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【 完結 】 COLLECTIVE 2022 レビュー

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COLLECTIVE 2022 に全国から集まった ZINE を PARK GALLERY 加藤が1つ1つ向き合いレビューしていきます。まだ触れたことのないパーソナルな ZINE…
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記事一覧

COLLECTIVE レビュー #60 TARP『TARP vol.3』(東京都)

COLLECTIVE レビューも最後です。全タイトルをひとりでレビューするというのも最初で最後。大変だったけど、参加者のみなさんのお礼のメッセージを通じて、今回のレビューが新たな創作のモチベーションになったり、自信をなくして塞いでいた気分を明るく照らしたりしたのだと知って、僕自身もうれしくなりました。やってよかった。おそらく、60タイトルのレビューを全部読むと、ZINE に限らず、創作をする上で大切にしなければいけないことっていうのがなんとなく見えてくると思います。その ZI

COLLECTIVE レビュー #59 犬スタ『っぽい顔にみえる。』(東京都)

パソコンが使えるとかデザインができるとか、文章が書けるとか、そういうことは ZINE をつくるうえで一才関係ない。前回のレビューでも書いたように、書きたいなと思うことと自分に似合った道具さえあれば OK 。ルールやマナーもいろいろありそうだなと思ったけれど、ないと思う。例えばこれを読んでいるひとで、ZINE が作りたいのだけれど、パソコンやデザインがハードルだと感じてしまってる人がいたら、一度、紙に何か思いついたことを書いてみて、コンビニでスキャンして、プリントして、その部分

COLLECTIVE レビュー #58 ZINEつくろうよ!『ONE DAY ZINE TRIP No.1』(東京都)

2018年から5年間、毎年甲子園のように続けてきた COLLECTIVE も今年で終わりだ。2、300冊くらいの ZINE に触れて、それらをこうして言語化してきた。とにかく言えるのは、ZINE というのは気軽で、その気軽さからプレーヤーも増えてきていて、その種類は千差万別だということ。クオリティよりも大事なのは中身で、それは作らされてるものであってはいけない。「好き」な気持ちが充満しているべきだし、ついつい衝動的に、動いてしまっているものであってほしいし。作ったあと、たくさ

COLLECTIVE レビュー #57 MIYA『明日も良い!』(東京都)

パークは台湾となにかと縁がある。旅行先としてシンプルに好きだというのはもちろんなんだけれど、パークのディレクターの加藤は(ぼくは)2011年~2012年に、台湾を拠点に日本でもブームを巻き起こしたオルタナティブバンド「透明雑誌」のジャパンツアーを手がけたメンバーのひとりでもある。透明雑誌とその仲間たちとの交流が、その後の台湾とのカルチャー的な交流を活性化させた。 透明雑誌は活動休止してしまっているけれど、現在メンバーはそれぞれ、台北のユースカルチャーを牽引する2つのストア

COLLECTIVE レビュー #56 Yuu『The A to Z of Feeling 』(東京都)

「作るのが難しいので納品数が限られてしまうのですが、大丈夫ですか?」 47都道府県、全国各地から公募で ZINE を集め、展示しながら販売するエキシビジョンCOLLECTIVE の募集をかけてしばらくすると、そんなメッセージが届いた。5~10冊くらいの納品が基本になっているけれど、特にルールというわけではないので OK ですと伝えた。それよりも「作るのが難しい」という表現が気になってワクワクしていた。 「手作りがいい」「手作りであるべきだ」というわけではないけれど、誰

COLLECTIVE レビュー #55 むま / YUKIRI PUBLISHING『バンコクうろうろごはんのこと』(愛知県)

「あなたには人間力が足りないのよ!」 社会人になりたての23歳くらいの頃、つまり仕事をするにも目の前にあることを右から左へ受け流すことだけで精一杯だった頃、サブカルチャーの知識を詰め込んで頭だけが大きくなって<実社会>では何もできないぼくに、ある日、社長が言い放った。仕事のミスが続いていたこともあったと思う。 「3日の休みとおこづかいをあげるからひとりでインドにでも行ってきなさい。」 なかなかないチャンスだと思った。はじめての海外。ひとり旅。 調べてみるとはじ

COLLECTIVE レビュー #54 YUKI KODAIRA『TuTuJi』(埼玉県)

もうとっくに終わらせているはずのレビューだが、ここでは書けないくらいいろいろなことが起こって、結局この3連休まで引きずってしまった。この連休で COLLECTIVE は終わる。長かったような短かったような。5年が終わる。 特に順番は決めずに、目の前に積まれた ZINE のレビューを書き続けている。ふと思い立ったように下から取る時もあれば、パラパラとめくってピンとこなくて置いてそのまま忘れてしまうこともある(待たせてしまったひとはごめんなさい)。早くアップされたからいい Z

