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タゴール ソングス – Tagore Songs -

一般社団法人 学士会の会誌"NU7"に記載されたエッセイを転載したもので、2020年11月号の原稿です。以下、本文↓

他のエッセイはこちらからご覧ください。


入り浸るカフェがあるのは幸せだ。
会社の帰りに、もしくは休日の夜にコーヒーをカウンターで飲んでいる。ある日、顔なじみの常連が、高校の同級生が映画監督になったと話してくれた。彼女は20代で、その同級生はアジア初のノーベル文学賞を受賞したインド人のドキュメンタリー映画を作ったと言う。興味が湧いて調べてみると、車で1時間半ほどのところにある小さな映画で、次の週末から上映予定だった。

週末の朝は、残酷な腰痛に襲われた。とある勉強会のWeb Meetingでプレゼンをするために、寝不足で準備していたため、腰痛と眠気が画面に映っていた。それでも、Macbookを閉じてRenaultのハンドルに手を添えると、小さな高揚感が湧いた。

コロナ禍で映画館は久しぶりだった。
小さな映画館のスクリーンに映る光景は、とても新鮮で臨場感があった。ベンガル地方の屋台やボロボロのバス、大きな道路に密集する大量の車とバイクは、1年前に見ていたタイにも似ていた。

タゴール ソングスとは、インドの大詩人と言われる”ラビンドラナート・タゴール (印, 1861-1941)”が、生涯にわたり生み出した2000を超える歌の総称で、インドとバングラデシュの国歌も含まれる。
監督は佐々木美佳。東京外大在籍中に映画を撮り、2020年6月から上映が始まって、少しずつ全国へ広まっている。 初監督作品だが、BBCのドキュメンタリーか、海外のアート系またはドキュメンタリー映画と思うだろう。YouTubeの浸透とカメラの進化もあるが、カメラに向かって歌う人や話す人の臨場感とナチュラル感は、監督の優れたコミュニケーションの力を物語っていた。タゴールが紡いだ歌は、今も3億人のベンガル人に宿り、それが映画の柱になっているが、貧富・世代・性別の壁などの社会問題、歴史を超えた様々な人間模様も交差させていた。

20代の若い思いが、大昔のベンガル人作家と今のベンガル地方を映画にした。それを意外と思うのは、私が老いたからかもしれない。実は眠気に負けて数分居眠りをしていた。目が覚めた時、若い男が列車の屋根に座って歌っていた。彼は腰痛にならないだろう。


タゴール ソングス公式サイト


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