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しなない、で。

2学期が始まろうとしている。
明日は始業式。提出物やらなんやら準備してたら、もう23時。

私は、昨年のことを思い出している。


夏休みの最後の日、彼女のことを知らされたのは母からだった。

母は、彼女のお母さんと仲良くしていたから。私たちが小学生の頃から、私たち以上に仲良く見えた。
以前私が住んでたご近所さんだった。

彼女は、私と同じ小中学校、同じクラスには何度かなったが、挨拶を交わす程度で、お互い違うグループだった。
高校は違ったが、お互い同じ駅で降りた先にある高校だった。

彼女は頭が良かった。一度、昨年の5月頃に駅で彼女を見かけて、声をかけた。彼女はイヤホンで音楽を聴きながら、手には分厚い英語の参考書を持っていた。
私に気がつくと、スッと参考書を下げ、ニッコリ笑って、久しぶり、元気にしてた?お母さんがいつもえなのお母さんと長電話してるの知ってるー?超仲良しで羨ましいよ、えな、高校は楽しんでる?
そこから私たちは、一緒に電車に乗り、話しながらお互いの帰路に着いた。


あれが、彼女と交わした会話の最後だった。

「え、、今なんて、、」
お母さんから、彼女が亡くなったことを聞かされたのは、昨年始業式の前日だった。

亡くなったのはその前日だ。
自宅で、、。自殺だった。遺書はなかった。原因となるようなことを、誰1人口にできなかった。


彼女のことを私がよく知っていた訳ではない。
だけれど、私と比べなくても、彼女の周りには友達も多かったし、誰が見てもいわゆる陽キャのグループにいつも属していたし、彼女の容姿や性格は、誰もが認めざるを得ないところがあった。それに加えて、頭も良かった。

私は母から聞かされたとき、泣かなかった。

まず、実感が湧くわけがなかった。
何ヶ月か前には彼女は、好きな音楽を聴いていた。英語の参考書を読むことができていた。私ににっこりと笑う姿からは、人生への不満を感じさせたり、不安を纏ったようなところは微塵もなかった。

はずだ。


私は、その日、眠れなかった。でも泣かなかった。
朝方にはいつの間にか寝てしまっていた。夢を見ていた。彼女の葬儀に行っていた。彼女の葬儀のはずなのに、彼女は私の隣に座っていた。なぜか、ごめんね?と、私を上目遣いで見て、なぜか、申し訳なさそうな彼女がいた。

目が覚めた、母に学校は休むと告げた。
母は何も言わず、起きた私に温めた牛乳を用意した。母の目は、沢山泣いた後特有の、腫れた目だった。

翌日から学校に行き、夕方、彼女の葬儀に母と向かった。私は彼女の、青白い、固まった顔を見た。だけれど、彼女だとはどうしても思えなくて、人形を眺めているようだった。私は、その時も泣かなかった。

あれから、一年が経った。
バタバタと過ぎる日々。
部活はバスケ部に入っている。朝練があったり、朝課外がある日があったり、夏休みも部活三昧。休みの日は貴重だから、友達と遊ぶというよりは、大好きなゲームにハマって何時間もやってる。

あれから一年か。私は、自分の部屋のカレンダーを見ながら、彼女を思い出していた。

あれ。なんでだろう。
目が、、涙か。
なんで、私今頃になって、泣くの?あの時は泣かなかったじゃん。

今頃になって、実感が湧いたとか??



そうじゃない。
どこかで、彼女が笑っている気がしたからだ。
笑ってるなら、なんで死んだんだよ。なんで自殺なんかしたんだよ。私より全部優れてたじゃん。何にそんなに不満だったの?
生きているだけで周りから肯定されているようなあなたが、なぜ、私は死にたいなんて思わないのに、あなたが死んだの?

分からないよ。分かりたくもないよ。

なんで、一年も経って、私は今さら泣いているんだろう。
彼女は笑っていた。
私の中の彼女はいつもそうだ。

私、あなたの分まで生きる。あなたの分まで、笑って生きるから。見てて。勉強はまぁ、あなたには劣るだろうけれど、部活は勝ててるかな?あなたは吹奏楽だったから、比べられないか。これから沢山経験することを、毎年この季節にあなたに報告することにする。

だからずっと、笑っていてよ。


今現在、私は大学3年生。東京で一人暮らしだ。
大学生の夏休みは十分満喫している。まあ大半はバイトだけれど、休みの日は友達や彼氏と過ごす日々。
もうすぐ8月が終わる。

私は、手を合わせる。その両手の前には、写真立て。写真の中には、私と彼女、私の母と彼女の母が写っている。私たちが近所に住んでいた頃、これは小学校1年生だ。


見てるかな?

ちゃんと見ててね。私の成長。




子ども自殺、10代〜20代の自殺が増えている時代。
少しでも踏みとどまってくれないかと思う。

辛いことや寂しい時、それを1人で抱え込まないでほしい。
そんな不の感情を、何にもぶち当てられない、心が優しく、繊細な方が多いのだ。


自殺を選ばない方法を、どうにか探れないものかと思う。


無事、2学期を迎えられますよう。願いを込めて。
全ての子どもたちへ向けて。

大丈夫。生きてるだけで、いいのさ。

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