アイルランドの異教的伝承「マグ・トゥレドの戦い」③(¶24~¶32)

私が翻訳したアイルランドの異教的伝承「マグ・トゥレドの戦い」(Cath Maige Tuired) をここに掲載していきます。


【前回】


前回は、神族トゥアサ・デー・ダナンの女神エーリゥが、独り寂しい環境を強いられていたところに、フォモーレ族の王エラサが訪れ、息子ブレスをもうけたという、ブレス王の誕生エピソードでした。

今回は、トゥアサ・デー・ダナンの王となったブレスが、トゥアサ・デー・ダナンの首長ダグザに強いる苦役と、それを救うマック・オーグ神の知略です。


ダグザの苦役とマック・オーグの知略


¶24
トゥアサ・デー・ダナンの間に巻き起こったあの論争の結果、その少年に王権が与えられたのである。そしてエーリゥの(つまり母方の血族の)戦士たちの中から七人の人質保証人をおいた。彼自身の過ちが〔王権を返還すべき事態を〕引き起こしたときの、王権の返還に備えるためである。彼の母はその後、彼に土地を与え、そしてその土地に砦、ドゥーン・ンブレシェ〔ブレスの砦〕を建てさせた。そして、この砦を建てたのは、あのダグザなのであった。

¶25
それからブレスが王権を手にしたとき、フォモーレ族(フォモーレ族の三人の王インジェッハ・マク・ジェー・ドムナン、エラサ・マク・デルバイス、テスラ)がエーリゥに税を求めた。その結果、彼らへの税を課されていないエーリゥの家から、〔炊事の〕煙が上がることはなくなった。また、戦士達が彼らのための労働をした。つまり、オグマは薪の束を背負い、ダグザは砦を建てる身となり、ブレスの砦の土の塁壁を作ったのは彼だった。

¶26
それで、ダグザは労働で疲れて悲しくなり、そして自宅では無為徒食の風刺詩人に会うのだった。その名はクリジェンベールといい、唇が胸に届くほど大きいのだった。クリジェンベールにとって、彼自身の夕食は少なく、またダグザのは多いと感じられた。それで彼はこう言ったのだった。「ダグザ、夕食の最高の三口をください、あなたの名誉のために!」そして、ダグザは毎晩、彼に夕食を分け与えるのだった。しかし実際は、風刺詩人の取り分の方が多いのであった。というのも、その取り分は良質な豚ほどの大きさもあったのだ。さらに、その三口というのは、(それぞれが)ダグザの夕食の三分の一に当たるのだった。そのため、ダグザの外見はだんだん悪くなっていった。

¶27
ある日ダグザは塁壁におり、マック・オーグが向かってくるのを見た。
「ごきげんよう、ダグザ」とマック・オーグは言った。
「お前もな」とダグザは言った。
「どうしてそんなに酷い様子なのですか?」と彼は言った。
「理由がある」とダグザは言った。「風刺詩人のクリジェンベール、やつが毎日儂に(食事を)三口分要求し、それらは儂の食事の中でも最もよい部分なのだ」

¶28
「私にいい考えがあります」とマック・オーグは言った。彼は小袋に手を入れ、そしてそこから金貨を取り出し、ダグザに渡した。

¶29
「今日、クリジェンベールに与える三口の中に、その三枚の金貨を入れてください。そうすれば、それらがあなたの食事の中で最も良いものになり、そしてその金は彼の腹の中にとどまり、その結果として彼は死ぬでしょう。その後、正しさはブレス王にとって都合の良いものとはならないでしょう」
「人びとは王に向ってこう言うでしょう、『ダグザが毒を盛ってクリジェンベールを殺した』と。そうすると王は死を命じるでしょう。あなたは彼にこう言うのです。『フィアンの戦士たちの王よ、その非難は、王の言葉とも思えませんな。彼は私が仕事をするとき、私にねだり、こう言うのです、《ダグザ、夕食の最高の三口をください。今夜の家事は大変だったのだ》と。もしあの三枚の金貨が私を助けなければ、私は死んでいた。私はそれらを食事の中に入れた。そしてそれをクリジェンベールに与えた、なぜならば、それら、すなわち金が、私の目の前にあった、最も良いものだったからだ。それで、その金貨はクリジェンベールの中にあり、彼はそのために死んでしまったのだ』と」

「それは明らかなことだ」とブレス王は言った。「風刺詩人から胃を取り出して、そこに金貨があるかどうか見るのだ。もし見つからなければ、お前は死ぬ。しかし、もし見つかったら、お前は命を拾う」

¶30
そして、風刺詩人から胃が摘出され、そして三枚の金貨がその腹の中から見つかり、ダグザは助かった。

¶31
そして翌日、ダグザは仕事へ行き、彼のところへマック・オーグが来て、こう言った。「あなたの仕事が終わるまでもうすぐです。そして、エーリゥじゅうの牛があなたのところに連れて来られるまで、〔仕事に対する〕支払いを求めてはいけません。そして、その群れの中から、褐色の毛の褐色の一歳仔の、よく訓練された、元気いっぱいな雌牛を選ぶことです」

¶32
それから、ダグザは仕事を最後まで終え、ブレスは彼に、労働の対価に何が欲しいか聞いた。ダグザは答えた「あなたがエーリゥじゅうの牛をひとところに集めることを求めます。」王は彼が言った通りにし、(ダグザは)マック・オーグが言った通りに、その群れの中から一歳仔の雌牛を選んだ。それはブレスには馬鹿馬鹿しく思えた。ダグザはもっと良いものを選ぶべきだったと、彼は思った。


【続く】

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