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『ニューヨークのアートディレクターがいま、日本のビジネスリーダーに伝えたいこと』

ニューヨークで活躍する日本人アートディレクターが、日米での仕事を通じて感じた『ビジネスにおけるブランディングの重要性』を解説した一冊。

■こんな人におすすめ

・ブランディングに携わっている方
・事業の企画領域を担当している方
・ブランディング初心者

※経営に近いポジションですでにブランディングに携わっている方にとっては、入門書的な位置付けになるかと思います。

■本書のおすすめポイント

まず、とても分かりやすいです。
難しい用語は殆ど使われておらず、表現も単純明快。

著者の経験則による記載も多々あるため、読み手のステータスによって感じ方・捉え方に差異は出ると思いますが、総じてタメになる一冊です。

大事なことは表現を変えて何度も記載されている点も、理解を深める上では良い点でした。

マーケティングやブランディングという切り口で書籍を探している方は、一読して損はないと思います。

■私が読んで「重要!」と思ったセンテンス

①ブランディングとは

ブランディングとは、その商品の本質や価値を引き出し、思いや強みをターゲットに正しく伝わるかたちで表現すること。

ブランディングの最終ゴールは、ロイヤリティの獲得。すなわちファンになってもらうことである。

世界の経営者は、ビジネスを成功させるにはブランディングが不可欠な経営戦路であると認識している。
そのため事業を立ちげると、まずブランドの構築(=ブランディング)をはじめる。

そして、ブランディングの要である「クリエイティブ」を統一するアートディレクターを事業戦略構築のはじめから起用し、ブランディングを進めていく。

日本でも最近、ブランディングやデザイン経営という言葉をよく聞くようになった。
しかし、まだまだその本質は理解されておらず、経営戦路として浸透していないのが実情。

残念ながら、ブランディングをする前にロゴやウェブサイト、内装をつくりはじめてしまう経営者や担当者が非常に多い。

これでは一貫性のない世界観とメッセージを発信する、つぎはぎだらけのブランドが出来上がってしまう。
このような状況からは、ブランドとしての成功、そしてグローバルな成功はありえない。

②ターゲット・オーディエンスに伝える

日本企業がアメリカ市場に進出する際に頻発すること。
それは、日本人は素晴らしい商品をつくるのに、ターゲット・オーディエンスを理解しておらず「伝える」ことができていないということ。
よって、ビジネスはうまくいかない。

ここでいう「伝える」とは、商品をターゲット・オーディエンスに響くかたちに落とし込むこと。
つまり、ブランディングのことである。

海外でうまくいかない日本企業は、海外マーケットでも日本人をターゲットとしたやり方を採用してしまっている。
そして、ターゲット・オーディエンスを理解していないがために、見当はずれなチーム編成をし、ターゲットに刺さらない戦路でビジネスをしてしまう。
結果、成果を出せずに撤退していく。


日本のインバウンドビシネスでも、これと全く同じことが起こっている。

日本での「外国人ターゲット」のサービスは、海外からの顧客に合わせるのではなく、日本人が日本の常識や嗜好で考えた「外国人」をターゲットにしたものがほとんど。
単一民族と中間層が圧倒的に多い日本の感覚で、様々な国、民族、言語、宗教、収入、学歴などをもつ海外顧客を「外国人」でひとくくりにしてしまっている。

そうではなく、効果的な顧客層に狙いを定め、相手の文化に合うかたちに「調整」して提供していくことがインバウンドビジネスを成功させていく上で重要である。

それにはターゲット・オーディエンスを理解したビジネス経験が必須になる。

③ターゲット・オーディエンス

ターゲット・オーディエンスを具体的に絞ることがブランディングを成功させる秘訣である。

それにはまず、この商品やサービスは、どういった人々に向けてつくられているか、どういう市場や層の人々に買ってほしいかを定義する。
通常、デモグラフィクスとサイコグラフィクス の2つで表す。

01.デモグラフィクス
統計上の集団の特徴。
一般的には年齢、性別、年、職業、社会階層、家族構成、教育レベル、人種、宗数、居住国/居住地域などの属性を表す。

02.サイコグラフィクス
心理的な属性。
休日は何をしているか、どんなライフスタイルなのか、趣味や嗜好、行動の傾向などを分析したもの。

留意すべきことは、自分がターゲット・オーディエンスでないことを認識し、自分の価値観だけで考えないということ。

④プロダクトベネフィット

競合となる類似または代替となる商品・サービスがたくさん売られているなかで、ターゲット・オーディエンスがこの商品を選ぶポイントは何か。

「どういったメリットを消費者に与えるのか?」
「この商品をターゲットに選ばせる価値とは何なのか?」

ターゲット・オーディエンスを理解することはもちろんのこと、時代や環境、トレンドなどを読み取り、洞察することが重要。
それと同時にこの商品・サービスの本質とも合致していなくてはいけない。

自分がターゲット・オーディエンスでない場合、やはり自分の主親で考えてはいけない。

例えば、日本女性に一番好まれる下着の色はパステルピンクだが、アメリカとイギリスの女性が一番好む下着の色は黒であるように、あくまで自分がターゲットではないことを認識し、ヒアリングなどをしながら、慎重に考えていく必要がある。

