アイルランドの異教的伝承「マグ・トゥレドの戦い」②(¶15~¶23)
私が翻訳したアイルランドの異教的伝承「マグ・トゥレドの戦い」(Cath Maige Tuired) をここに掲載していきます。
前回は、神族トゥアサ・デー・ダナンがエーリゥに来寇し、フィル・ボルグ族を倒し、フォモーレ族と盟約を交わしたものの、神族の王ヌァザが負傷したため、フォモーレ族の父とトゥアサ・デー・ダナンの母との間に生まれたブレスが後を襲ったことが語られました。
今回は、ブレスがいかにして生まれたかが物語られるエピソードです。
ブレスの誕生
¶15
ブレスは以下のようにして生まれた。
¶16
ある日、彼らの一員のある女が、マイス・シュケーニの家から、海と浜を見つめていた。エーリゥ・インゲン・デルバイス〔デルバイスの娘エーリゥ*1〕である。まるで滑らかな板のように、海が完全に凪いだのを、彼女は見た。その後、そこにいるあいだ、彼女は何かを見た。その海から、銀の器が現れたのである。それは彼女には大きく見え、しかしその形はおぼろにしか見えないのであった。そして海の波がそれを浜辺に押し上げているのだった。
そして彼女が見たのは、この上なく美しい男だった。肩まで流れ落ちる黄金の髪。二本の金糸が入った外套。金糸の刺繍がされた胴着。胸の上で外套を留めている、貴石の嵌った、輝く金のブローチ。二本の輝く銀の槍の穂先と、それらに刺さった、鋲を打たれ光沢を放つ青銅の柄。首の周りの五つの金の頭環。黄金の柄を持つ、銀の象嵌が施された、中央部が黄金の刀身を持つ剣。
¶17
その男は彼女に言った、「あなたと同衾してもよろしいだろうか?」
「私はあなたと密会の約束をしていませんが」と女は言った。
「約束なしに来たのだ」と彼は言った。
¶18
それから彼らは体を広げた〔=寝そべった〕。男が再び立ち上がった時、女は泣いた。
「なぜ泣く?」と彼は聞いた。
「私が嘆くのは二つのことのためです」と女は言った。「こうしてあったにもかかわらず、あなたと別れねばならないこと。トゥアサ・デー・ダナンの若い男たちの、私をものにせざること、私の良き祈りの後にも関わらず、そしてあなたが私をものにしたことにも関わらず」
¶19
「その二つのことに対するあなたの不安は取り除かれるだろう」と彼は言った。彼は金の指輪を中指から引き抜き、彼女の手に握らせ、指にぴったりはまる人以外には、誰にもそれを売ったりあげたりして手放すことのないよう言った。
¶20
「もう一つ、心配があるのです」と彼女は言った。「私のところにいらしたのがどなたなのか、存じ上げないのです」
¶21
「そのことは、あなたに知られないままではないだろう」と彼は言った。「あなたの元へ来たのは、エラサ・マク・デルバイス、フォモーレ族の王だ。我々の逢瀬で息子が生まれ、そしてその子には、『エオフ・ブレス(すなわち美しいエオフ)』以外の名前を付けてはいけない。なぜなら、エーリゥにみられるあらゆる美しいもの――平原と、砦と、エールと、灯りと、女と、男と、馬と――は、その息子と比べることで審美され、そしてそのとき『それはブレスだ〔美しい〕』と言われるからだ」
¶22
それから男は戻っていき、女もその家を出た。そして、かの有名な息子を受胎した。
¶23
それからその息子は産まれ、エラサが言った名前、つまりエオフ・ブレスと名付けられた。女の産褥が終わってから七日の後、その男の子は二週間の成長をしていた。そして七年が過ぎると、十四年の成長をした。
*1 : エーリゥとは、アイルランド語でのアイルランドの名前であり、故に地母神であると考えられる。
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