COLLECTIVE レビュー #53 dayoung cho 『ㅂㅗㅁ,ㅇㅕㄹㅡㅁ,ㄱㅏㅇㅡㄹ ,ㄱㅕㅇㅜㄹ』(東京都)

20年サイクルで生み出されると言われるファッションの流行の波。確かに少し前まで20代の子たちのあいだで、GAP や POLO を代表する90年代のミドルスクール的なストリートファッションが流行していたように思う。コロナ禍になるとそういったフィジカルなファッションの子が減り、わりとシックでタイトなモードとルーズな古着をミックスさせたようなカッティングエッジなファッションが目立つようになる。音楽活動をはじめた2000年のはじめころ、そういう仲間がたくさんいたように思う。 振り

COLLECTIVE レビュー #52 Nobu Tanaka『みんなの思い出』(東京都)

もう10年以上も前、色の褪せた「レトロ」なことよりもヴィヴィッドでキラキラした「アーバン」なことが求められた時代、デジタルカメラ勢に押され、静かに「製造販売終了」を待つだけだった「写ルンです」を街中のカメラ屋からかき集めて、友人たちと、行く先々のパーティや旅行をひたすら撮影していたことがあった。街の在庫では足らず FUJIFILM の本社に赴き「写ルンですをください」と頼んでみたら「こんなのもう誰も使わないから」とでも言うかのように、たくさんの在庫をくれた。呼吸するかのように

COLLECTIVE レビュー #51 泉はるか『飛行船都市 東の霧の都』(大阪府)

前回の ZINE のレビューで、総合芸術とも称される「映画」みたいな ZINE が好きだということと、いい芸術作品に出会った時に、ぼくはよく「映画みたいだ」と言うようにしていると書いた。実際、映画のように複雑で緻密であるとか、壮大だとか、そういうことで評価しているのではなくて、映画を見終わったあとのような読後感がある作品が好きだという評価基準の話。 その時、比較される「映画」というのは、小説やアニメの実写化のような作りの待望のエンタメ作品ではなく、映画のために原作が書かれ

COLLECTIVE レビュー #50 ヒラヤマメグミ『Blue shadow,Green flower and Girls portrait 』(神奈川県)

ずっと映画が好きで、映画を毎日のように何本も観ていた時があった。映画好きだった母の影響も大きかったと思う。物心ついた時にはビデオテープがなぜかたくさんあって、タイトルも内容もわからないまま映画を見ながら育った。スクリーンがあるわけでもないけれど、小さなボロボロのテレビで、それはやっていた。東京に来る時の夢も「映画監督になる」だったし、いまでも本数は減ったけれど、映画を観ている時はあの頃と同じくらい夢中だ。 そんなぼくが絵や写真などの作品を見る時に大切にしているのが「映画的

COLLECTIVE レビュー #49 奈良都民『奈良都民のおえかき』(東京都)

歴史の先生が生理的に嫌いで、歴史の授業があまり好きじゃなかったという理由で歴史があまり好きではない。そんな僕が NHK の大河ドラマ「鎌倉殿の13人」に、熱中している。源頼朝が、鎌倉に幕府を立ち上げるその前後を描いたいわゆる鎌倉時代の話。できるだけ史実に基づき、人気脚本家で演出家の三谷幸喜が脚本を手がけている作品だ。 毎週日曜日を楽しみに、本作を追っていると、自然と鎌倉時代についての知識が身につき、詳しくなっている。学生時代に解けなかった問題が、今なら解ける気がした。歴史

COLLECTIVE レビュー #48 Atsushi Sen『hollow』(福井県)

前回のレビューで「ZINEって買うって決めた時がピークだよね」と言っていた友人の話をした。帰ってゆっくり読もうと思うことはもちろんあるんだけれど、なかなか帰ったら読まないよねと、話してた。でも、店頭で、ZINE に触れた瞬間に、「ピン」とくることがある。 「持っておくべきだ」 という力が働く。これがほしかったとか、この部分に感動した、とか、そういった心の動きではなく、ほぼ衝動的に、もしくはある種のしたたかな感情をもって、手元にアーカイブしたい、本棚の肥やしにしたいと思

COLLECTIVE レビュー #47 グーシック花里咲『INHERITANCE』(東京都)

友人が以前「ZINEって買うって決めた時がピークだよね」って言っていて、なんかやけに納得したことがある。 買う時がピークというのは、悪くいえば「帰ってからはあまり見返すことはない」ということでもある。ただ、書店やうちみたいなギャラリーや雑貨屋で瞬間的に「感動した」「激しく共感した」、または「ピンときた」りするのだろう。それはレジに持っていってお金を払う瞬間ではなく、「買おう」と「決めた」時がピークだ。 そういうぼくも、あとでゆっくり読もうというふうに買うことはあるけれ