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COLLECTIVE レビュー #50 ヒラヤマメグミ『Blue shadow,Green flower and Girls portrait 』(神奈川県)

ずっと映画が好きで、映画を毎日のように何本も観ていた時があった。映画好きだった母の影響も大きかったと思う。物心ついた時にはビデオテープがなぜかたくさんあって、タイトルも内容もわからないまま映画を見ながら育った。スクリーンがあるわけでもないけれど、小さなボロボロのテレビで、それはやっていた。東京に来る時の夢も「映画監督になる」だったし、いまでも本数は減ったけれど、映画を観ている時はあの頃と同じくらい夢中だ。
 
そんなぼくが絵や写真などの作品を見る時に大切にしているのが「映画的」であるかどうか。それは「映画」が、文学や絵画、音楽、写真、演劇などの芸術表現はもちろん、政治や歴史、社会的な悲喜交々を含む「総合芸術」であるから、というのもあるけれど、僕の場合もっとライトなもので、映画を見た時の幸福感とか、映画の中の世界観に憧れたりする感じが得られるかどうか、とか、そのくらい感覚的な評価基準になっている。
 
ぼくが使う「映画的」は。1番の褒め言葉かもしれない。
 
COLLECTIVE ZINE REVIEW #50
ヒラヤマメグミ「Blue shadow,Green flower and Girls portrait 」
 
とはいえ、映画と言ってもいろいろある。ハリウッド映画のような派手でドラマチックなファンタジーと小津安二郎作品のような日本映画は対照的だし、明るくわかりやすい映画もあれば、深層心理を描いた複雑な物語もある。個人的には、日常を描いたようなゆっくりとした映画が好き。抒情的でポエティックで、深呼吸をしているような作品。
 
イラストレーターのヒラヤマメグミさんの ZINE「Blue shadow, Green flower and Girls portrait」は、そんな映画のようなワンシーンがたくさん詰まった ZINE だった(タイトルも映画みたい)。大きなドラマは起こらないけれど、暮らしの延長にある1つ1つの細かなディテールが愛しくなるようなタイプの映画。道端の花とか、近くの川とか海とか、衣替えでようやく着れたセーターとか、はるかかなた上空を飛んでいる飛行機のエンジン音とか。それらを一緒に見たり聞いたりする相手や、見たり聞いたりするタイミングや心境によって、いくらでもドラマチックになったりするものだった。都会で忙しくしていると、ついないがしろにしてしまう感覚がゆっくりしずかに、やさしく綴じられている。

印刷以外はすべて手作業で行われているというていねいな1冊がその証拠。あいだに挟まれた半透明のトレーシングペーパーが効果的に、心を動かしてくる。手作りの ZINE ならではの演出だ。
 
意味深なタイトル1つの物語があるのかと思ってめくってみるけれど特に一貫したストーリーがあるわけではなく、説明を聞けば2018年から2020年のあいだに描いた作品のアーカイブでもあるとのこと。自身の過去の作品をまとめる時のさりげなさ、上品さにうっとりした。自分の作品をただアラカルト的に並べるのではなく、自分の作品や世界観の特性を知って、タイトルやテーマを添えることで点から線にして、物語として立体的に見せていく。一見バラバラのものを1つの筋の通った作品に見せる時に必要な作業は、映画の編集作業にも似てる。

よくある A5 でも、横長にすることで、既視感はなくなるし、何よりこの画角も映画みたいだなと思った。
 
ZINE というより1つの作品、それもプロダクトしても美しいインテリアのような作品です。おまけでついてくるステッカーもうれしい。
 
ぜひお買い逃しのないように。

レビュー by 加藤 淳也


---- 以下 ZINE の詳細とそれぞれの街のこと ----

【 ZINE について 】 
2018年から2020年頃の絵を使用し、ミシンで手製本致しました。
自分が大切にしていたい、心の内側の瑞々しさや、前に向かって進んでいく心象風景を表現しました。

タイトル『Blue shadow,Green flower and Girls portrait 』
価格:¥1,500(税込)
ページ数:20P
サイズ:A5

作家名:ヒラヤマメグミ(神奈川県)
横浜美術短期大学グラフィックデザインⅡコース卒業。女性や花などのモチーフを中心に優しく柔らかく描くことを得意とする。
https://hrymmgm-artwork.com
https://instagram.com/megu_hrym
https://mobile.twitter.com/megu_hrym

【 街のオススメ 】
WAIWAI(アジア料理店)… 七沢温泉郷付近にあり、旅人を出迎えてくれるお店。店員さんは皆さんいつもニコニコと素敵な方達です。ランチを WAIWAI でテイクアウトするのが最近の楽しみの一つです。

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