COLLECTIVE レビュー #55 むま / YUKIRI PUBLISHING『バンコクうろうろごはんのこと』(愛知県)
「あなたには人間力が足りないのよ!」
社会人になりたての23歳くらいの頃、つまり仕事をするにも目の前にあることを右から左へ受け流すことだけで精一杯だった頃、サブカルチャーの知識を詰め込んで頭だけが大きくなって<実社会>では何もできないぼくに、ある日、社長が言い放った。仕事のミスが続いていたこともあったと思う。
「3日の休みとおこづかいをあげるからひとりでインドにでも行ってきなさい。」
なかなかないチャンスだと思った。はじめての海外。ひとり旅。
調べてみるとはじめてのひとりインドは少し大変そうだったので、タイにした。ごはんおいしそうだし。社長に「言葉もわからないしツアーがいいですかね?」と聞くと「ありえない!」と一喝された。あたまにぼんやり「人間力」という言葉を思い浮かべながら一路タイへ向かうことになる。
COLLECTIVE ZINE REVIEW #55
むま / YUKIRI PUBLISHING「バンコクうろうろごはんのこと」
名古屋からエントリーしてくれたむまさん(YUKIRI PUBLISHING)による ZINE「バンコクうろうろごはんのこと」のレビューを、タイに思いを馳せながら出張先の名古屋で書いてる。「あの頃はよかった」と誰もが思うビフォーコロナの2019年に、友人たちと向かった「タイ」の旅行をまとめた1冊。いわゆる旅行記。旅の手帖だが、日本でタイカレーを食べながら「タイに行こう!」と誓った日を0日として、最終日、カレーヌードルを食べるまでの4日間の「タイグルメ」の記録の要素が強い。一瞬でタイ料理屋に行きたくなる。
全篇オール手書きなのがいい。文章はもちろん、おいしそうな料理も。時々写真がインサートされるけれど、食べ物やビールはイラスト。とてもおいしそうに描くひとだなと思った。しずる感とかがあるわけじゃないのに、不思議。「好き」なんだろうなと思った。
友人とおしゃべりするみたいな雰囲気の文章も好感がもてる。
日記系の ZINE を読んで思うけれど、よくこんなにいろいろなことを細かく覚えておけるなといつも感心する。逆か、こういう風に、細かなことをたくさん大切に覚えていられる人こそが、その記憶を、熱を放射するかのように書くのだろう。ぼくは初日に食べたごはんすら覚えていない(16年前のことだから無理もない)。
それにしても「食べる」ことが動かす人のエネルギーは偉大だ。ZINE の中、ひたすら食べる、食べる、食べる。バンコクという場所が1つの大きなフードコートのようだ。
おなかがすいてきた。
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あの頃のぼくも、むまさんたち同様バンコクに降り立ったわけだけれどあまりろくにおいしいものにはありつけず(貧乏旅行だったこともあって)、ひたすら炎天下の中をビール片手に歩いて歩いて歩き回ったと思う。「人間力」という3文字を頭に浮かべながら、アユタヤ遺跡で瞑想をして、チャオプラヤー川をくだった。真夜中、野犬に追いかけられて、お金をぼったくられて、安ホテルで心霊現象にもあって思ったのは、
自分の手や体をすみずみまで動かして、自分の目で見て考えて、耳で聞いて感じて、自分の感性でしっかりと選択をすることが大事だということ。自分の中に取り入れ、理解したことだけを信じる。理解していないことをそのままにしない。
それが人間力だと思った。やらされたり、流されたりするのではなく、自分で選択をすることが、生きる力につながるのだということを知った。
コロナ禍で「旅」ができなくてウズウズしてしまってるひとにこそ手に取ってほしい1冊。そして、みんなでこうして思い切り「好き」に向かってダイブすることもまた、人間力を育む1つの手段だと思った。
レビュー by 加藤 淳也
---- 以下 ZINE の詳細とそれぞれの街のこと ----
【 ZINE について 】
2019年10月に友人と3人でバンコクへ旅行したときの旅日記です。特別なことがあったわけではないですが、楽しかった思い出を残しておきたくて制作しました。
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