見出し画像

MELODY&NUTS #21 DIALOGUE

『MAINはやっぱ盛り上がってんなー
 俺たちもMAINに呼ばれないかな』
『ディーならいつか立てるよ
 きっと』

MAINステージを後にした
二人は
ANOTHERステージへ向かっていた

近づくにつれ
かすかに音色が聞こえてきた

『MAINとは違う雰囲気だな』
『そうだね
 これはフランクの作品だよ』
『さすがおぼっちゃま
 俺は知らない世界だ』
『ヴァイオリンとピアノのためのソナタ
 フランクの作品の中でも
 演奏される機会の多い代表曲だよ
 兄と姉が練習をしていたから覚えているんだ』

ANOTHERステージが見えてきた
『あれ』
『ん?どうした』
驚いた顔で立ち止まるメロ

『兄と姉だ』
久しぶりに見る兄弟の顔は
懐かしくも遠くにあるように感じた

『ほんとかよ
 めちゃくちゃ上手いって
 素人でもわかるぞ』
『あぁ』
少しうわの空で返事をした

『俺ちょっと見ていくよ』
『わかった
 俺は関係者に挨拶回りしてくる
 バックステージで落ちあおう
 遅れるなよ』
『悪いなディー』

そこにはプロとして立つ
兄弟の姿があった
実家を逃げ出したメロにとって
その光景は
胸を締め付けた

阿吽の呼吸で
紡がれていく
二人のアンサンブル
静寂が会場を包みこむ
それはまるで東堂家の食卓のようだった

『ここには戻れない
 ここには戻りたくない』

心の中で幼い頃の
自分が話しかけてくるのがわかった

『苦しかったね
 辛かったね』

そうだ
嫌で嫌で仕方がなかったんだ

『今の僕は
 幸せに過ごせてる?
 友達はいる?
 行きたい所やりたい事
 ちゃんと出来てる?』

全部は叶わないけど
そこそこ自由にやれているよ
そう答えた

『本当に?』

この言葉をきっかけに
我に返った

心の中の自分は
悲しい顔をしていた
泣いていた

今日で何かが変わればいい
いや
今日で何かを変える

ナッツと約束したんだ

これ以上深くは潜れない
手を差し伸べてくれる仲間が
今は見えている

今いる世界が全てじゃないと
教えてくれた仲間がいる

人の数だけ世界がある
コミュニティの数だけ世界がある

見えていなかった
知らなかった

その結果どうなった
狭い世界の中でどうなった

息をしようとしている自分を
殺し続けてきたんだろ
逃げ出そうとする自分を
鎖で縛り付けてきたんだろ

まだ泣き続けることを選ぶのか

『嘘つくんじゃねー』
『最初で最後のチャンスなんだぞ』

ナッツが言った言葉だ
新しい世界へのチケットをくれたんだ

FUTURE STAGE
19:00 MELODY

最終便の時刻は迫っていた

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?