⑤日本では「デザイン」が正しく理解されていない

日本での「デザイン」の解釈は他の国々と異なっている。
「デザインする」とは、見た目の良いものをつくることではない。
デザインとは問題解決の手段である。
つまり「デザインする」ということは、
・クライアントをよく観察し
・課題や間題点や強みを見極め
・オーディエンスや時代、市場を考慮し
・問題解決する方法をクリエイティブに考え出し
・それを可視化して伝わるかたちに落とし込んでいく

ということである。

それに対し日本の「デザインする」とは、最後のプロセスの一部である「見た目の良いものをつくること」であると考えられている。

デザイン事務所の仕事は、本来はブランディングやデザインを通して問題解決すること。
それにも関わらず、日本では表面的な見た目の良いものを作ることだけにとどまっている。
(日本のデザインフィーが海外のそれよりも格段に安い理由の一つでもある。)

⑥情緒的価値と非言語的コミュニケーション

商品のスペック(機能的価値)だけでなく、商品やそのつくり手に共感できるか(情緒的価値)が重要になってきている時代。

日本は機能的価値を上げることは得意だが、情緒的価値を上げることは苦手。

しかしながら、商品・サービスの差別化や、次世代の購入層を考えると、情緒的価値を上げて伝えることは非常に大切で、そのためには戦略的なコミュニケーションが必要になる。

ここでいうコミュニケーションとは、言葉を使って伝える言語的なものだけではない。

非言語的なコミュニケーションである「視覚的要素・聴覚的要素・嗅覚的要素・味覚的要素・身体的要素」など、相手の五感で感じられるもの全てがコミュニケーションに含まれる。

そして、言語コミュニケーションよりも記憶に残るビジュアルをツールとした視覚的コミュニケーションは非常に有効な手段である。

例えば、人が耳で聞いた内容を3日後に記憶している割合は10%、イラストを見せた場合は35%という実験結果が出ている。

また、絵を理解・処理するスピードは13ミリ秒、文字を理解・処理するスピードは200ミリ秒という研究結果も出ており、文章よりもイラストの方が15倍早く理解・処理できる。

⑦ビジネスにクリエイティブな視点が必要な理由

ビジネスの目指すゴールは、商品・サービスを購入してもらい、そしてリピートして買ってくれるロイヤルカスタマーを掴むこと。

では、消費者はどう判断して購買を決めるのか?

それは、そのブランドに関わる全ての要素が醸し出す雰囲気であり、これをLook and Feelと言う。

お客様に手に取ってもらうには、商品自体の良さで勝負するのではなく、どれだけその商品の世界観を商品以外の要素全てで表現できるかにかかっている。

だからこそ、ビジネスにはブランディングが必要であり、その要であるクリエイティブな視点が求められるのである。

時代や環境、ニーズを考えながら、企業や商品・サービスのもつ「らしさ=個性」を引き出し、その価値をお客さまに与える総合体験の全てにおいて正しく演出し、効果的に伝わるかたちに落とし込む。
その結果、リピートして商品やサービスを継続購買してくださるロイヤルカスタマーが醸成されていく。

⑧用語の整理

01.ブランド
A brand is a "Name, term, design, symbol, or any other feature that identifies one seller's good or service as distinct from those of other sellers."
商品・サービスを競合他社から明確に区別し識別させるための、名称、言葉、デザイン、シンボル、その他の特徴のこと。

02.VI(visual identity)
会社、商品や組織のコンセプト・理念を、ビジュアルの構成要素(ロゴ、書体、色、写真、イラスト等)で視覚的に表現したもの。

03.CI(corporate identity)
企業理念、事業内容、方針など経営にまつわる事柄を企業目線で体系化したもの。VIも含まれる。
目的は、企業メッセージを広く伝えることであり、ブランディングではない。その違いは視点である。
CIは企業視点で構築されるため、消費者視点で構築されるブランディングのように、ターゲット・オーディエンスの設定はしない。

04.ブランディング
時代や環境、願客ニーズを考えながら、商品・サービスのもつ「らしさ=個性」を引き出し、価値をつくり上げ、お客さまに与える総合体験の全てにおいて正しく演出し、伝わりやすく魅力的にデザインすること。
最終目的は、「企業価値」を向上させ、お客様のロイヤリティを獲得すること。ファンになってもらうこと。

⑨良いブランドの条件

ブランデングは、下記の条件を満たすような方向に進んでいく必要がある。
とりわけ昨今では9〜12が重要。

01.偽りがない
02.ビジョンがある
03.価値がある
04.一貫性がある
05.持続可能である
06.柔軟である
07.差別化されている
08.約束を守っている
09.感情を引き出す
10.社会貢献の要素がある
11.環境に優しい
12.企業倫理/ガバナンスがある
13.ポジティブである

⑩ブランディングの管理

日本でよく見かけることだが、ブランディング後の管理ができていない。
例えば、「ブランディング」をしたであろうロゴや内装などのコラテラルが素敵に仕上がっているレストラン。

しかしながら、従業員の接客が悪かったり、ブランドに沿わないようなものが買い足して使われていたり、現場の利便性を優先して色々なものが客の目につくところに置かれていたり…

ブランディングは総合体験であり、続いていく長期戦路。
細部にまで神経を使い、世界観を保っていけば素晴らしい効果が期待できる。
その一方で、小さな矛盾が不信感を招き、プランドイメージを落とすことに繋がる。


■最後に

決して分厚い書籍ではありませんが、情報量は多く、ブランディング領域における知識の再整理・考え方の発見に大いに寄与してくれる一冊だと思います。

ぜひ読んでみては。

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