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MELODY&NUTS #最終回 DELIGHT

『最後の曲に行く前に
 みんなちょっと聞いてくれ』

『これは俺の話ではない
 ある友達の話だ』と切り出し

ディーが手元のマイクを握り
語り始めた
何だか少し笑っているように見えた

『その友達は
 ある日酒に酔っ払い
 身の上話を俺にしてきたんだ』

『好きな女の子がいるんだけど
 ウチは恋愛禁止でさ
 お父さんとお母さんが怖くて
 告白が出来ないんだって』

会場から笑い声が聴こえてきた
メロもこんな時にディーは
一体何の話をしているんだろうと
笑っていた

しかしここから
ディーの熱量がグッと上がる

『だから俺は言ってやったんだ
 そんなくだらねールール
 やぶっちまえよって』

『だってそうじゃねーか
 好きなことを好きって言えないなんて
 おかしいと思わないか?』

そうだ!と共感の声が
会場から聞こえる

『ここにも
 同じように好きなこと好きって
 言えないやつ
 本当はたくさん
 いるんじゃないのか』

『何かに縛られているのなら
 それが当たり前を縛るような
 くだらないルールや
 人間関係や鎖なら
 ぶっちぎって正直になろう
 今日から自由になろう
 そう思ってるやつ
 俺に共感できるやつ
 手を挙げてくれ
 そして大きな声を上げてくれ』

『なぁメロ』と小さな声で付け加えた 

会場中の手が挙がり
やがて戦の前のように
この日
一番大きな大喝采が巻き起こった

大喝采は運動公園全体に響き渡り
もちろんMAIN STAGEにも届いていた

真一郎が言葉に詰まっているあいだに
聞こえた音
それはFUTURE STAGEからの
魂の叫びだったのだ

『それじゃあ最後の曲に行こう』

ディーのスクラッチが会場を切り裂く

Billy Joel / Just The Way You Are

会場中が高く挙げた手のひらを
左右に大きく振り
MELODYの最後の曲に耳を傾けた

Billy Joelの甘い歌声が流れる
ディーも観客に合わせて
大きく手を振る

FUTURE STAGE担当のPAスタッフは
ディーのマイクパフォーマンスに感化されたのか
限界まで会場の音をあげた

運動公園中を取り囲む爆音
その中心にMELODYはいた

Just The Way You Are
〜素顔のままで〜と
邦題がついているこの曲は
ビリーの歌声はもちろんなのだが
Phil Woodsによるサックスのソロパートが
とても魅力的な一曲だ

今まさにステージ上で
メロはサックスを構えている

メロがあの鬼才
東堂真一郎の息子であることは
誰一人として会場にいる者は知らない

さっきまでマイクを使って
パフォーマンスをしていたメロが
サックスを持って立っている状況を
観客全員が理解できずに
固唾を飲んで見守っている

メロは目を瞑り
深呼吸をすると
マウスピースを加え
リズム良く
音色を奏でた

たったワンフレーズで
ある者は涙を流し
またある者はステージに釘付けになった

名も知れぬ
無名のサックスプレイヤーが
会場の度肝を抜いたのだ

それは
FUTURE STAGEの観客だけでは無かった

MAIN STAGEに居る
父、真一郎の耳にも届いていた

『皆さん
 挨拶の途中でしたが
 もう一曲だけ
 演奏させてください』

観客にそう告げると
バンドマンに振り返り
耳を指差し

『同じように』と言った

不思議なことに
FUTURE STAGEから
聞こえる音に合わせて
MAIN STAGEでも
Just The Way You Areの演奏が始まった

時を同じくして
ANOTHER STAGEでも
同じことが起きていた

3つのステージそれぞれで
観客たちは高く手を挙げ
大きく左右に揺れていた

メロを見つめる母は涙し
メロと同じパートを演奏する
父もまた目に涙を溜めていた

曲の途中にある
サックスのソロパートが終わり
ビリーの甘い歌声に戻ってくる

ボーカルパートの最終部
ギターの音色とビリーの歌声だけになる

真一郎はサックスを置き
マイクで話し始める

『最後に
 もう一人バンドメンバーを
 紹介させてください』

大きく息を吸い込み
FUTURE STAGEの方を指差し
全力でコールした

『サックス
 東堂奏!』

会場は一瞬ざわついたが
真一郎お決まりのパフォーマンスで
静寂を取り戻す

観客
演奏者
スタッフ

野外フェスに集まる
全ての人間の注目を集め

メロはアウトロに入る

鎖で繋がれていた
一人の青年が
まるで翼をはやしたように
夏の夜空に向かって飛び立っていく

優しく
そしてしなやかに
何よりも自由に

そんな演奏だった 

野外フェス全体から
どんな言葉も飲み込まれるほど大きく
歓喜の声が湧き上がった

ディーはメロに走り寄り
声を掛ける

『ほんとにMAIN喰っちまうなんて
 聞いてねーぞ
 なんてやつだ』

7月の熱帯夜
ディーと立つステージで
流す汗は気持ちが良い

DJブース脇に置いてあった
揃いのビールも大きな粒の汗をかいていた

カチン

メロとディーは
『ナッツに』と言って
温くなったビールを互いにぶつけ
一気に飲み干した

歓喜の渦の中
ディーが笑顔でメロに聞く

『メロ
 音楽は嫌いか?』


〜END〜


MELODY&NUTSを
ご愛読いただいた皆さん
本当にありがとうございました!

読み終えた感想をコメント欄に
頂けると嬉しいです!

さらにこの作品は
「note創作大賞2022」にエントリーしています
本気で賞を獲りに行きたいです!
皆さんの愛で押し上げてください!
コメント・スキ・フォローで応援の程
是非よろしくお願い致します!

作品へのアレコレはあとがきにて綴ります

それではまた
次回作でお会いいたしましょう!!!!!!

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