アイルランドの異教的伝承「マグ・トゥレドの戦い」⑨(¶94~¶120)

私が翻訳したアイルランドの異教的伝承「マグ・トゥレドの戦い」(Cath Maige Tuired) をここに掲載していきます。

【前回】

前回は、ダグザが女神モーリーガンと交わったり、フォモーレ族を偵察に行って粥を食わされたり、フォモーレ族の王の娘と交わったりしました。

今回は、戦を前にしてトゥアサ・デー・ダナンが最後の会議をする場面です。


¶94
フォモーレ族は進軍し、軍勢の10分の1がシュケードネの地に着いた。一方エーリゥの人びとはマグ・アウルフォリグ平原にいた。それから二つの軍勢の間は睨みあっていた。
「エーリゥの者共は我々に戦を仕掛けるつもりでしょうか?」とブレス・マク・エラサンはインジェッハ・マク・ジェー・ドウナンに言った。
「やつらに同じものを与えてやろう」とインジェッハは言った、「そして奴らの骨は小さくなるだろう、もし奴らが税を払わないなら」

¶96
エーリゥの人びとの間で話し合いがもたれ、ルグを守るため、彼を戦から遠ざけることが決められた。彼を守るため、彼の9人の養父がやってきた。トルスダウとエフザウとエル、レフディズ・フィンとフォサズとフェズリウィズ、イヴォルとシュキヴァルとミンであった。そして彼らは、彼の技芸の多さのゆえに、その戦士の早世を恐れていた。そのため、彼らは彼を戦に参加させなかった。

¶96
それからトゥアサ・デー・ダナンの貴顕たちはルグのもとに集まった。
鍛冶師のゴヴニュが質問された、戦で神族のためにどんな力を使うのかと。

¶97
「簡単です」と彼は言った。「エーリゥの人びとが戦の中に7年在っても、柄から外れた槍も、砕けた剣も、私がその場で新しくしましょう。私が作った切っ先は、決して狙いを過つことはありません。それが入って行った肌は、それ以降生を味わうことはありません。フォモーレ族の鍛冶師ドルヴにはそんな芸当はできません。私は今マグ・トゥレドの戦の準備で頭がいっぱいです 」

¶98
「そしてお前は? ディアン・ケーフトよ」とルグは言った、「どんな力を使えるのだ?」

¶99
「簡単です」と彼は言った。「戦場で貫かれたどんな戦士も、頭を落とされてさえいなければ、あるいは脳膜や脊髄が切り裂かれていなければ、次の日には私の手によって戦場に全く健康な戦士が立っていることでしょう」

¶100
「そしてお前は? クレーズネよ」とルグは金銀細工師に言った、「お前は戦でどんな力を使う?」

¶101
「簡単です」とクレーズネは言った、「投げ槍の鋲、剣の柄、盾の円突と縁、私はそれらを全員に授けましょう 」

¶102
「そしてお前は? ルフタよ」とルグは木工職人に言った、「お前は戦でどんな力を使う?」

¶103
「簡単です」とルフタは言った、「十分な量の盾と投げ槍を全員に授けましょう」

¶104
「そしてお前は? オグマよ」とルグは戦士に言った、「お前は戦でどんな力を使う?」

¶105
「簡単です」と彼は言った。「敵の王を減らし、その仲間を27人足止めし、エーリゥの者たちのために、戦の3分の1に勝利しましょう」

¶106
「そしてお前は? モーリーガンよ」とルグは言った。「どんな力を?」

¶107
「簡単です」と彼女は言った、「私はしっかりと立ちます。私は見られるものを追います。私は殺せます。私は屈服する者を破壊します 」

¶108
「そしてお前は? 魔法使いよ」とルグは言った、「どんな力を?」

¶109
「簡単です」と魔法使いは言った。「我々が奴らを投げると、奴らの白い踵は見えるようになり 、簡単に殺せるようになるでしょう。そして奴らの力の3分の2を奪い、奴らの尿が体から出ないようにしてしまいましょう」

¶110
「そしてお前たちは? 酌取りたちよ」とルグは言った、「どんな力を?」

¶111
「簡単です」と酌取りたちは言った。「我々は奴らに大いなる渇きをもたらします。奴らはその渇きを埋め合わし癒すことはできないでしょう」

¶112
「そしてお前は? ドルイドたちよ」とルグは言った。「どんな力を?」

¶113
ドルイドたちは答えた「我々はフォモーレ族の顔に火の雨を降らせ、顔を上げられないようにしましょう。そうすれば、奴らと戦っている戦士たちが、その能力を使って奴らを殺せるようになるでしょう」

¶114
「そしてお前は? エスネの息子カルブレよ」とルグは詩人に言った、「お前は戦でどんな力を用いる?」

¶115
「簡単です」とカルブレは言った、「私は彼らに風刺詩を作り、風刺し、辱しめ、そして我が魔術の業によって奴らが戦士たちに抵抗できないようにしてやりましょう」

¶116
「そしてお前たちは? ベー・フレとディアナンよ」とルグは二人の魔女に言った。「戦でどんな力を?」

¶117
「簡単です」と彼女らは言った。「我々は木と石と土に魔法をかけ、武器を持った兵隊としましょう。そして奴らに恐怖と恐慌を起こして敗走に追い込みましょう」

¶118
「そしてお前は? ダグザよ」とルグは言った、「お前は戦でフォモーレ族の軍にどんな力を使う?」

¶119
「簡単だ」とダグザは言った、「儂はエーリゥの者たちのために奴らに裁きを下そう、殴打と破壊と魔術によって。マグ・トゥレドの戦場で二倍の敵に出会えば、奴らの骨は我が戦槌の下で、馬の足に踏み砕かれた数多の雹の欠片となろう」

¶120
それからルグは、このようにして一人一人順番に話しかけていき、彼らを強くし、兵隊に話しかけ、そうして一人一人が王や貴族のような勇気を持つに至った。


【続く】

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