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COLLECTIVE レビュー #51 泉はるか『飛行船都市 東の霧の都』(大阪府)

前回の ZINE のレビューで、総合芸術とも称される「映画」みたいな ZINE が好きだということと、いい芸術作品に出会った時に、ぼくはよく「映画みたいだ」と言うようにしていると書いた。実際、映画のように複雑で緻密であるとか、壮大だとか、そういうことで評価しているのではなくて、映画を見終わったあとのような読後感がある作品が好きだという評価基準の話。
 
その時、比較される「映画」というのは、小説やアニメの実写化のような作りの待望のエンタメ作品ではなく、映画のために原作が書かれ、監督の内側から見える世界でのみ絵作りをしてる作品の場合が多い。10を100にして人気を集める作品ではなく、0から1を生む苦しみに触れている作品だ。
 
ZINE というインデペンデントなメディアだからこそ、0を1にする作業の尊さに触れることができる。例えば作りが粗くても、少し不器用でも、このゼロイチのクリエイティブに触れることができるのが ZINE のよさだということを、改めて認識したい。
 
COLLECTIVE ZINE REVIEW #51
泉はるか「飛行船都市 東の霧の都」
 
今回紹介するイラストレーターの泉はるかさんの ZINE「飛行船都市 東の霧の都」は、0から1を生み出す「そうぞう(想像と創造)」を象徴するかのような1冊だ。レイアウトやデザインの緻密さはもちろん、ハイセンスな印刷のクオリティなどのハード面はもちろん、入念に作り込まれた世界観、コンテクストに詰め込まれた妄想と、ちょっとのユーモアにいたるソフトの部分まで、これこそ「紙上の総合芸術」と言えるような完成度の高い ZINE だ。完成度が高すぎて ZINE と言いたくないというところまで、僕の中では到達している。

新しいジャンルのアートピース。「ゲームブック」という異端なジャンルがあるように、また1つ、新たなプロダクトとしてのカテゴリーがあってもいいように思っている。
 
しかもこの「飛行船都市」というタイトルの作品は、シリーズとして続いているというから驚きだ。今作で4冊目。(昨年はこの「飛行船都市」を説明する案内書=カタログを ZINE にした作品でエントリーしてくれた泉さん。架空の世界「飛行船都市」の存在がまだ記憶に新しい人も多いはず)

4作目も、衰えることなく、泉さんの妄想は爆発。「東の霧の都」と呼ばれる街の都の地図や、東の霧の都の特産品であるお茶などが掲載され、旅行誌のような本になっている。リソグラフで刷られているのも印象的でうつくしい。見ると幸せが訪れるという霧鯨の伝説、霧鯨の鳴き声を収めたレコード、緑だけではなく銀や青にも輝く茶畑などの設定の妙に、思わず興奮。実際、日本でも、茶の名産地は霧に包まれる。2つの大きな山。たくさんの湖。鯨が現れる海。思わず「静岡⁉︎」と叫びそうになったけれど、ここは「東の霧の都」(泉はるかさんは大阪在住です)。本当に読み込めば読み込むほどおもしろい。

ZINE としてではなく1つの壮大な作品として捉えて、向かい合ってみるのをお勧めします。あの頃、どこかに置き忘れてしまった「そうぞうりょく」に出会える1冊です。


レビュー by 加藤 淳也


---- 以下 ZINE の詳細とそれぞれの街のこと ----

【 ZINE について 】 
「飛行船都市」船で空を巡る不思議な世界を楽しんでいただけるオリジナル ZINE です。「飛行船都市」はシリーズとして、世界観を深める ZINE や雑貨を展開しています。ZINE はこちらで4冊目。飛行船都市で行った旅先の都の地図や、東の霧の都の特産品であるお茶などを掲載した旅行誌のような本です。もし自分がここで過ごすとしたら…?とイメージを膨らませていただけたらうれしいです。少しふしぎな世界をご堪能ください*印刷物としても楽しんでいただきたく、全ページ2色刷り・紙の手触りにもこだわって制作しています。

タイトル『飛行船都市 東の霧の都』
価格:¥1,100(税込)
ページ数:20P
サイズ:138*138mm

作家名:泉はるか(大阪府)
イラストレーター。広告・雑誌のお仕事のほかオリジナル ZINE・雑貨の制作販売などで活動中。飛行船都市シリーズ ZINE は既刊4冊販売中。2022/9/30個展開催予定です。
https://izumi-haruka.weebly.com
https://www.instagram.com/haruka11sss
https://izumi-haruka.weebly.com

【  街の魅力 】
下町の雰囲気があり、暮らしやすいです。

【 街のオススメ 】
① カフェ「うさぎとぼく」
② カレー屋さん「げしとうじ」
③ ごはん屋さん「おやちゃい」
… こだわってやられている個人店が多くて、刺激を受けます。

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