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おめかしすることへの罪悪感を深掘り… している間に、そんなことどーでもよい境地に至った話。

 悪い癖のままついつい自分の心の声を無視し、自己犠牲を重ねてしまった結果、メンタルが荒れに荒れた10月後半だった。実母とのあるやりとりでそれが臨界点を迎えて、「ヤバい、このままでは心が壊れてしまう!!」と気付き、慌てて私なりのデトックス…激しく内面の掘り下げをしていたのだが、フッ… と、

こんなことをいちいち掘り下げる時間がもったいない

人生の1秒でも多くの割合を楽しい思考に費やしたい

と、自己啓発本もびっくりの仙人のような思想が、ほんとーに自然になめらかに頭を覆い、悲しみや怒りの嵐がスン…と終わった。自分でも心境の一瞬の変化に戸惑うくらいだった。

 気にしない。

 え、とうとう目指してた境地に足踏み入れてる?

 いや、これは一時的なもので、また感情の爆発がぶり返さないかしらと恐々としながらベッドに潜り込んだが、心配は杞憂に終わり、私は穏やかな朝を迎えていた。

 …この境地に至った部分こそ解明して記録しておきたいのだが、正直、全くどうして当然怒りや悲しみを鎮めることがだきたのか、さっぱり分からない。また糸口になるかもしれないので、嵐の中書き殴っていた文章だけ置いておく。文章が途中でぶつ切りなのは、そこで突然嵐が終わったからだ。

ーーー

 ここ1、2ヶ月の間、母と何度か会う約束をしていたものの、母の体調が芳しくなく、いずれの約束も延期になっていた。
 先週、母親の誕生日だった。
 しばらく会えていない(=孫の顔を見せてやれていない)。
 誕生日のお祝いをしなければ。
 体調が優れないお見舞いしなければ。
 少しの時間でも、母に会いに行かねば、と思うには十分すぎる条件が整っていた。天ぷらをご馳走して、父母と私と夫と、楽しく近況を語り合った。思うことは色々あっても、やっぱり体調が悪そうだとすごく心配だし、こうして笑って話しているととても嬉しい。私はお母さんのことが好きなのだな。こうして私なりの親孝行を積み重ねていけたらいいな…と、とても穏やかな心持ちで過ごせた。いい日になりそうだった。
 風向きが急に変わったのは、食事の後、お手洗いに入った時だった。

 手洗いを済ませ、櫛を前髪に通した私を見て、母はほんのり口角を斜めに上げながら、
「ワァ、櫛なんか持って、偉いねェ」
と言った。

 そう、言われた瞬間、ざわあっと全身に鳥肌が立つような心地がした。頭が真っ白になって、
「…えー当たり前じゃん。私まだ二十代だよ?」
「貸そうか?」
と、立て続けに言った。
母はいいよいいよと笑って、私の櫛を借りることはなかった。

 帰宅して、頭の隅にこびりついて離れなかったそのワンシーンが、じわじわと脳内を侵食してきたのだ。
あの時の、母の顔。あの顔、あの顔!!
相手をちょっと小馬鹿にしたような、意地悪な、あの顔!!!!

 …見つけた。これだ。私の罪悪感の核の一つ!!

 私は、
・おしゃれ(髪を巻く、アクセサリーをつける、ネイルをする)をすること
・自分のお手入れ(スキンケア、ヘアケア等)をすること
・女らしい(男性からモテそうな)服を着ること
に対して、異常な抵抗感を感じていた。

産後は特に、

・母親のくせに/ブスのくせに、浮かれて恥ずかしくないのか?
・放蕩で無駄な散財ばかりしていて、今に痛い目に遭うぞ

と内なる声が囁いてくる。
元気なうちは、その声に理性の声で抵抗しておめかしするのだが、いよいよ罪悪感に追い詰められて元気がなくなってくると

・ミニマリスト的思考
・普遍的で変わらないデザインのものを毎日着る
・すっぴんで一つ結び
・質素倹約こそ素晴らしい

みたいなゾーンに突入する、(僧侶の本とか読み始める)
え…。手前味噌だけど、めっちゃクレバーじゃない…?これ以上の模範解答あるのか?
「でも、昨日お風呂入ってないよw」
こんなオチまでつける。え?え?大人すぎないか??
そう、大人すぎるのだ。母親に(!)対して。子供なのに。

アンタだって、今口紅塗り直して鏡に向かってンパンパしてたやんけ。なんで私が前髪を整えたくらいで、そんな揶揄されないといけないの?

 ッアァァァイライラする!!!!この文章を書いている途中、比喩表現ではなく、リアルな身体反応として、怒りで肩が震えて呻き声が出る。

なんで母親はそんなことを言うのだろう?

彼女にとって「娘がくしを持っていて、前髪を整えた」ことが、皮肉な笑いを込めてコメントせざるを得ない事象だったわけだ。
彼女は永遠の「リトルプリンセス」、あま〜い夢物語のヒロインでいたい、その座を絶対に絶対に絶対に他人に譲らない人間だから、娘が自分より美しいなんて許せない。
娘が美しかったとしても、その美しさは自らに還元されなくてはいけないのだ。
「お姫様は美しい。お妃様に似たのね」
この二言目こそが最も重要なのである。

この日の私は、母とはおおよそ遠いファッション、髪型だった。メイクに関しても、私はいつも通り完全なノーメイクだったけど、母は絶対にフルメイクで外に出る人間なので、そういう意味でも対極だったかも知れない。
 彼女のあの絡みつくような目線、おそらく私の風貌に、お妃様由来ではない、オリジナルの美を見出してしまったのだろう。シンデレラが主人公なのに、シンデレラより美しい女は物語に出てきてはいけないのだ、たとえ娘でも。

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