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3つの語り①(復帰の語り)

これまでの投稿でも,臨床において苦しむ人の語りを聞くことの大切さを執筆してきました。
ここでは,語りというものを少し深く考えてみたいと思います。
アーサー・W・フランクは苦しむ人の語りを3つの型に分けました。

復帰の語り(Restitution narrative)
混沌の語り(Chaos narrative)
探求の語り(Quest narrative)

実際に語りにはこの3つが入り乱れているわけですが,まずは『復帰の語り』を私なりの解釈を交えて考えてみます。

復帰の語りとは,いわゆる王道の回復ストーリーと私は理解しています。
つまり,[病気の発症⇒治療⇒リハビリテーション⇒社会復帰]というように,社会が理想とするような直線的で前進する語りです。

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病気やケガをすれば,誰でも完治・回復を望むものですし,それは自然な欲求かと思います。「絶対に治したい」,「治療を続けたい」というのは誰でも思うことでしょう。そして,周囲の人も励ましや応援をし,苦しむ人の力になろうとします。そういった励ましや応援も自然なことで,苦しむ人にとって大きな力になる場面があります。

だからこそに強烈な魅力を持ち,手放すことが難しくなります。


自然な欲求だったものが次第に強制力を持つようになります。
前向きで直線的な回復ストーリーが,「治療は続ける“べき”」「完治を目指す“べき”」というように,『〇〇するべき』というように規範化し,苦しむ人達の語りを閉鎖的にしていきます。

まさしく,医療,リハビリテーションの領域はこの『復帰の語り』に溢れているのではないでしょうか?
『復帰の語り』を語れない人は,やる気のない人,ネガティブな人というようにマイナスな視点で問題がある人と捉えられてしまうこともあるかと思います。

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『復帰の語り』は未来志向で,周囲からは希望に溢れた人に見えることでしょう。だからこそ多くの人に受け入れられやすく,苦しむ人が目指すべき模範のように扱われます。その一方で,そうではない人を排除する危うさもあるのです。

ケアに携わる者は,ポジティブな語りに裏にある,ネガティブな要素の存在にも注意する必要があるように思います。

【参考文献】
・アーサー・W・フランク(著),鈴木智之(訳):傷ついて物語の語り手

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