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脳卒中患者の”快適歩行速度”の真実

▼ 文献情報 と 抄録和訳

脳卒中後遺症のある人の相対的な有酸素運動負荷、エネルギー・コスト、および歩行速度の関係について

IJ Blokland, AS Gravesteijn, MC Busse, et al.: The relationship between relative aerobic load, energy cost, and speed of walking in individuals post-stroke. Gait Posture. 2021;89:193-199.

[ハイパーリンク] DOI, PubMed(Full text), Google Scholar

[背景] 脳卒中後遺症のある人は、健常者に比べて歩くのが遅いため、参加が制限される。これは神経学的障害に起因すると思われるが、有酸素能力と歩行時の有酸素負荷とのミスマッチにより、最も経済的な速度では相対的な有酸素負荷が維持できず、より低い歩行速度を好むようになることも原因と考えられる。

[目的] 脳卒中後の歩行能力に及ぼす有酸素運動能力と有酸素運動負荷の影響は何か?

[方法] 脳卒中後遺症のある40名(高次機能障害者21名、快適歩行速度(PWS)0.8m/s未満、低次機能障害者19名)と健常者15名が、PWS70%、85%、100%、115%、130%で5分間のトレッドミル歩行試験を行った。エネルギー消費量(mlO2/kg/min)とエネルギーコスト(mlO2/kg/m)は、酸素摂取量(V˙O2)から算出しました。相対的負荷は、エネルギー消費量をピーク有酸素能力(%V˙O2peak)と換気閾値でのV˙O2(%V˙O2-VT)で割ったものとした。PWSにおける相対的負荷とエネルギーコストを一元配置のANOVAで比較した。これらのパラメータに対する速度の影響はGeneralized Estimating Equationを用いてモデル化した。

[結果] 脳卒中後遺症のある人もない人も、健常者に比べてPWSは低かった(0.44 [0.19-0.76] および1.04 [0.81-1.43] vs 1.36 [0.89-1. 53]m/s)、PWSでの相対負荷が高い(50.2±14.4および51.7±16.8対36.2±7.6%V˙O2peakおよび101.9±20.5および97.0±27.3対64.9±13.8%V˙O2-VT)ことが明らかになった。脳卒中後遺症のある人のPWSでのエネルギーコストは、0.30 [.19-1.03] mlO2/kg/mで、低障害者(0.19[0.10-0.24] mlO2/kg/m)や健常者(0.15 [0.13-0.18] mlO2/kg/m)よりも高かった。脳卒中後遺症のある人の場合、PWS以上に歩行速度を上げるとエネルギーコストは減少するが、相対的な負荷が持久力閾値を超えることになった。

[結論] 脳卒中後遺症のある人は、経済性を犠牲にして相対的な有酸素運動負荷が持続的に高くならないように、歩行速度を落としているようである。脳卒中後の歩行能力の向上を目指す場合、有酸素運動能力のトレーニングを考慮することが重要である。

▼ So What?:何が面白いと感じたか?

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ポイント
脳卒中後遺症のある方の歩行速度は、エネルギーコストと有酸素負荷の双方のバランスをとって決定されている。

面白いと感じた理由
健常者の場合、快適な歩行速度においてエネルギーコストも小さくなるだろう(本論文の結果でもそのように示されている)。しかし、脳卒中患者の場合、快適歩行速度=エネルギーコスト⤵の関係が崩れてしまっている、ということなのか。面白い。上記の結論から考えると、歩行に限らない有酸素運動による能力向上によっても、快適歩行速度の向上、すなわち、快適歩行速度=エネルギーコスト⤵の関係に近づけるかもしれない。

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以前、以下の論文を紹介したが、正直理解しきれていなかった。まだ最適解は分からないが、脳卒中患者において、”有酸素運動能力”に着目することは重要であるだろう。

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