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Book(Movie) Review-4:4月になれば彼女は

【カニャークマリ】

人は誰のことも愛せないと気づいたときに、孤独になるんだと思う。それって自分を愛していないってことだから。

ブック(Movie)レビュー 4th
「四月になれば彼女は」
著/川村元気

結婚式を控えた精神科医の藤代と獣医の弥生は、部屋は別々で冷めた関係になっている。このままで良いのか彷徨っている彼の元に、元カノのハルから手紙が届く。過去を振り返り、現在に戻りながら、自身とその周囲の人々の心の本質に辿り着こうとする。ある日、弥生は突然消えてしまい、その理由とハルの今を知った彼は、弥生を連れ戻すためカニャークマリ(インド)に向かう。

著者が映画人なのでとても読みやすいが、その分だけもっと重量感が欲しいと心は強請っていた。映画と小説の距離と、作家性の遠近感が見えてくる。

心の中を覗いた時に見えてくる、ドス黒くて気持ちの悪い何かが奥の奥の壺の中で蠢いていて、その中に己の持つ恐怖が潜んでいる。でも、私たちは視界に入る色んな作られた誘惑のおかげで、向き合う必要性から解放されて、安易に合理的に別の何かで処理する事ができる。しかし、それは先送りであってタイマーはいつか鳴る。この本に引き寄せられたのは、可愛い自分を守りたいがために、意味のない壁を作って、壁の中に逃げ込んでいる事を正当化したかったかもしれない。さっき、昔の辛い話をある人に初めて話してみた。これを言うのに何年かかったのだろう・・・。そんなドス黒い部分を読んでみたかったと思う。なかなかの気持ち悪い人間なんだなっと我ながら思うが...

何も内側に黒い何かを抱える事がなく、何不自由なく自由に欲しいものを声に出せる人たちが、本当に羨ましく思う。今は快適でアプリで合理的にも欲しいものがモノからコトまで手に入る。それでも傷ついてしまう人が多いので、それだけが残念でならない。

実は、この本でカニャークマリを知り、行こうとタイ赴任時に画策したが多忙で挫折、帰国後に画策するも新型コロナウィルス蔓延で挫折した。

個人的に共感できて、共感する人が多いから売れたんだし、共感し合える人が多いんだなと思うとちょっと嬉しい。でも、周囲の反応は割れていて、酷評する人もおり、心が少し痛んだ。

ある人は、哲学の観点から恋愛とこの本を全否定し、言いたいだけ言った後にしばらくして、哲学と小説の批評を餌にセフレを得て、その指南をSNSで書いていた。"旧帝大よりもMARCHがオススメ"っと付け加えて。合理的に考えれば、彼が正しいかも知れないが、人としてクソな気がして、顔はもう見たくない。


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