじゃったから」
「……」
「就職も、警察官を選んでるのは、あずささんを守れるようにって考えてるからだと思ってる」
「たまたま親が警察官だったからだ」
「……そうかもね」
「守れてねぇし。あの、被害に遭った時、何もしてねぇし」
「…………」
「告白、しなかったのは、怖かったせいもあるのか?」
「なくはないね」
「お前、変わったよな」
「変わるねぇ」
「そりゃそうか。変わらないと、おかしいよな」
「僕は」
「ん?」
「あずささんが、ずっと好きだったよ」
「お、おぅ。知ってたよ」
「うん。……ずっと、あずささんが選ぶ人を待とうと思ってたんだ」
「あずさが選ぶ人?」
「そう、僕じゃなくて、あずささんが選ぶ、大切な人」
「なんで」
「それが、父さんとのやくそくだと思ってたから。それで、応援しなきゃって思ってたんだ」
「あずさだって、ずっとお前が好きだったんだぞ?」
「椿も言ってたよ。剛も、知ってたの?」
「……いや……見たら分かるし……」
「知らなかったの、僕たちだけ? あぁ、もう、もっと早く気が付けば良かった」
「気が付かないもんかな」
「気が付かなったね」
「そうか」
「うん。色々自分の中で考えて、父さんのお仏壇でやくそく守れませんって心の中で言って、それで、告白したんだよ」
「……そうか」
「付き合うって、まだよく分かってないけど。ずっと一緒にいたいなとは思ってる」
「付き合う定義も、人それぞれだからな」
「いいこと言うね。あずささんがしたいこと、あまり教えてもらえないけどさ。これからいっぱい知って、二人で叶えていけたらいいなぁって」
「お前たちならできるよ」
「剛たちはまず仲直りだね」
「それな。……ホント、めんどくせぇ」
「ケンカの原因は何だったのさ」
「記念日忘れた、とか。手の繋ぎ方がなってない、とか」
「手を繋ぐのでも、ケンカになっちゃうの⁉︎」
「何か自分の強い希望があるんだろうな」
「勉強になるなぁ……。あずささんは、怒らないと思うけど」
「相談してから繋いだら? ってか、繋いだことないのか?」
「二人きりの時はあるけど……。外ではないかな」
「いつ付き合い始めたんだよ」
「一ヶ月前……くらいかな」
「曖昧だ。記念日忘れてるとケンカだな」
「あ、思い出した。父さんの月命日の日だった」
「インパクトすごいある日だな!」
「セーフ、覚えてた。そう、一緒に買い物行って、蕎麦を食べた」
「忘れん坊大将のお前にしては、すごい覚えてるな」
「うん、覚えてる。すごく大事な日だった」
「手を繋ぐのに一ヶ月って、すごいスローペースだな。実際まだ繋いでないけど」
「……記念日忘れてる剛に言われてもね」
「棘ある言い方だな。そんな調子じゃ、キスだって何年かかることやらだな」
「……」
「結婚するならプロポーズするだろ? 年寄りになってプロポーズしても、遅いからな?」
「……そうだね」
「大丈夫かよ、俺はケンカしてるから全然大丈夫じゃねぇけど。今度はちゃんと困ったら相談しろよ」
「ありがとう」
「おせっかいだって、分かってるけどよ。お前が男友達いないの、知ってるし」
「う……それは正解だ」
「エロ本貸すからさ」
「すごい推してくるね。いらないよ。その本の女の子、興味ないし」
「そりゃ毎日目の前に本人がいれば、そうなるよな」
「あずささんの方が何倍も何百倍もかわいいから。……それに」
「何だよ」
「さっきロシュツがどうのって言ってたけど、水着や裸の写真とか、いらないから」
「どういうことだよ」
「うーん……。こう、着てないところも知ってるから、本なんて見なくていい」
「……」
「あ……。変なこと言った気がする……」
「お前、顔真っ赤になりすぎ! タコかよ。あともう一線超えてんじゃ……」
「知らないよ」
「一線を超えるってことが知らないのか? この意味は……」
「わーっ! いい、もういい! 聞かなかったことにして! 今のナシ!」
「……お前なぁ……」
「ええと、ほら、もうカルピス飲み終わったし! 帰る‼︎」
「顔色戻してからの方がいいぞー。あずさ、心配するぞー」
「うううううーっ」
「あ、あとな」
「何っ⁉︎」
「学校では、あずさは人気者だからな。モテますから。さくらたち以外に笑ってんのは、見たことねぇけど。一応言っとくわ」
「えぇ……」
「告白もラブレターも、されまくって、もらいまくってますから」
「えぇ……」
「ちゃんと、自信つけさせてやんねぇと。すぐ遠慮するからな、あずさは」
「うん、そう、だね……」
「学祭で、手を繋げば牽制にもなっていいかもな」
「人多いよ……」
「だからいいんだよ」
「ぜ、善処します……」
「メール、たまには送れよ」
「あ、うん。メールできるようになったの、嬉しい」
「……ホントに帰るのか? 気を付けて帰れよ」
「すぐそこだよ。徒歩二分」
「そうだよな。……今日は、ありがとな」
「うん! 楽しかった」
「学祭で、もし見れたら、剣道の練習イベントするから来いよ」
「そういうのもするんだ」
「来年の新入生を狙ってのイベントでもあるんだと。ま、学祭、来られればの話だけど」
「行くよ。休み取ったから」
「そうか」
「うん、その時、彼女さんも見れたら嬉しいなぁ」
「別れてなければ、見せる」
「いや、ケンカをまず仲直りしようよ」
「善処する」
「あ、同じセリフで返された。……じゃ、またね」
「おぅ」
「おやすみなさい」
「おやすみ」
(つづく)
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