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はつゆき。

はじめて雪をみた
生まれて初めて
雪を知った

ボクはその日を忘れない

あんなに大好きな父
新しい家族へと

ボクの手を離し
振り返りもせず
車に乗り込んでいった

運転席の扉が
舞い散る雪を跳ねながら
閉じた

空から舞い落ちる
雪に気を取られ

ボクは見送りもせず
立ち尽くした


叔母がそっと
かがみこんで
肩を抱き
「また会えるからね」

遠くの声に
ボクは頭のすみで
返答してた

ボクは何のために
産まれたの?

母はボクを産むために
命賭した

父はボクが虐待されぬように
ボクを手放した

産まれたボクは
いくつもの「特別」
「特殊」があり
「障がい者」と呼ばれた

美しい母の面影も無く
頭脳明晰な父の遺伝も感じない

父のところで
新しい母に呼ばれた
「悪魔の子」
「劣性遺伝」

多くの人の手を患わせ
たくさんの人に迷惑をかけ続け
世界中の方々に世話になる人生

ボクの産まれた意味
生きる価値はあるのか

ボクの最初の特技は
絵本の言葉をそらんじて
お話しできたこと

園にある絵本のすべての
タイトルと作者
絵本に描かれた言葉を
そらんじた

理由は今もわからない
ただ覚えてるのは
ひとつひとつの絵本の
いわんとする意味を知りたかった

いったい何が伝えたいんだろう

そればかり謎々みたいに
ずっとずーっと考えた

答えは出なかった

もうすぐ1年生になる
春の日に
色に声や匂い温度を感じたり
音が数字や色に感じたり
パソコン画面が記号で見えた

親族には心配をかけ
何度も何度も脳神経外科や
精神科に通った

こんなに辛いのに
「心に異常がない」そう言われた

ボクは庭で遊ぶと
いつも木々や草花の歌のような
音に反応した

近所の公園で
高級ブランドのお洋服の
お友達たちに質問された

「誰もいないのに
誰と話してるの?」

すぐにその子のママが
とんできて
ボクが応える前に連れ去った

ボクに養護学校へ行くように
すすめがあった

行けるなら
どこでもよかった
学びたいただそれだけだった

そして
ボクは医師の勧めで
受験をへて
普通学校へ登校する
形だけで
訓練のため
専門教育者さんのもとで
学んでる

そして気づく
実験台にされている

大人にかこまれて
イジメからは免れた
でも
毎日が試されてる

今もそう感じてる

生かされてる
ボクを調べることが
誰かのためになるなら
それもいい

でもね
どうぞこのボクの
頭髪に降り積もった雪を
「あらあらたいへん!」
そういいながら
払ってほしい

編みそこないのある
不出来なマフラーで
ボクを包み込んで欲しい

気づくと
おばあちゃまが
両手でボクの頬を包み
大きな声で呼んでいた

「ぱこちゃん
寒いからスープ飲む?」

「うんうん。ばあちゃんありがと」

「これはね、初雪よ」

「はつゆき?」

「ことしはじめて降る雪よ」

はつゆき。
ボクの心の中に降り積もる






読了ありがとうございます 世界の片隅にいるキミに届くよう ボクの想いが次から次へと伝播していくこと願う 昨年のサポートは書籍と寄付に使用しています 心から感謝いたします たくさんのサポートありがとうございました