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ユトリノヒトリ【06】 #六甲山と洞察力

ユトリノヒトリ【05】こちら▶︎▶︎


ガールズバーで働くようになって数日後、私もリカちゃんもお休みの日に、2人で遊ぶことになり、お昼過ぎにランチを食べに梅田で集合した。


ランチと言っても、HEPの近くにあるケンタッキーで待ち合わせして、そのままそこで食べることになった。

そしてリカちゃんが舞台の台詞の練習をするかのような棒読みで話し始めた。


「今日アツシと遊ぶんですけど、マコちゃんもジョージさん誘って4人で遊びません?」


「え?今日平日じゃない?お店は?」


私はもうすっかり夜の世界の人間みたいな口振りで聞き返した。


「……やっぱり本当の事言いますね!ジョージさんがマコちゃん2人やったら会ってくれへんから、4人で遊びたい言うてるんですよ」


あ、なるほど。彼の一存でアツシさんは休めるのね、恐るべしNo. 1のチカラ。だけど、私は心の中で、これ以上彼に近付くのは危険だと何度も思っては流されていた。


「マコちゃんが来てくれたら、ウチもアツシと会えるし!てかジョージさんのどのへんがダメなんですか?」


「ダメって言うか、私お客さんになりたい訳じゃないからさ、何て言うか警戒するって言うか…ちょっとビビってる」


「ジョージさん、マコちゃんのことお客さんやと思ってないん違います?こんな必死にならんと思うなぁ。No. 1ですよ?」


「そのNo. 1だから怖いって言うか……」


「マコちゃんって彼氏居たことあります?」


失礼だなって思った。1人だけ……高校生の時に付き合ったことがある。最後は甘酸っぱく散っていったけど……なんと言うか、大人の付き合いは、まだした事が無かったのだ。


「付き合ったことはあるけど……1人だけ」


「やっぱり!彼氏居た方が夜の仕事って上手くいきますよ!ジョージさんから誘ってくれはるんでしょ?勿体ないですって!」



そんなこんなで、妙に説得力のあるリカちゃんのひと押しで承諾し、4人でデートをした。



・・・・・・・




「今日2人で遊んでたん?」


ジョージさんの車に乗り込むと第一声がそれだった。リカちゃんがあれこれ話す。ジョージさんは後部座席のリカちゃんとアツシさんと話し始めた。


「て言うかね、ウチら2人でガールズバー頑張ってるんですよ!ね?マコちゃんモテモテやし!」


いきなりリカちゃんが話を振ってきて振り向くことしかできなかった。


「ガールズバーってどこの?」

少し声のトーンが低くなったジョージさんが私の顔を覗き込んで聞いてきた。


「キタ……のほうにあるガールズバーです」


するとジョージさんは何やらホストクラブの名前とオーナーの名前を出してきて、この人に面接して貰ったのかと聞いてきた。


「ジョージさん、知り合いなんですか?」


リカちゃんが透かさず聞く。ジョージさんは口を濁して、気をつけてな!とだけ言った。


ドライブで六甲山まで来た時、車を駐めて外に出た。何故か手を繋がられてジョージさんはアツシさんに何か合図をして私たちは2人と離れた場所へ向かった。


「今日、全然俺の目ぇ見て話さんな?」


ちょっとビックリした。確かにオーナーの名前を出されて私は動揺していたのだ。


何故なら……初出勤の日からずっと私の送りはオーナーで、毎回車内で口説かれていたからだ。誰にも言えないし、言っちゃいけないと思っていた。オーナーは彼氏が居ないなら付き合おうと言っていたが、私は毎回笑ってはぐらかした。

絶対に罠だと思っていたから。きっとヤバい仕事をさせられる。だって、私は特別可愛いくもないし、スタイルが良い訳でも美人でもない。そこまで口説かれる理由が自分に見当たらないからだ。そこまでアホじゃない。そう思っていた。コンプレックスの塊だったのだ。



「なぁ、聞いてる?俺にはなんも言うてくれへんかったやん?真琴の送りは誰なん?」


ドキッとした。この人の洞察力……と言うかいきなり私を本名で、しかも呼び捨てしてきた!今までマコちゃんだったのに。急に自分のみたいな雰囲気を出してきた。

ちょっと反抗して、体ごと彼から逸らした。そしてやっとの思いで絞り出した声で答える。


「オーナーが……方向が一緒みたい……で」


「付き合おうとか言われてへん?もう言われとるやろ!なぁ?真琴、こっち向いて!」


私はちょっとビビりながら首を横に振って、下を向いた。するとジョージさんは私を自分の方に向き直させて、顎をクイっと持ち上げて真っ直ぐ目を見てこう言った。


「彼氏おるからって断りよ?俺の名前と店の名前出してええから!返事は?」


「あ、はい……え?」


返事をした後に彼氏というワードに引っかかって頭の中にはハテナが飛び交った。ジョージさんは私の手を握り、何度もこちらを向いては小さい子どもをあやすような優しい目をした。

六甲山からジョージさんの家の近くまで来たところで、車が動かなくなった。彼の車は車種はわからないけど高そうな良いやつ。


結局1時間くらいしてからレッカーが来て、車は修理に出された。そこから一旦タクシーで、4人共ジョージさんの家に向かう。もう終電もとっくに過ぎた真夜中の出来事だった。




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主人公はゆとり第一世代のマコ(一ノ瀬真琴)アラサーになったゆとり世代が歩んできたデコボコ道をほぼノンフィクションで小説にしました!



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今回も再編して、小説にしました。ほぼノンフィクションで、団体名や個人名、場所などが一部フィクションとなっております。

最後までお付き合い頂きありがとうございます。また更新しますね!



peco




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